PtoCとは個人が企画した商品を直接ユーザーに販売すること


PtoC(あるいはP2C)は、「Person to Consumer」の略で、個人が企画・開発した商品やサービスを消費者に直接販売するビジネスモデルです。昨今の典型的なPtoCとしては、SNSで多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーが独自ブランドを立ち上げ、SNSを介して商品を販売するという方法が挙げられます。

EC運営で最も困難な課題の一つに「集客」がありますが、SNSのインフルエンサーであれば、すでに集客力と影響力を十分に持っているため、独自ブランドを立ち上げて魅力的な商品を提供することで、すぐにヒット商品を生み出せる可能性があります

商品の企画・開発に加え、ECの仕組みと配送方法の整備が必要にはなりますが、すでに活躍しているフィールドを利用して短期間で売上を獲得できるSNSとECによるPtoCはとても魅力的なビジネスです。

この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、SNSを活用したPtoCについて解説します。

SNSを活用したPtoCの5つの成功事例

まずは、SNSで人気の芸能人やインフルエンサーによるPtoCの5つの成功事例を見ていきましょう。

事例① 宇野実彩子さん(AAA)がプロデュースするコスメブランド「U/CHOO」

U_CHOO

「U/CHOO(ユーチュー)」は、現在は活動休止中の人気グループ「AAA(トリプル・エー)」のメンバーで、現在はソロアーティストとして活動している宇野実彩子さんがプロデュースしたコスメブランドです。宇野さんは美容通としても有名で、美容関連の記事も雑誌に掲載されています。

「U/CHOO」のリリース前には、90万人を超えるフォロワーを持つInstagramアカウントで商品ビジュアルなどのPR記事を投稿して話題を呼んでいました。2022年1月の販売開始後には注文が殺到し、同年2月時点で初動ECおよび初期出荷分の販売個数20万個を突破したそうです。

参考:「U/CHOO(ユーチュー)」、Direct Teck公式ニュースリリース「AAA宇野実彩子プロデュースコスメブランド『U/CHOOが初動EC及び流通初期出荷分の販売個数が20万個を突破いたしました。」(2022年2月2日発表)

事例② 菅本裕子(ゆうこす)さんがプロデュースするスキンケアブランド「YOAN」

YOAN

HKT48の元メンバーで、現在はYouTuberとしても活躍している「ゆうこす」こと菅本裕子さんが手掛けるスキンケアブランドです。2018年9月にリリースしたスキンケアブランド「youange(ユアンジュ)」を、2021年にリブランディングしてリリースされた「YOAN(ユアン)」は20代の女性に支持されています。

ゆうこすさんがInstagramやYouTubeチャンネルで紹介した商品はすぐに完売してしまうそうで、強い影響力を備えたブランドと言えるでしょう。

参考:「YOAN(ユアン) ONLINE SHOP

事例③ ヒカルさんが創業したアパレルブランド「ReZARD」

ReZARD

「ReZARD(リザード)」は、大人気YouTuberのヒカルさんが、「ハイブランドと同じ着心地の服をハイブランドよりも圧倒的に安く」というコンセプトで立ち上げたアパレルブランドです。

同様に「良いものを安く届ける」というコンセプトでコスメラインの「ReZARD beauty」、スポーツラインの「ReZARD Sports」も展開しており、発売商品がすぐに完売してしまうほどの人気ぶりです。

YouTubeチャンネルで新作商品のPRを投稿するなど、500万人近いフォロワーを抱えるヒカルさんならではの強みを生かしたビジネスモデルですね。

参考:「ReZARD(リザード)

事例④ メンズファッションインフルエンサーMBさんのオリジナルブランド「MBブランド」

MBbrand

「MBブランド」は、男性向けファッションインフルエンサーとしてブログやYouTubeで活躍するMBさんが展開するオリジナルブランドです。

新商品を発売する際は、チャンネル登録者数40万人を超える自身のYouTubeチャンネルや、公式LINEアカウント、また有料のメルマガなどで告知を行っており、商品自体は完全予約販売の形をとっています。

生産からプロモーションまで、自身の影響力を最大限活用しながら極力コストを抑えたビジネスモデルは、PtoCの理想的な成功型のひとつと言えるでしょう。

参考:「MB -there is a reason for all of the design-」、「Instagram公式アカウント(@matinavenir)

事例⑤ Matin Avenir

Matin_Avenir

格闘家でYouTubeでも活躍する朝倉未来さんが立ち上げたブランド「Matin Avenir」は、「動けるお洒落」という、アスリートならではのコンセプトを武器に人気を集めています。

