Amazon実店舗展開の3つの狙いと日本市場の課題とは?


ここ数年、Amazonは実店舗の展開を本国アメリカで加速させています。2017年には、自然・有機食品小売り大手「米ホールフーズ・マーケット」を137億ドル(日本円で約1.5兆円)で買収しました。

ロイター記事:米アマゾン、ホールフーズを137億ドルで買収へ 実店舗販売を強化

また、Amazonの実店舗の展開とともに、各業界大手小売り店舗との提携を深めており、リアル接点の拡大を図っています。この背景には、Amazonには下記の3つの狙いがあると筆者は考えます。

①物流の拠点を増やし、オンラインにおける即時配達を普及させる
②ECと相性が悪い食品市場への進出
③世界規模のオムニチャネルを実現し、あらゆる業界のシェアを独占

本日は、ここ数年のAmazonの実店舗への進出のニュースをまとめ、Amazonの狙いと、日本でのAmazon実店舗の課題をebisumartでWEBマーケーティングを担当している筆者が解説してまいります。

目次

リアル書店の「Amazon Books」では現金は使えない!
レジが存在しないコンビニ!未来の買い物体験「Amazon Go」とは?
Amazonの実店舗展開は家電や家具分野にも!
Amazonが実店舗を進める3つの狙いとは?
Amazonの日本での実店舗の課題はキャッシュレス化!

リアル書店の「Amazon Books」では現金は使えない!

※2022年3月、リアル店舗戦略の見直しの一環として「Amazon Books」の全店舗閉店の決定が報じられました。閉店時期は店舗によって異なるとされております。

引用:好調アマゾンが対面式書店から撤退へ、リアル店舗事業を絞る理由(日経クロステック)

2015年に米シアトルからスタートした、Amazonのリアル書店の「Amazon Books」。2022年時点ではアメリカ国内で24店舗が営業しています。

「Amazon Books」の大きな特徴は下記の2つです。

(1)会計方法はクレジットカードとAmazon Prime Now アプリの2つ
(2)今までの書店にはない、斬新な本の陳列方法

 

① 会計はクレジットカードとAmazon Prime Nowのアプリのみ

「Amazon Books」も通常どおりレジで会計を行いますが、現金は使用できず、クレジットカードやデビットカードでの払いと、Amazon Prime Nowのアプリで本の表紙のQRコードをスキャンして、決済を行う仕組みになっています。まさにオンライン店舗を拡張したような実店舗のレジになっています。また、手のひら認証による決済「Amazon One」といった最先端の決済システムも導入されております。

現金を使わないことによって、顧客にとってお金の会計処理の煩わしさが軽減されるだけではなく、店舗スタッフの作業負担も軽減します。アメリカは日本と違いクレジットカード支払いが普及しており、キャッシュレス会計に抵抗が少ないため、こういったシンプルなレジ会計は支持されやすい土壌があります。

② 今までの書店では考えられない、斬新な本の陳列方法

Yahooニュース:アマゾンがリアル書店をニューヨークにオープン【初日レポート】

上記記事によると、「Amazon Books」では、今までにはない本の陳列方法を採用しています。

(1)誰もが目に付く場所に高評価の本の陳列棚の設置
(2)表紙が確認できる陳列方法

話題の本や最新の本を入口近くの本棚に設置するのは、日本の書店でもよくある手法ですが、「4.8スター以上」の高評価本のみを目立つ場所に設置する手法は、カスタマーレビューを持っているAmazonならではの強みで、ユーザーの興味や購入意欲を刺激します。

また、書店ではおススメ本以外は、実際に本棚から本を取り出してみないと、表紙を確認することができませんが、「Amazon Books」では、全ての本が手に取らなくても表紙を確認できるように陳列されております。そして、全ての本には、カスタマーレビューが紹介されており、ユーザーも楽しく本を選ぶことができます。

「Amazon Books」の実店舗はさほど広くありません。このような陳列方法だと、多くの種類の本を置くことはできないため「売れる本」中心の品揃えになっていると推測されます。そして、Amazon Books」にない本は、オンラインのAmazonで購入すればよく、オンラインと実店舗の見事な補完関係が成立していると言えます。

レジが存在しないコンビニ!未来の買い物体験「Amazon Go」とは?

