単品通販の成功の鍵はブランドの世界観を確立すること


取り扱う商品や分野を1つに絞って販売する通販ビジネスモデルを「単品通販」と呼びます。

単品通販を成功させるための鍵となるのが、「世界観」(この記事では「ブランドイメージ」の意)です。なぜなら、より多くの消費者にブランドや商品を認知してもらうことで、他社との差別化を図ることができるからです。

商品そのものの価値はもちろん大切ですが、それだけでは、常に価格競争に脅かされることになります。独自の世界観を確立し、企業およびブランドの価値と魅力を消費者に認知してもらうことで、市場の存在感を高め、安定した事業運営が行えるようになります

この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、単品通販について詳しく解説します。

単品通販と総合通販の最大の違いは、取り扱う商品または分野の数とビジネスモデル

以下は、単品通販と総合通販の主な特徴をまとめて比較した表です。

◆単品通販と総合通販の主な特徴の比較

単品通販 総合通販
取り扱う商品または分野 1つ 複数
代表的な分野 化粧品、ヘルスケア関連、健康食品・サプリメントなど アパレル、家具・雑貨、日用品、家電など
主な購入方法 ・定期購入/サブスクリプション
・頒布会
・都度購入
都度購入が一般的
リピーターの数 多い 目立って多くはない

単品通販では、取り扱う商品または分野を1つに絞って販売するため、Webサイトのランディングページ(以下、LP)では、デザイン、画像、テキストを駆使し、商品の魅力やブランドの世界観を最大限に訴求するためのデザインが採用されています

◆単品通販のLPの例(カネボウ化粧品)

LPサンプル(カネボウ)

引用(画像):カネボウ化粧品「エターナル|Milano Collection

単品通販では、化粧品、ヘルスケア関連、健康食品・サプリメントなどの分野が多く、リピート購入を前提としたストック型のビジネスモデルが一般的です。

◆単品通販の主な購入方法(都度購入を除く)

・定期購入/サブスクリプション
・頒布会

上記の購入方法については関連記事で解説しています。ECサイトで定期購入手続きを可能にする方法も紹介しているので、興味のある方はぜひご覧ください。

関連記事:ECでこれから定期販売を始める事業者が押さえるべき5つのポイント

「単品通販は利益が出やすいのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、消費者に認知されず商品がほとんど売れない、というケースも少なくありません。特にECでは広告コストも膨らみやすい点も留意が必要です。また、単品通販に限らず、化粧品、ヘルスケア関連、健康食品・サプリメントなどの商品の効果・効能をWebサイトで訴求する場合は、機能性表示食品の認可の取得をはじめ薬機法を遵守した上での情報掲載も必要になります。

いずれにしても、単品通販では世界観を確立して多くの消費者に認知してもらい、市場の存在感を高めることが重要です。

ECの単品通販で追求すべき3つの要素

ECの単品通販で追求すべき要素は以下の3つです。

◆ECの単品通販で追求すべき3つの要素

① 価格
② 機能
③ 世界観(ブランドイメージ)

「①価格」は市場競争を激化させ、利益を圧迫しやすい要素でもあります。多くの企業が①~③のすべて、あるいはいずれかの追求に取り組んでいますが、D2Cビジネスである単品通販では、「②機能」と「③世界観」に対する取り組みの重要度が高くなります。特に「③世界観」は他社との差別化を図るために最も大切な要素です。

独自の世界観を確立するためには、ECサイト、SNS、広告、商品コンセプトなどを通して企業の明確なビジョンを発信し、そのビジョンに共感するファン(ユーザー)を増やしていく必要があります。ストック型ビジネスモデルの単品通販では、より多くのファンを育成してリピート購入につなげるための取り組みが極めて重要になります。

市場を調査・分析して自社の強みを見極める

市場調査および分析を行うための方法やツールはたくさんありますが、筆者がおすすめするのは「ポジショニングマップ」です。

以下のポジショニングマップは、商品の価格を縦軸、機能を横軸に設定して4つの象限を作成し、自社と他社の製品をマッピングした例です。

◆価格と機能を軸としたポジショニングマップ(例)

