化粧品ECの3つの課題と化粧品業界大手5社の取り組みをプロが解説!

経済産業省が2018年4月に発表したデータによると化粧品・医薬品の業界におけるEC市場規模は5,670億円ですが、EC化率は5.27%であり、他の産業と比べてみてもあまり高くはありません。

化粧品業界においては、若年層の多くはドラッグストアや専門店での数百円から買える低価格化粧品の需要が強いことや、ブランドコスメのような価格の高い化粧品を購入する時、ユーザーは店頭で実際に試し、スタッフのアドバイスを受けながら安心して化粧品を選びたいというニーズが強いこともありECサイトの利用率がなかなか高まりません。

また、化粧品業界は競争が激化しており、ECサイトを販売チャネルというポジショニングではなく、ブランドを認知させるためのチャネルとして位置づけている企業が多いことも実情です。

本日はインターファクトリーで、WEBマーケティングを担当している筆者が、化粧品ECについて詳しく解説いたします。

化粧品・医薬品業界のEC市場規模とEC化率の推移(2014年~2017年)

まずは下記のグラフをご覧ください。化粧品・医薬品のEC市場規模の推移です。なお、本日の解説は化粧品業界を中心に解説しますが、下記のグラフのデータ提供元の経済産業省のデータには化粧品業界で独立したものがないため医薬品業界と合算したデータになっております。

データ引用先:平成 29 年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備

2017年度の全産業のEC化率の平均は5.79%であり、化粧品・医薬品のEC化率は5.27%であることから、日本の全産業の平均よりもEC化が進んでいない業界と言えます。

過去4年の推移を見ると、2016年度に市場規模がやや増加しておりますが、これは2014年6月の薬事法の改正により、一般的な薬品の販売がネットでも販売可能になったことによる影響で、企業がネット販売の体制や環境を整えたことによって影響が出始めたものと思われます。

しかし、その影響も2016年度までで、2017年度になると思ったほどEC化率が伸びておりません。化粧品業界においてEC化が進んでいない現状としては、下記の3つの課題があると筆者は考えます。

◆化粧品業界でEC化が進まない3つの課題

①販売チャネルが多数あるためEC化が遅れている
②ドラッグストアや店頭販売の利便性に勝てない
③化粧品・医薬品業界のデジタルマーケティングの難易度が高い

①販売チャネルが多数あるためEC化が遅れている

化粧品・医薬品業界では、百貨店やドラッグストアなどの店頭販売から、訪問販売、カタログ通販、テレビ通販など、多数の販売チャネルが存在するためにEC化が進んでいないことがあげられます。

また、化粧品のカタログ通販は1990年代からあるため、一見するとネット通販とも相性が良さそうな業界に思えますが、価格が高い商品は、やはり店頭で実際に試してから購入したいという需要が強い特徴であることも、EC化が上がらない要因の一つです。

そして、ネット通販では実際に化粧品を試してもらうために「初回実質0円」など謳う企業も多いのですが、ユーザーの知らないうちに定期購入になっていたことなど、過去に社会問題になったケースがあります。

参考記事:通販トラブル「お試し」のつもりが解約できず数万円! その“手口”と“落とし穴”とは

ネット通販による化粧品市場は一定の需要はあるものの、なかなか利用率が高まらないのは、業界に対してこういった不信感があるからと筆者は考えます。

また、一人暮らしの女性は宅配員が直接家に来るのを好まない方が多く、そういった理由もEC化率がなかなか上がらない要因の一つとなります。

②ドラッグストアや店頭販売の利便性に勝てない

ドラッグストアは、今や都心・地方を問わず全国に店舗があり、2017年の最新の統計によると全国に1万8,874店舗に達しております。このため、どこにでもあるドラッグストアは極めて利便性が高く、ECサイトよりも便利な存在です。

ドラッグストアでは、若年層を中心にプチプラ(プチプライスの略語)コスメと呼ばれる低価格帯の化粧品のニーズが非常に強く、数百円から化粧品を買うことができます。プチプラコスメで女子高生に最も人気のある「キャンメイク」は直販のECサイトはなく、ドラッグストアや専門店での店頭販売が中心となります。

◆女子高生に人気の化粧品ランキング。1位は「キャンメイク」

上記調査結果:【女子高生メイクに関する調査】を公開しました

◆プチプラコスメ大手企業「キャンメイク」のHP

人気No1のプチプラコスメブランド:キャンメイク

プチプラコスメのような低価格商品は送料がかかるECサイトで購入すると、店舗で買うより価格が高くなるため、ECとの相性が良くありません。

またプチプラコスメは若年層だけではなく、会社員の女性にも愛用する方は多く、デパコス(デパートコスメの略)と使い分けてプチプラコスメを使っています。具体的には下記のような例になります。

会社員の女性Aさん「ピンク色のアイシャドウを試してみたいけど、高いデパコスで失敗したくないから、まずはプチプラで安いものを買ってみよう」

会社員の女性Bさん「派手色のアイシャドウが欲しいけど、会社では絶対無理!となると土日しか使えないからプチプラでいいや!」

このように、プチプラコスメは会社員の女性にも、使い分けができて安く便利な化粧品のため支持されています。そして低価格化粧品は、送料などを考えるとECサイトでの販売よりも、ドラッグストアでの販売に向いていることがわかります。

そして、デパコスなどの高級化粧品は店頭販売による強いニーズがあります。なぜなら高級化粧品は値段が高いため、失敗はできません。そのため「店頭でスタッフのアドバイスを受けて、実際に試しながら化粧品を購入したい」というニーズが強いのです。