「Amazon Go」とは、米シアトル発のAmazonの実店舗コンビニです。2020年6月時点で、全米4都市(シアトル、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨーク)で26店舗が営業しております。

時間がある方は、下記の動画をご覧ください。「Amazon Go」がすぐに理解できる1分50秒の動画です。

◆Amazon Go の紹介動画

レジや買い物かごが存在しない新しい買い物体験。それが「Amazon Go」です。

(1)顧客は、入店する前にスマホのAmazonアプリのバーコードを、ゲートにかざす
(2)好きな商品を取り、店を出るだけで、レジや袋詰めの作業が発生しない
(3)手に取った商品を、棚に戻せば、会計から除いて自動計算される

この仕組みは、下記記事によると、ユーザーがゲートを通過した瞬間から、設置したカメラがユーザーの顔を認識し、AIによってユーザーが何を手に取り、何を棚にもどしたかを追跡しているようです。

マイナビニュース:アマゾンのリアル店舗「Amazon Go」がもたらす3つの変化

現在は4都市のみの展開ですが、今後順調に実店舗の展開を進めていけば、Amazonが注力しようとしている食品市場においても、シェアを伸ばすキッカケになると筆者は推測します。これらの店舗は物流拠点としても、機能するからです。

食品の実店舗については、ネットで注文した食料品を実店舗で受け取ることができる「AmazonFresh Pickup」が2店舗ありますが、「Amazon Go」が全米に広まれば、オンライン注文の拠点となり、ユーザーに生鮮食品をすぐに届けることができる世界が実現します。

Amazonの実店舗展開は家電や家具分野にも!

米紙報道によると、家電や家具などの高額商品の分野においても実店舗を検討しています。

家電店舗においては、Appleストアのような雰囲気で、対話ができるスピーカ「Amazon echo」などの製品の取り扱いを検討しています。

産経ニュース:アマゾン、家具や家電で実店舗検討 米紙報道

家具の実店舗においては、VR(仮想現実)技術を使って、ユーザーがゴーグル越しに、ユーザーの部屋に設置した家具のイメージを見せるサービスの提供など、Amazonの実店舗はイノベーションに富んだ、ユーザーがワクワクする店舗になりそうです。

Amazonは最新のテクノロジーによって、家電や家具の分野においても、実店舗展開を加速させていますが、家電や家具の分野などの高額商品には、実店舗ゆえの大きなデメリットがあります。それがWEBショールーミングです。

WEBショールーミングとは、ユーザーが実店舗で製品を確認し、その後、購入はインターネットの比較サイトで最も安い店で購入する行為のことです。しかし、Amazonの実店舗では、こうした行為をさせないテクノロジー特許を取得しております。それが、米Amazonが取得した「反ショールーミング化」に関する特許です。

この特許技術は、実店舗内に設置されたWifiからはインターネットで比較サイトにアクセスさせない技術で、店舗内でWifiを使うユーザーは、比較サイトにアクセスできず、WEBショールーミングを防止する技術です。(もちろん、Amazonのサイトにはアクセスすることができます。)

こうした対策で、Amazonの実店舗は、通常の実店舗の弱点を克服しているのです。(ただ、Wifiに接続しないモバイルユーザーまでは、Amazonも対策できないので、そこまで意味はないのではないかと思います)

Amazonが実店舗を進める3つの狙いとは?

① 物流の拠点を増やし、即時配達を普及させる

さまざまな業界で、Amazonの実店舗への進出が進んでいます。こうした背景の一つには、Amazonの即時配達サービス「Amazon Prime Now」を普及させる狙いがあります。

米Amazonは、即時配達を実現させるために、多くの小売り大手と提携しています。例えば「Amazon Prime Now」はスマートフォン上で生鮮食品を注文すると、2時間以内に近くのスーパーの商品をユーザーに届けてくれます。しかし、提携先の小売りだけでは、商品の種類や拠点数に限界があります。

Amazonの提携先の拡大とともに、Amazonの実店舗が増えれば、即時配達をさらに普及させることができるのです。しかし、それには配達員のリソースを大量に確保しなくてはなりません。

Amazonが囲い込みを始めた個人契約者(事業者)の背景

日本でも、ヤマト運輸が運賃の値上げを発表し、宅配業界の人手不足と厳しい労働環境がニュースになっています。米Amazonでは、すでにスタートアップ企業が作ったシステムインフラを活用し、個人契約者が、そのインフラシステムを利用し配達の一部を担っています。

