【最新版】百貨店ECの販売額と大手5社のEC事例を徹底解説


百貨店業界の年間販売額は、1991年の約12兆円をピークに下がり続けており、2020年にはコロナ禍の休業要請により一気に4.6兆円にまで落ち込みました。2021年からは回復傾向にありますが、直近の2022年は約5.5兆円と、ピークの半分を大幅に下回っているのが現状です。

出典:経済産業省「商業動態統計|時系列データ

百貨店業界は、競合の台頭やデジタル技術の進化などの外的環境の変化により、百貨店各社もまた、従来のビジネスモデルを変革する必要にせまられており、EC化にも積極的に取り組んでいます

Amazonや楽天などのECモールが登場したことで、「百貨店に行けば何でもそろう」という、かつての専売的な強みを失った今、百貨店業界が再び成長を遂げるためには、百貨店ならではの顧客体験を再定義し、店舗とECをはじめとするあらゆる顧客接点で提供していく方法を追求し、実現することが重要です。

この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、百貨店業界の販売額の推移とEC利用について解説します。

百貨店業界の2022年の販売額は約5.5兆円、1991年のピーク(約12兆円)の半分を大きく下回る

以下は、1980~2022年までの百貨店の販売額の推移を示したグラフです。

◆百貨店の年別販売額の推移(1980~2022年)

百貨店の年別販売額の推移(1980~2022年)

出典:経済産業省「時系列データ|商業動態統計 」より筆者作成

百貨店の年間販売額は、1991年をピーク(約12兆円)に、多少の上下動はあるものの年々減少しています。2020年には、コロナ禍の外出自粛や休業要請の影響により一気に4兆円台にまで落ち込みました。

2021年からは回復傾向に転じ、客足も戻ってきた2022年には5.5兆円の販売額となりましたが、それでもピークの半分を下回っています。このような背景には、以下のような理由が関係しているのではないかと筆者は考えています。

◆百貨店業界の販売額が回復しない要因

・専門小売店の台頭
・インターネットとスマートフォンの普及によるEC利用の拡大
・消費者のライフスタイルとマインドの変化
・百貨店ならではの強み(特別な顧客体験)の訴求力の低下

特に「専門小売店の台頭」と「インターネットとスマートフォンの普及によるEC利用の拡大」について解説します。

専門小売店の台頭

1980年代頃から登場した専門小売店は、あっという間に百貨店の脅威となりました。

例えば、軽衣料の「ユニクロ」「しまむら」、紳士服の「洋服の青山」、家電の「ビックカメラ」「ヨドバシカメラ」「ヤマダ電機」などの価格と価値のバランスを重視した専門小売店、多岐にわたるスポーツ用品を取りそろえた「スポーツオーソリティ」などのスポーツ用品専門店、若者をターゲットとした「BEAMS」「SHIPS」「UNITED ARROWS」といったセレクトショップなどが拡大戦略を進めるにつれ、百貨店は苦境に追い込まれていきました。

参考:ダイヤモンド・オンライン「なぜ、「百貨店」は衰退したか?」(2016年1月4日掲載)

インターネットとスマートフォンの普及によるEC利用の拡大

インターネットとスマートフォンが普及したことで、現代の消費者はオンラインショップを利用して、いつでも手軽に欲しいものを手に入れることができるようになりました。百貨店市場の衰退とは反対に、国内のBtoC物販におけるEC市場は伸長し続けています

百貨店単独のEC化率のデータは公開されていませんが、百貨店大手5社の決算資料から筆者が算出したEC化率は以下となっています。

◆百貨店大手5社のEC化率

高島屋:4.2%
三越伊勢丹ホールディングス:3.9%
J.フロント リテイリング株式会社(大丸松坂屋百貨店):2.4%
エイチ・ツーオーリテイリング株式会社(阪急百貨店):1.7%
株式会社近鉄百貨店:3.5%