例えば上図で「高価格かつ高機能」(右上の象限)にマッピングされている企業は、より高級感や特別感を訴求することで他社との差別化を図ることができそうです。

また、「低価格かつ低機能」(左下の象限)にマッピングされている企業は、シンプルかつ低価格という「お得感」を強く打ち出すことで市場の存在感を高めることができそうです。

このように、戦略や施策を検討する前に、まずはポジショニングマップなどのツールを利用して、市場における自社のポジションや強み/弱みを把握しましょう。むやみに施策を打つのではなく、市場の調査・分析を通して明らかになった自社の強みを生かし、目標に対する効果を測定することができる施策を策定すべきです。

世界観を確立するために有効なLPの3つのメリット

単品通販のECサイトでは、自社商品の世界観をユーザーに強く訴求する必要があります。その役割をLPが担うことには3つのメリットがあります。

メリット① 世界観や価値を伝えることができる

実店舗では、来店客にブランドの世界観や独自の価値を詳しく伝える役割を販売員が担いますが、ECではLPがその役割を担当します。そのため、特に化粧品、ヘルスケア関連、健康食品・サプリメントなどのECサイトでは縦に長いWebページになっていることが多いです。

消耗品を販売する単品通販では、近所のドラッグストアやスーパーなども競合となり得るため、どこでも手軽に購入できるような商品を単品通販サイトで販売するのは現実的ではありません。単品通販では「ここでしか購入することができない」という希少性も特別な価値となります。

◆希少性による特別な価値(例)

・独自開発成分を配合した商品
・ドラッグストアやスーパーなどの市場には流通していない商品
・日本初/世界初などの先駆者としての企業および商品の価値

そのため、LPは世界観だけでなく、特別な価値を伝えるための工夫も必要です。

メリット② スマートフォンでの閲覧に向いている

以下は、国内のスマートフォン利用者の推移を示したグラフです。今はほとんどの人がスマートフォンを使っていることが分かります。

◆国内のケータイ・スマートフォン所有者のうちのスマートフォン比率(2010~2022年)[調査対象:全国・15~79歳男女]

国内スマホ比率

注1:スマホ・ケータイ所有者が回答
注2:「わからない」を除く
注3:1台目もしくは2台目にスマートフォン所有と回答した場合をスマートフォン所有として算出

出典(図表):株式会社NTTドコモ モバイル社会研究所「【モバイル】スマートフォン比率94%に:2010年は約4% ここ10年でいっきに普及」(2022年4月14日掲載)の「図1.ケータイ・スマートフォン所有者のうちのスマートフォン比率[調査対象:全国・15~79歳男女]」を筆者が一部加工して使用

また、PCと比較した場合のスマートフォンの特徴として以下があります。

◆スマートフォンの特徴(PCとの比較)

・スマートフォンでは、複数のページを行き来することが少ない
・スマートフォンでは、スムーズに画面の上下移動がしやすい
・スマートフォンでは、文字入力がしづらい

縦に長いLPもスマートフォンでは見づらさが緩和されるため、スマートフォンが主流となった現代のECに適した訴求方法の一つとして積極的にLPを活用していきましょう。

メリット③ 同じ情報を繰り返し訴求できる

さまざまなECサイトのLPを見ると、LP内で同じコンテンツや効果を繰り返し使用していることに気づきます。通常のWebデザインでは、1つのページの中で同じメッセージを何度も掲載するとしつこくなるため、避けることが多い方法です。

しかしマーケティングの観点では、同じ情報を繰り返し伝えることによる効果を重視すべき場合もあります

特にスマートフォンではLPの情報を上からじっくり読みながら移動するというよりは、上から下にスクロールで移動しながら、コピーや画像が目にとまったら目を通すという人も多いのではないでしょうか。

そのため、強く訴求したい情報をLP内で繰り返し表示することで、見てもらえる可能性が高くなります。また、LP内の上部である情報を目にした後に、改めて下部で同じ情報を見てコンバージョンに至るなど「最後の一押し」効果も期待できます。

単品通販で売上を伸ばすための5つのアプローチ

単品通販の売上を伸ばすためには、次の5つのアプローチが必要になります。

① 初回購入/トライアルを増やす

ECで初回購入を増やすための施策として、以下のようなものが考えられます。

◆初回購入を増やすための施策(例)