公式サイトや、Instagram、XなどのSNSは、商品に合わせてモノトーンが基調となっており、クールな世界観で統一されています。

Matin Avenirでは、タウンユースのアパレルアイテムやフレグランスなども販売していますが、スポーツ時に着用できるトレーニングウェアも展開しており人気を博しています。

このように、インフルエンサーがPtoCを実施する際、自身の特徴や特技(朝倉さんの場合は格闘技・アスリート)をうまく商品化することで、売上の最大化を図ることが可能になります。

参考:「Matin Avenir

PtoCを始めるための5つのステップ

それでは、今からPtoCを始めるためには何をすべきなのでしょう。この記事では、SNSを活用してPtoCを始めるための5つのステップを紹介します。

今回は、Instagramのフォロワー数またはYouTubeのチャンネル登録者数が、すでに1万人以上に達しているアカウントを運用している状況でPtoCを始めるためのステップを紹介します。

ステップ① フォロワー属性を理解して、自分の世界観を明確にする

フォロワー数がどんなに多くても、SNSで宣伝するだけで、何でも売れるわけではありません。まずは、商売をする上での自分の「世界観」を明確にすることが重要です。

例えば、SNSで男性向けスキンケアに関する情報を投稿しているアカウントであれば、フォロワーには、美容に関心の高い男性も多いのではないかと推測できます。また、InstagramやYouTubeでは、自身のアカウントのフォロワーの性別、年齢層などの基本的な属性情報を確認することができます(下図)。

◆筆者のInstagramアカウントのフォロワー属性のサマリー画面

ptoc_instagramデータ

SNSでPtoCを成功させるためには、自分が日頃発信している情報とフォロワーの属性を理解した上で、自分の世界観を明確にする必要があります。それらに基づいてブランドのコンセプトや商材を設計することで、成功の可能性を高めることができます。

ECサイトのブランディングについては関連記事で詳しく解説していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

関連記事:ECサイトにブランディングが絶対必要な3つの理由(Commerce Marketing Blog)

ステップ② 商品を企画・設計する

次に、PtoCで取り扱う商品やサービスを企画・設計していきます。

◆商品の企画・設計で必要になる視点

①ターゲットとする顧客層が購入したいと思うか
②自分の世界観に沿っているか
③利益を得られるか
④似たようなコンセプトが存在しているか
⑤利用者が思わず口コミしたくなる魅力があるか
⑥類似品と比べて突出している点は何か

上の①~③は、基礎的な観点です。さらに④~⑥の観点を加えることで、SNSでのPtoCの成功率を高めることができます。

商品の企画・設計は簡単ではありませんが、専門書を熟読したり、成功事例や成功者の体験談を参考にしたりしながら、「絶対に成功させる」と気持ちを持って、アイデアを出していきましょう。

複数のアイデアで迷う場合には、SNSのアンケート機能を利用して、フォロワーの意見を参考にしてみるのもよいでしょう。よりよいアイデアにつながるだけでなく、フォロワーへの「開発に参加した」という特別な体験を提供する機会にもつながります。

参考:Twitterヘルプセンター公式サイト|Twitter投票について

ステップ③ OEMの委託先を選定する

商品の企画・設計が済んだら、OEMの委託先企業を選定しましょう。OEM(Original Equipment Manufacturing)は、依頼元企業のブランド製品を製造すること、またはその企業を指す用語です。

例えば、メンズスキンケア商品の生産を委託したいのであれば、Google検索で「メンズスキンケア OEM」と入力して検索すると、下図のようにOEMの委託先企業や比較サイトが検索結果に表示されます。

◆Google検索の「メンズスキンケア OEM」の検索結果画面(例)

検索結果OEM

検索結果に表示された情報を確認し、問い合わせることで商談を開始できます。よほどの理由がない限りは、複数社と商談しながら見積りを取り、比較検討した上でOEM先を選定するようにしましょう。

契約時には、大量注文することで料金を下げる交渉も可能ですが、同時に在庫を抱えてしまうリスクも高くなるので、最初は、小ロットで発注し、テスト販売などで反響を見ながら拡大していくことをおすすめします。OEM先の選定時には、小ロット対応が可能かどうかも選定基準に含めるようにしましょう。

ステップ④ ECサイトを開設する

商品の準備と並行して、ECサイトを構築する必要があります。最初のうちは、商品数も限られると思いますので、高度な機能やシステムを開発する必要はありません。

そのため、STORESBASEなどの、初期費用無料で手軽にECを開設できるECカートサービスを利用している人も多いです。

◆初期費用無料のECカートサービス

STORES
BASE

大きな影響力を持っているインフルエンサーでさえも、商売が成功するかどうかは未知数です。そのため、最初からコストをかけたECサイトを構築しても、利益率が低くなるだけでなく、事業が軌道に乗らなかった場合の撤退コストも大きくなります。事業が軌道に乗ったタイミングで有料プランなどへの移行を検討するのがよいでしょう。

