中国向け越境EC構築のポイントと実現する3つの方式とは?


日本に来る中国人観光客の”爆買い”が騒がれている中、日本のEC事業者においてもこれをビジネスチャンスと捉え、中国人向けに越境ECを実現させ、中国のマーケットを取り込みたいという声はよく聞きます。下記記事によると2012年の中国の方が日本から越境ECで購入している額が1199億円から2014年には6064億円に達しました。さらに2018年には1兆3000億円になると言われており、この巨大なマーケットを見逃す手はありません。

引用記事:中国人の消費行動と越境EC市場規模について

では、あなたの会社の自社ECサイトを中国語対応すれば、越境ECを実現できるのかと言うと、そんなに簡単な話ではありません。

なぜならAmazonでさえも、中国市場においては自社ポータルサイトだけではなく競合するアリババグループの「Tmall(天猫)」に店舗を出店しており、Amazonポータルへの中国人ユーザーの誘導に成功していないのです。それくらい自社サイトでの中国市場の展開は難しいのです。

引用記事:アマゾン、競合アリババの「Tmall」に出店–中国進出の難しさ示す

では、なにがそんなに困難なのでしょうか?中国向けECサイトを実現するには中国語対応以外に下記のポイントを考慮する必要があるからです。

ポイント1:中国向けのサイト構築と集客
ポイント2:中国人向け問い合わせ対応
ポイント3:中国人向けのEC決済システム
ポイント4:中国の物流

これらを4つのポイントを踏まえた上で、越境ECを実現させるには3つの方式が存在します。本日はその理由を4つのポイントを解説した上で、越境ECを実現する3つの方式をインターファクトリー(ebisumart)でWEBマーケティングを担当している筆者が解説いたします。

目次

ポイント1:中国向けのサイト構築と集客
ポイント2:中国人向け問い合わせ対応
ポイント3:中国人向けのEC決済システム
ポイント4:中国の物流
中国向け越境ECを実現する3つの方式
最後に

ポイント1:中国向けのサイト構築と集客

越境ECを実現するには、まずはECサイトを構築する必要があります。その場合サーバーを「①中国に置くケース」と「②日本に置くケース」の2つが物理的には考えられますが、どちらのケースも困難です。

①中国にサーバーを置いて、中国人向け越境ECを構築する。

結論から言うとこの方式は限りなく不可能です。中国のサーバーで営利目的のサイトを構築するには、中国工進部(日本の経済産業省にあたる政府機関)に「営利ICPライセンス」を取得しなくてはなりません。しかし、この「営利ICPライセンス」取得には下記の条件が必要になってきます。

①中国法人の設立
②中国に銀行口座を開く
③3000万円の初期投資が必要

特に①は日本企業のみでの中国法人の設立は不可能であることからも、中国のサーバーで越境ECを構築するには敷居が高すぎるのが現状です。

②日本のサーバーに中国人向け越境ECを構築する

この方式なら、すでに持っている自社サイトを中国語対応するだけで越境ECを実現する事が可能のように思えるかもしれませんが、問題があります。2016年現在、中国国内の検索エンジンではGoogleは規制を受けており使えない点です。BAIDU(百度)をはじめとした中国の検索エンジンが中国検索市場で97%以上のシェアを占めております。

つまり日本にサーバーを立てて従来のGoogle向けのSEO対策をしても全く効果がありません。それどころかインデックス(例:貴社EC名で検索しても検索結果に出てこない)される保証もありません。中国で最もシェアが大きいBAIDO(百度)では、SEOに重視する項目として先に説明した、ICP番号登録の有無を重要視しているため、この番号は原則中国国内の企業のみに発行される番号であり、日本のサーバーで中国語で展開してもSEOによるWEB上の集客は不可能です。

ただし、日本からでもBAIDO(百度)のリスティング広告を出稿する事は可能です。日本の代理店でもBAIDOのリスティング広告サービスを行っている会社が複数あります。しかしその場合、WEBの集客がリスティング広告のみとなると、コストが高くなり現実的ではありません。また代理店各社がどこまでBAIDO(百度)リスティングのノウハウを持っているかも未知数です。

以上の事から、中国人向けのサイト構築がいかに困難か理解していただけたと思います。さらにそれだけではなく、中国市場におけるECサイトの集客の難しさもあります、次の項でそれを説明いたします。