・トライアル用商品の無料提供
・初回無料
・初回割引
・初回購入特典

いずれも、まずは商品を使ってもらうための施策です。

単品通販の多くがストック型のビジネスモデルなので、定期購入をしてくれるユーザーを増やすことで安定した収益を確保できるようになります。

◆ストック型ビジネスモデルにおける時間と売上の相関(イメージ)

当然ながらリピート購入を増やすためには、初回購入を増やさなければなりません。そのため、初回購入時は商品の料金分をマーケティングコストとしてとらえ、無料や格安で販売するなどし、商品を購入してもらうきっかけを作ることが重要です。

② リピート購入につなげる

初回購入からリピート購入につなげるためには、ユーザーに定期購入手続きを行ってもらう必要があります。そのため、定期購入のハードルを下げるために、次のような施策を実施するとよいでしょう。

◆定期購入への関心を高めて手続きをしてもらうための施策(例)

・長期契約における割引や特典の設定
・定期購入における割引や特典の設定
・商品の連用効果を訴求するリーフレット等の配布

初回で効果を実感できるような商品であれば自然にリピート購入につながりますが、効果が出るまでにしばらく時間がかかる商品の場合には、連用による効果や効果が出る目安などを丁寧に訴求するなどの工夫も必要になります。

③ 途中解約を防ぐ

途中解約を防ぐためには、大きく2つの施策が考えらえます。

1つ目は、CRM戦略に基づく施策の実施です。初回購入で個人情報を収集したユーザーに対し、ステップメールやLINE等を利用して、ユーザーの体験談、商品の魅力や効能などの情報を継続的に発信することが重要です。特に化粧品や健康食品・サプリメントなど継続することで効果を実感できる商品の場合には、ユーザーの体験談などの情報発信が有効です。

2つ目は、ECサイトの解約画面やフローの改善です。解約画面にユーザーの体験談を掲載してメリットに気づいてもらえるようにしたり、解約ボタンをクリックした際に「本当に解約しますか?」といったメッセージを表示したりすることで、解約を思いとどまるきっかけを提供します。

とはいえ、解約画面への遷移方法や手続きを分かりづらくすることで解約をあきらめさせる、というような悪質な方法は絶対に避けましょう。そのような方法で解約を一時的に減らせたとしても、ユーザーの信頼を永遠に損ねることになります。意図的ではなくても、解約手続きが複雑になっている場合には改善するようにしましょう。

④相性の良いインフルエンサーのタイアップ広告を実施する

さらに、商品の売上を高めるためにその領域で影響力のあるインフルエンサーとタイアップ広告を実施することで、一気に認知を広げることができます。インフルエンサーは「生活感のある投稿」を行うことができるため。自社のマーケティングではリーチできない層にまで、商品認知を広げることができます。

特に化粧品業界においては、年代に関わらずInstagramの影響力は強いため、Instagramでのインフルエンサーを探します。インフルエンサーへの連絡は、代理店を通じての方法と、DMで直接連絡する2つの方法があり、代理店を通じると費用が高くなりますが、インフルエンサーとの連絡などをまかせることができます。直接連絡する方法は、費用を抑えることができる反面、インフルエンサー管理の手間がかかります。

いずれの方法にしろ、自社商品と世界観が近い、相性の良いインフルエンサーを探すべきです。インフルエンサーマーケティングの詳しい実施方法や費用感は以下の記事をご覧ください。

参考記事:初めての「インフルエンサーマーケティング」を企業目線で解説

⑤ギフティングによりUGCを生みだす

単品商品の売上を高めるためには、多くのマーケティング手法が存在しますが、やはり「口コミ」に勝るものは存在しません。ひと昔前は、アットコスメのような口コミサイトを見て、商品を判断する方が多かったのですが、現在は、Instagramでの一般ユーザーの投稿を見て、購入を判断する人が非常に多くなりました。

そのため、そのようなSNS上で口コミを増やすためにUGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)に力を入れるべきです。UGCに生み出すために有効な施策に「ギフティング」があります。ギフティングとは、ユーザーに商品を無料提供することで、WEBやSNS上での口コミを呼び込む施策です。