◆PtoCのECサイトに求められる主な要件(例)

・自分の世界観をデザインしやすい機能があること
・定期購入/サブスクリプションサービスに対応できる機能があること
・アクセス数が集中した場合にも、サービスの安定稼働を継続できること
・注文から配送までのあらゆるシステムと連携が可能であること
・業務を効率化できること

通常のECサイトでは、「販促機能」も求められることが多いですが、SNSを利用したPtoC向けのECサイトの場合は、SNSマーケティングがメインとなるため、ECシステムのマーケティング機能は最小限でかまいません

ステップ⑤ SNSで告知・販売する

商品と売り場の用意ができたら、SNSで商品やブランドの告知と販売を開始します。自分から情報を取りにきてくれる熱心なファン以外のフォロワーにも興味を持ってもらえるよう、投稿にも工夫しましょう

例えばInstagramであれば、商品を購入してくれたフォロワーの投稿をリポストしたり、DMやコメントを通じたコミュニケーションを徹底したりすることで、継続的なアプローチを行います。また、商品の話題性や希少性を提供するために、数量限定などの販売手法を活用してみてもよいでしょう。

本格展開の目安はフォロワー数1万人以上

PtoCに限らず、ビジネスで重要になるのが集客力と購入の意思決定への影響力です。SNSを活用したビジネスを検討している場合、少なくともフォロワー数が1万人を超えてから本格展開することをおすすめします

ECサイトのコンバージョン率(CVR)は1%程度とも言われており、これはECサイトに1万人を集客した場合、そのうちの約100人が商品を購入してくれる可能性があるということになります。

実際にはCVR 1%を実現することも容易ではないため、まずはフォロワー数に関わらずテストマーケティングを繰り返しながら、CVR 1%を達成するために何が必要かを分析して、目標を達成できるようになりましょう。

フォロワーが1万人を超えるまでは、フォロワーを増やすことに専念するという方法もありますが、フォロワーが少なくリスクを取りやすいうちにPtoCの経験を積めることもとても有益です。そのため、もし事業に余裕があるのであれば、スモールスタートでPtoCビジネスを始めてみてもよいでしょう。

フォロワー対象のビジネスではリピート商品と新商品のバランスが重要

SNSを活用したPtoCは、スタート時点で「集客」の課題をクリアしている状態です。しかし、商品をアピールする対象はフォロワー(すなわち、常連顧客)となるため、同じような商品を販売しているだけでは、ブランドや商品に飽きたフォロワーが離れていく可能性が高まります

SNSを利用したPtoCでは、同じ顧客に対して、セールスをかけ続ける状態となります。そのため、高機能な消費財(スキンケア、メイク、ヘアケア用品や日用品などの商品)を販売してリピーターを増やすことで一定の売上を確保しつつ、定期的に新商品を開発・投入するなど、あらかじめ商品企画についても十分に計画しておくようにしましょう。

SNSがPtoC一色になるとフォロワーは離れる

人気のSNSが支持を集める理由は、「ファンを魅了し、満足させ続けている」からです。自分が認めた人物の「おすすめ」はファンにとってはうれしい情報です。しかし、ブランドの売上を追求するためだけの宣伝投稿ばかりが増えてしまうと、置き去りにされたファンは辟易してしまうかもしれませんまた、ビジネス色の強いSNS運用では、新しいフォロワーを獲得することも難しくなるでしょう。

PtoCの成否に関わらず、「フォロワーは何を期待して支持してくれているのか」というSNS投稿における基本姿勢を忘れないようにしましょう。

まとめ

SNSのフォロワー数が多いだけで、PtoCが必ず成功するとは限りません。また、ブランドの立ち上げに成功したとしても、商品の企画や宣伝などの運用を他人任せにしてしまうと、ファンは離れていってしまうでしょう。

PtoCで最も重要になるのは「熱量」ではないかと筆者は考えています。「PtoCで成功する」「PtoCを継続させる」という強い信念は、自身を奮い立たせるだけでなく、周りの人を巻き込む力となるからです。

また、商品開発ではフォロワーが求めているモノやコトの中から、まだ形になっていないニーズを商品化していく、という姿勢が基本となりますが、ブランドやすべての商品のコンセプトに、「社会を(あるいは誰かを)幸せにすること」を組み込むべきでしょう。近年のビジネスでは、消費者の生活や社会に貢献する企業姿勢が強く求められています。PtoCでも、より多くの人に愛されるブランドを築くことが大切です。


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。