中国人の商品行動検索はモール内検索をする傾向が強い

日本人は何か欲しい商品がある時は、まずGoogleやYahooで商品名を検索する行動が一般的です。しかし中国人はまずは2大モール(TmallかJD.com)に行き、そのモール内で商品を検索する行動が一般的です。この2大モールが中国マーケットのシェアの約8割を占めており、この辺の事情も自社ドメインを用いた日本企業が未だ中国市場でECを成功できていない大きな原因にもなっています。

つまり、自社ドメインでの中国向け越境ECの構築及び集客は困難なのです。

ポイント2:中国人向け問い合わせ対応

中国人向けのECに欠かせないのはサポート体制の構築です。中国は偽物やコピー商品が大量に出回っている経緯があり、中国人も偽物製品に騙されないようにECでの購入には特に慎重になっています。こういった背景が中国人は他の国と比べても、問い合わせ件数が多い要因になっています。

そこで中国で主流の問い合わせ方法は「チャットによる対応」です。ここで言う「チャット」のシステムをご存知でしょうか?WEBを見ている時に、いきなりPOP画面が表れて「ご質問があれば、担当の者がお伺いいたします」という画面を見た事はないでしょうか?中国ではこういったWEB上のチャット対応が一般的で、ECでの購買の際にチャット問い合わせをした事があるという中国人の方は9割を超える程です。

日本ではBtoCのチャットサポート対応はあまり消費者に受け入れられておらず、電話かメールによるサポート対応がメインです。ではなぜ中国ではチャット対応が主流なのでしょうか?

それは中国には偽物が多く出回っており、もし買った商品が偽物と判明した場合に、チャットだとログが残るため、それを証拠として店舗側に返品要求をする事ができるため、中国の商習慣にマッチしているのです。

こういった背景が、中国人に問い合わせが多い理由でもあります。しかしこれはポジティブにも捉えることができます。逆にチャット問い合わせを用意した方が、その後の購買率が高くなるというデータがあるからです。

つまり、中国人向け越境ECの構築においてはチャット対応などのカスタマーサービスを欠かす事はできないのです。

ポイント3:中国人向けのEC決済システム

日本での通常の決済方式といえばクレジットカード決済ですが、中国ではクレジットカードが普及していません。クレジットカードは中国では不正行為によるハッキング被害が多いという背景があり、クレジットカードは普及していません。ではどのような決済方式が中国では主流なのでしょうか?

中国で最も支持されているオンライン決済方式は「タオバオ(淘宝)」のアリペイ(支付宝)による決済です。その仕組みは中国の独特な商慣習にもとづいております。では下記にアリペイの仕組みを説明いたします。

アリペイの仕組み

①中国人ユーザーがとあるモールの店舗で決済をアリペイで商品を購入します
②中国人ユーザーがアリペイにある口座から商品分の料金が凍結(凍結後料金は動かせない)します。
③アリペイがモールの店舗に連絡「料金の凍結」を通知します。
④モールが中国人ユーザーに商品を送付します。
⑤中国人ユーザーが商品を受け取り、アリペイに連絡「商品受領の連絡」を行います。
⑦アリペイがモール側に商品料金を送付します。

という仕組みになっております。

このような決済の方式が主流な理由も中国には偽物やコピー商品が大量に出回っているため、通常の決済方式だと偽物が送られてきても、消費者は決済してしまった後なので、どうする事もできません。しかしアリペイのような「第三者支払いプラットフォーム」があれば商品を確認してから支払う事ができるのです。

日本の決済会社にもアリペイと提携している会社がありますが、現段階ですとアリペイの「第三者支払いプラットフォーム」的な決済方法ではなく、通常の与信でお金を払う決済方式なのです。ですから、まだ日本企業が「第三者支払いプラットフォーム」的な決済方式としてのアリペイを使う事はできないため、中国人の方は決済に抵抗感があると思います。

では次にアリペイ以外の中国で有名な決済方式を説明いたします。それは銀聯(ぎんれん)です。

銀聯(ぎんれん)決済とは?