データ引用:株式会社高島屋「2023年2月期(2022年度)決算説明会資料」(2023年4月14日発表)、株式会社三越伊勢丹ホールディングス「2023年3月期(22年度)決算説明会」(2023年5月9日発表)、J.フロント リテイリング株式会社「2021年2月期 決算および 2021~2023年度中期経営計画 説明会」(2021年4月13日発表)、エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社「2023年3月期 決算説明」(2023年5月22日発表)、株式会社近鉄百貨店「2022年2月期 決算説明資料」(2022年4月12日発表)の数値をもとに筆者が算出
*EC化率=EC事業の売上÷全体の売上高

上記5社のEC化率は1~4%台とばらついているものの、BtoC物販市場の平均EC化率(9.13%)※と比べると、百貨店市場のEC化は大きく後れを取っている現状が分かります

百貨店業界の再興には、「百貨店ならではの強み」を生かしたECを確立することが急務と言えるでしょう。

※出典:経済産業省ニュースリリース「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2023年8月31日発表)

百貨店ECの強みはギフト用途

百貨店業界の強みのひとつに「高級感」があります。各百貨店のECサイトでも、お歳暮やお中元、祝い用のギフト商品を中心に展開されています。

百貨店大手5社が運営するECサイトをそれぞれ見ていきましょう。

① 高島屋オンラインストア

大手5社の中でEC化率が最も高かった(4.2%)高島屋のサイトです。高島屋では、スマートフォン向けECサイトに特に力を入れています

◆高島屋オンラインストア(スマートフォン画面)

高島屋オンライン

引用(画像):高島屋オンラインストア

下記のネットショップ担当者フォーラムの記事によると、スマートフォンのサイト設計に力を入れていると書かれております。

参考:ネットショップ担当者フォーラム|通販新聞ダイジェスト「高島屋の通販戦略とは?――EC事業部のバイヤーによるネット専用商材の開発、専用在庫の確保、倉庫改修」(2022年8月22日掲載)

高島屋オンラインストアのスマートフォン向けサイトでは、下にスクロールするとヘッダーメニューを非表示にしてメインコンテンツの表示域を広げるなど、各ページのメインの情報を見てもらうための工夫が施されています

また、例えば「RANKING/カテゴリー別ランキング」など、英語表記と日本語表記をセットで表示するなど、幅広いユーザーがサイト内容を理解できるよう細部にもこだわったUIを設計していることが分かります。

② 三越伊勢丹オンラインストア

高島屋に次いで高いEC化率(3.9%)となった三越伊勢丹では、ECとアプリを強化するとともに、情報発信にも注力しています。

◆三越伊勢丹オンラインストア(スマートフォン画面)

三越伊勢丹オンラインストア

引用(画像):三越伊勢丹オンラインストア

三越伊勢丹_サイト切り替え

出典(図):「三越伊勢丹オンラインストア」のキャプチャを引用し、筆者加工

ヘッダー内の「買う」「読む」ボタンを押すことで、ショッピングサイトとメディアサイト(「三越伊勢丹マガジン」)を切り替えて表示できるようにしています。

基本的にECサイトを訪れるのは、もともと購入意欲が高いユーザーです。そのため、商品だけでなく情報を起点としたユーザー層を取り込むためにも、自社のさまざまなサイトをワンタップで行き来できる仕組みは効果的です。

③ 阪急百貨店オンラインストア

阪急百貨店では、個別に運営していた複数のメンズラインのオンラインストアを統合するなど、OMO戦略に力を入れています。以下は阪急百貨店の公式オンラインストアの画面です。

◆阪急百貨店オンラインストア(スマートフォン画面)

阪急百貨店オンラインストア
阪急百貨店_会員登録バナー

引用(画像):阪急百貨店オンラインストア

同社のECサイトでは、会員ログインをしていないユーザーに対し、「初めての方はこちらをチェック【ご利用案内ページへ】」というバナーを表示することで、会員登録を促しています

また、店舗とオンラインストアの両方で同じように利用できるポイントサービスの訴求バナー(下図)を配置するなどし、主に店舗をよく利用しているユーザーに向けて、ECの利用を促進するための工夫も見られます。

◆ポイントサービスの訴求バナー(阪急百貨店オンラインストア)

阪急百貨店_ポイント訴求バナー

引用(画像):阪急百貨店オンラインストア(ページ下部)