特に商品自体に強い自信がある企業の場合は、ギフティングを積極的に行うことで、多くの口コミを生むことができるのです。ギフティングの具体的方法は、ユーザーに個別にInstagramのDMを送付し、商品を送付するので、手間が非常にかかるのですが、費用が商品代と送料だけというメリットもあります。また、ステマ規制に対応するため、投稿者には「PR表記」を必ず依頼しましょう。

ギフティングの具体的な手法については、下記の記事をご覧ください。

参考記事:ギフティングは商品をインフルエンサーに提供し紹介してもらうこと

単品通販の3つのデメリット

単品通販の主なデメリットとして以下の3つが挙げられます。

デメリット① レッドオーシャンの市場である

化粧品、ヘルスケア関連、健康食品・サプリメントなど単品通販市場はすでにレッドオーシャン状態にあります。

例えば、Web広告の観点だけを見ても、限られた広告スペースを奪い合っている状況です。費用対効果の高い広告スペースは限られているため、広告で売上を拡大し利益を出せる企業はそう多くはないでしょう。

デメリット② 法規制により訴求時の表現が制限される

化粧品、ヘルスケア関連、健康食品・サプリメントなどの薬機法に関連する商品のプロモーションでは、虚偽または誇大広告に対する規則に反していないか留意する必要があります。例えば、以下のようなコピーは薬機法に抵触します。

◆薬機法に抵触するコピー(例)

・「このサプリメントを飲めば、必ず痩せます」
・「シミやそばかすが2週間で消える!」
・「内臓脂肪をガンガン燃やします」
・「肌が真っ白に!驚きの美白効果」
・「しわやたるみを防ぐアンチエイジング商品です」
・「便秘が治る!」

効能・効果や安全性を保証しているように受け取ることができる表現を使用することはできません。そのため、コピーを作成する際は薬機法に照らし合わせて作文し、掲載前のコピーチェックも入念に行う必要があります。

デメリット③ SNS施策は有効だが効果的な口コミを形成しづらい

単品通販はInstagramやTwitter等を利用したSNSマーケティングとの相性が良い販売モデルです。また近年は、化粧品などのビジュアルが重要視される商品検索には、Google検索ではなくてSNS検索を利用するという若者も増えているようです。SNSは、商品をおすすめしている人が誰かすぐに分かるため、情報に対する信頼感が高まりやすいのでしょう。

参考:ECzine「Yahoo!、Google検索はもう古い? 若者はツイッターやインスタグラムでなにを検索しているのか」(2016年2月22日掲載)

しかし、SNSで効果的な口コミを形成することは容易ではありません。インフルエンサーとPR契約を結ぶこともできますが、継続的な口コミ効果は期待できません

また先述したように、化粧品、ヘルスケア関連、健康食品・サプリメントなどの場合は、薬機法への配慮が必要な上、効果を実感できるまでに期間を要することも多いため、口コミの形成がより難しくなります

優れた商品を開発して多くの消費者に認知してもらうとともに、適切な情報発信と効果的な口コミを増やせるようなSNS運用を目指しましょう。

単品通販から総合通販に移行する際の留意点

単品通販から総合通販への移行では、ECサイトだけでなく、トップページやLPのリニューアルおよびSEO対策に関する検討も必要になります。

例えば、単品通販では「○○サプリ」というキーワードで1位を獲得していたトップページを総合通販仕様に変更した場合には、「○○サプリ」というSEOキーワードの効果が損なわれることになります。

単品通販から総合通販へ移行する場合には、単品通販サイトを閉じて総合通販サイトに統合すべきか、単品通販サイトも残して新たに総合通販サイトを構築すべきかという点についても十分に検討することをおすすめします

まとめ

ECで単品通販を成功させるためには、企業とEC担当者の事業に対するビジョンとやり抜く覚悟が不可欠です。どんな仕事であっても、漫然と日々の仕事をこなしているだけでは、他人の心を動かすことはできないのではないでしょうか。事業の全工程で、ユーザーの心を動かして企業やブランドのファンになってもらうために何をすべきかを、とことん考え抜くことが大切です。

単品通販は外部要因の影響を受けにくいストック型のビジネスモデルを構築できるため、成功すれば安定経営と継続的な投資が可能になります

ECの単品通販事業を検討している方や新たに単品通販サイトの担当者になったという方は、まずは市場を調査・分析してみて、自社ならではの強みを見極めることから始めてみてはいかがでしょうか。


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。