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銀聯とは英語ではユニオンペイと呼ばれております。仕組みは日本で言うところの「デビットカード」と仕組みは同じで、決済時に銀行口座の人民元から商品の料金が引かれる仕組みです。銀聯カードは15億枚も発行されており、中国で主要な決済方法の一つです。

銀聯はオンラインより、リアルでよく使われる決済方式です。爆買いのように実際に中国の方が日本の実店舗で商品を確認した上での決済には向いていますが、銀聯の弱点はセキュリティーを高めているゆえに利用時にユーザーにとって面倒な点です。

こういった理由から、オンライン決済にはあまり向いていません。

 

オンライン決済となるとやはりアリペイ決済方式ですが、アリペイ決済方式を採用しても、従来の「第三者支払いプラットフォーム」という決済方式としての強みが使えず、通常の与信による現金払いになってしまう事から、アリペイの”看板”は使えるのですが、どこまで中国人ユーザーの信頼がつかめるかが難しいところです。

ポイント4:中国の物流

中国国内の物流コストは高いです。少し前のニュースですが「中国のスターバックスコーヒーはアメリカより高い!不当に高い値段をつけている」というニュースが中国でありましたが、それに対するスターバックスの見解は「中国国内のコーヒー豆の流通コストが高くついてしまうためだ」という趣旨の回答をした事がニュースになりました。

引用記事:「スタバは暴利を貪っている」と中国メディアが非難、しかし価格上昇の理由は中国の複雑な「流通コスト」だった!?

この事からも、中国国内の物流の仕組みは複雑で、また規制も多いためコストが高くついてしまう事がわかります。しかも中国国内でも地域ごとに仕組みや規制は異なるため、中国国内での物流にはどうしてもコストと配送時間がかかってしまうのです。

中国向け越境ECを実現する3つの方式

ここまで読み進めていただいた読者には、中国向け越境ECの自社での構築の難しさが理解いただけたと思います。しかし、あきらめる必要はありません。中国向け越境ECには3つの方式があります。松竹梅に例えてご説明いたします。

松方式:自社ドメインでの中国向け越境EC(自社集客が可能な場合に限る)

もし、貴社の日本の実店舗がすでに、爆買い等で多くの中国人が訪ねてきているのであれば、リアルの接点から集客が可能ですから、メールアドレスを取得し直接自社越境ECの会員にする事が可能です。またその会員はすでに現実の商品や店舗・サービスを肌で感じているので、ECサイトに対して信頼感もあるはずです。

※下記は旅行で日本に訪れた中国人向けの銀座のお店マップとパンフレット。すでに認知のある店舗には自社ドメインが有効になります。

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このように中国人をすでに集客できる環境が整っている場合に限り、自社ドメインでの越境ECは有効です。この「松方式」が本日紹介する方式の中で、”導入コスト”と”導入の手間”が最もかかる方式になります。

竹方式:中国の二大モールへの出店(Tmall(天猫)かJD.com(京東商城))

中国の二大モールへの出店する事でWEB集客は可能になりますし、両モールとも、日本企業専用の売り場を整備するなど、新たな加盟店参加へ積極的です。またモールへの出店をサポートする代理店もあり、そういった会社は事前調査、店舗運営からプロモーションを行っており、さらには中国の倉庫会社と提携した物流スキームがある会社もあり、今後も最も日本の企業の参入が増える方式です。

梅方式:「BuySmartJapan」や「転送コム」などの転送サービスを利用した越境EC

最も少ない予算ですぐできる越境ECとは「BuySmartJapan」や「転送コム」といった転送サービスを利用する方式です。各社特色や違いがありますが、簡単に導入からユーザーが注文するまでの流れを説明すると以下の3ステップです。

①貴社サイトに転送サービスのタグを設置する。
②海外IPのアクセスのみ、中国語・英語等で”転送サービス”のバナーを表示させる。
③バナーをクリックすると中国語・英語等のフォームで”転送サービス”の会員登録あるいは商品の購入代行申請を行う。

という流れです。つまり転送サービス会社が、商品の購入を代行し、ユーザーまで発送を請け負うサービスです。またこういったサービスは海外からの問い合わせ対応もしている会社もあるので、中国人ユーザーを含めて海外からの注文を丸投げする事も可能です。

ただし、このサービスは中国向けサービスにおいては、松コース同様に集客が自社で行えることが前提ですから、すでに中国人ユーザーが日本の実店舗に訪問している、あるいは集客を自社でできるという場合に有効です。この梅方式は導入コストや手間が最もかからない方式です。

最後に

2016年1月にこの記事を書いておりますが、まだ多くの企業は中国向けの越境ECについては検討・調査しているものの実施に向けている企業は少ないのが現状です。越境ECの実現は簡単ではありませんが、越境ECの出店サポートを行なう企業が続々と増えてきておりますし、中国のモールも日本企業の出店を歓迎しており、今後も中国への越境ECの展開への敷居は下がり、多くの日本企業が参入して行くことでしょう。


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。