④ 大丸松坂屋オンラインストア

大丸松坂屋百貨店では、2012年3月に、大丸と松坂屋が別々に運営していたオンラインサイトを統合し、現在の「大丸松坂屋オンラインストア」を運営しています。

またYouTube広告にも注力しており、効果検証にも積極的に取り組んでいます。実際に、テレビショッピング風の長めの動画を配信してみたところ、30秒以上の視聴率は16%となっただけでなく、ECサイトでの売上も直近の他の企画と比較して158%増(2.58倍)を記録したそうです。

参考:Web担当者フォーラム「YouTube広告活用でEC売上が2.58倍! 大丸・松坂屋が取り組んだマーケティング施策」(2022年5月13日掲載)

同社では2017年から自社メディアのDX化に取り組んでおり、折り込みチラシをYouTube広告に置き換えるために、デジタル広告の効果検証を重ねています

◆大丸松坂屋オンラインストア(スマートフォン画面)

大丸松坂屋オンラインストア

引用(画像):大丸松坂屋オンラインストア

大丸松坂屋オンラインサイトのトップページには、スペシャルバナーが多めに配置されており、カテゴリー表示などから能動的に情報を探したいユーザー向けというよりも、キャンペーンや商品バナーなど自社が自信を持っておすすめする情報を発信することをより重視している印象があります。

実際に筆者も利用してみたところ、いろいろな情報が鮮やかな写真とともに目に入ってくるので、まるで百貨店を歩き回っているような気分になりました。大丸松坂屋オンラインストアでは、「今日は何があるかな?」という、百貨店の催事ならではの「わくわく感」を体験することができます。

⑤ 近鉄百貨店ネットショップ

ECサイトの多くが名称に「オンラインサイト」を採用している中で、あえて「ネットショップ」と名付けているところに、筆者がオリジナリティーと強い意思を感じてしまうのが、「近鉄百貨店ネットショップ」です。

◆近鉄百貨店ネットショップ(スマートフォン画面)

近鉄百貨店ネットショップ

引用(画像):近鉄百貨店ネットショップ

同社は、コロナ禍にアプリを使った宣伝・告知を強化したことで、お中元を購入するユーザーの取り込みに成功し、2020年5月8日~8月4日までのEC企画の売上で、前年同期間比36.6%増を達成しています。

参考:日本ネット経済新聞「近鉄百貨店、お中元の通販売上が前年比36.6%増 コロナで顧客がネットに流入」(2020年8月26日)

近鉄百貨店ネットショップでは、「近鉄のお歳暮」「近鉄のおせち」「近鉄の福袋」など、近鉄ブランドを前面に打ち出した訴求が多い印象です。特に関西エリアでは絶大なブランド力を持つ同社だからこそ、繰り返しかつ強めの訴求が、店舗とECの両方のユーザーにストレートに届いているのではないでしょうか。

百貨店EC(ギフトEC)の代表的な5つの機能

百貨店の主軸であるギフト用途のECシステムでは、以下の5つの主要な機能が必要になります。

◆ギフトECに必要な5つの機能

機能① 複数配送先機能
機能② アドレス帳機能
機能③ ラッピング機能
機能④ 熨斗(のし)機能
機能⑤ 名入れ機能

各機能の詳細については関連記事に掲載していますので、あわせてご覧ください。

関連記事:ギフト向けECサイトに必要な5つの機能をECのプロが徹底解説

まとめ

企業の統廃合も進む百貨店業界を立て直すためには、百貨店ならではの顧客体験を再定義し、店舗とECのあらゆる顧客接点で提供することが重要になります。

ひと昔前であれば、「百貨店に行けば必要なモノがひと通り手に入る」ことが消費者にとっての魅力でした。しかし今日では、楽天市場やAmazonなどのECモールで世界中の商品を手に入れることができ、百貨店独自の強みとは言えなくなりました。しかし、百貨店に対する「特別感」や「高級感」、「信頼感」といった消費者の印象は、まだ失われていない、と筆者は思っています。

百貨店がこれまで培ってきた素晴らしい顧客体験のノウハウを、ECで実現するための方法を追求することで、百貨店事業の新しい様式を切り開いていけるのではないでしょうか。


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。