日本の宅配市場においても、Amazonが多くの個人事業主と専属契約を結ぶというニュースが話題になっています。このようなヤマトや佐川を経由しない自前配送の動きが進むことは間違いありません。また、ドローンによる配送実験を行っている背景にも、配達リソースの軽減の意図があるのです。

追記:2021年5月、全世界で「Amazon Prime Now」としてのアプリとウェブサイトを終了し、Amazonのメインアプリへ統合することが発表されました。

引用:アマゾン、「Prime Now」アプリとウェブサイトを世界で終了へ–メインアプリに統合(CNET Japan)

② ECと相性が悪い食品市場への進出

Amazonはもとより、ECにおいては生鮮食品は相性が良くない分野の一つです。なぜなら、生鮮食品は実際ユーザーが手にとって、鮮度を確認する欲求が強いため、こういった分野ではEC化が進まない傾向があります。

しかし、食品市場は巨大なマーケットであり、Amazonもこの分野でのシェアの拡大を狙っております。そして、実店舗でのシェアが拡大すれば、即時配達のシェアも広がるというシナジーが得られます。米Amazonは、巨大な食品市場においては、Walmartに大きく後れをとっています。この市場へのシェアの奪回を狙っているのは間違いありません。

◆日本でもスタートしたAmazon Prime会員向けのサイトのAmazon Fresh

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日本ではAmazon Freshは、まだ東京都、神奈川県、千葉県の一部地域でしか展開しておらず、おそらく「Amazon川崎フルフィルメントセンター」のような、生鮮食品を扱える拠点を増やして、徐々に対象地域を広めていくことでしょう。

③ 世界規模のオムニチャネルを実現し、あらゆる業界のシェアを独占

最終的には、Amazonは最新のテクノロジーを導入し、オンラインとリアルを融合させた究極の買い物体験(オムニチャネル)を提供するのが狙いです。Amazonの規模で、オムニチャネルを進めていけば、すべての業界で、圧倒的シェアを確立し、世界中で競合他社がAmazonを追随するのは難しくなるでしょう。

しかし、それを実現するために、ラストワンマイルと言われる、最後の配達拠点からユーザーの家までの配送負荷の課題を解決しなくてはなりません。Amazonはあらゆるテクノロジーやスキームを構築し、この問題の解決に現在も全力を尽くしているのです。

しかし、昨今、ヨーロッパを中心にGAFA(Google,Apple,Facebook,Amazonの総称)が、個人情報や市場を独占していることが、各国政府から「各国の国内産業の成長を阻害している」との懸念があり、Amazonにとって不利な法規制や制度が最大の障壁となるかもしれません。

Amazonの日本での実店舗の課題はキャッシュレス化!

2023年2月現在、日本市場においてのAmazonの実店舗はありません。(2017年に、銀座に期間限定バー「Amazon Bar」が10日間限定でオープンしたことはありました)

今後はアメリカの実店舗モデルを日本でも展開することが予想されますが、日本ではアメリカほどキャッシュレス化が進んでおらず、Amazonのキャッシュレス会計や、レジ無しコンビニの実現はアメリカほど容易ではありません。

下記のデータによると、日本のカード支払い比率は、2014年度で、17%しかなく、他国と比べると大きく遅れています。

データ引用先:日本ユニシスレポートより抜粋(2014年度)

◆個人消費支出に占めるカード支払い比率

・韓国 73%
・カナダ 68%
・オーストラリア 63%
・中国 55%
・アメリカ 41%
日本 17%

キャッシュレス化が進まないと、日本でのAmazon実店舗は限定的な地域での展開になり、日本市場においては、Amazonはアメリカとは違った形で店舗を設立するかもしれません。

また、先に述べた通り、「Amazon Books」は全店舗閉店、「Amazon Go」においてもサービス開始から5年ほどで4都市のみの展開となっており、米国本土においても実店舗戦略は簡単ではないことが明らかになりました。

このような状況においては、日本での展開もより慎重にならざるを得ないのであろうと筆者は推測しております。

Amazonの実店舗展開のまとめ

本日は、過去3年間のAmazonの実店舗展開に関するニュースをまとめて、Amazonの狙いや、日本での実店舗展開を課題を解説いたしました。競合の小売業にとっては、大きな脅威となりますが、Amazonが実現する新しい買い物体験は、筆者も一人のユーザーとして、とても魅力的に感じます。

今後もAmazonが業界を牽引し、世界中を人々の生活をイノベーションしていくことは間違いありません。


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。