店頭販売であれば、スタッフはその女性の肌にあう、色々なファンデーションを紹介したり、メイク方法のアドバイスをするでしょうから失敗の可能性が減ります。このような背景からも化粧品業界とECサイトの相性が良くありません。

③化粧品・医薬品業界のデジタルマーケティングの難易度が高い

他の業界と比べて、化粧品・医薬品業界のデジタルマーケティングの難易度が特に高く、ECサイトでの売上が伸ばしづらい特徴があります。その理由は2つあります。

一つ目は、レッドオーシャン市場であることです。この分野には資生堂やコーセーなどの国内大手系からP&Gやロレアルなどの外資系、ドクターシーラボなどの通信販売系、さらには富士フィルムのような異業種参入系など、資本力のある多くの大手企業が参入しているため、デジタルマーケティングの広告費も高騰し、効率良くECサイトでCV(コンバージョン:ECサイトでの注文を表す用語)を獲得するのが特に難しい業界なのです。

二つ目は、Googleの「健康アップデート」と呼ばれる検索エンジンのアルゴリズムの修正です。2018年8月、主に健康に関する分野において、Google検索エンジンのアップデートが日本で行われました。その結果、企業の化粧品公式サイトや楽天・Amazonなどのサイトが検索結果の上位に来るようになり、多くの口コミサイト(アフィリエイトサイト)がSEOランキングを下げる結果となりました。

化粧品・医薬品業界でよくあるマーケティング手法としては、アフィリエイターに口コミサイトを作ってもらい、そこからECサイトへの導線を設けてCVを獲得するケースが多く、企業によっては月に1万件以上をアフィリエイト経由で、CVを獲得しているケースもありました。

アフィリエイトサイトより、公式サイトやECサイトが上位に来れば、化粧品企業の売上が伸びると考える方もいるかもしれませんが、実際の女性ユーザーはWEBの口コミを購入決定の重要な要素としており、自社ECサイトを直接露出するより、アフィリエイトサイトを経由させるほうが、売上が伸びるケースが多いのです。

こういった背景があり、Googleの検索結果は(特に化粧品を含む健康分野において)上位のサイトに信頼できないものやウソが多くなり、2016年11月に社会問題化しました。

参考記事:WELQ問題「医師監修」だから安全とは限らない

このような社会問題をGoogleも無視することはできず、健康分野(化粧品を含む)に関して、日本の検索ランキングのアルゴニズムにアップデートを加えました。これにより、信用性のないサイト(主にアフィリエイトサイト)の口コミ情報が上位にランキングしにくくなり、化粧品業界のECサイトの売上も上げづらくなりました。

化粧品業界で影響力の強いインフルエンサー

化粧品業界では、インフルエンサーマーケティングの影響力が特に強い業界です。化粧品やファッションをインスタやYouTubeで紹介するインフルエンサーが多く存在します。

例えば、有名なYouTuberで47万人超のチャンネル登録者数を持つインフルエンサーの「ゆうこす」さんは、プチプラを使ったメイクの動画をInstagramで紹介しており、彼女が使ったプチプラは大きな反響を呼ぶと言われています。

若い女性から絶大な支持を受ける「ゆうこす」さんのインスタ

Googleのアップデートにより口コミサイトからのアクセスが減った分、若年層向け化粧品のマーケティングでは、このようなインフルエンサーと良い関係を築き、自社の商品を宣伝してもらうことが非常に重要になってくるのです。

 

それでは、このような3つの課題のある中で化粧品EC各社の動きを見てみましょう。

化粧品ECの大手5社の動向

化粧品各社のECやデジタルマーケティングの動きを、昨今のニュースやプレスリリースを元にまとめてみました。この記事だけでなく、参考にしたリンク先の記事とあわせてご覧ください。

①資生堂

資生堂の化粧品は、年齢層によって最適な化粧品を揃えていることが特徴です。そのためデジタルマーケティングの戦略は「リーチできない層を無くす」ことが骨子となり、テレビなどのマス広告を中心としていましたが、スマホなどの広告出稿やオウンドメディア、SNSを立ち上げ、マス広告とデジタル広告を合わせたKPIを作り、マスとデジタルの融合を図っています。

また、広告のリーチを拡大しながら、一人ひとりに最適化した広告を配信することで、売上の最大化を考えています。つまり資生堂では、ECサイト(watashi+)は売る場所でもありながら、製品を知ってもらう場でもあり、ECサイト単独の売上にシフトするという考え方ではなく、店頭販売も含めマスとデジタルを融合して、ブランド認知を高める施策をとっているのです。

参考記事:資生堂の小出氏が語った、マス広告メインだったブランド企業の本気のデジタルマーケティング

②花王

下記サイトによると、花王の澤田社長は、2020年までに化粧品部門のEC化率を10%までに高めることを目標としております。

参考記事:花王、トイレタリー・化粧品販売のEC比率10%超へ

2016年のEC売上比率は自社サイトやAmazon、楽天、アスクルなどのショッピングモールを含めて5~6%程度であり、これは化粧品業界のEC化率を1%程度上回っている数字ですが、動画広告を上手く使って、ECサイトの売上に結びつける戦略です。

③オルビス

2018年10月にオルビスのECサイトはリニューアルを行いました。

参考記事:オルビスがECサイトをリニューアル、ビューティーブランドとしてリブランディングも

その目的は、記事によると下記の3つです。

①ユーザーの利便性を高める
②携帯サイト(ガラケー)用サイトの利用者の減少のため
③オルビスブランドの再構築

ECサイトのリニューアルにより、競争が激化している国内化粧品市場において、希薄化する自社価値のリブランディングを行い、オルビスが提供する価値観を市場に浸透させる狙いがあります。そのために、ECサイトのリニューアルと同時に、コーポレイトのロゴや会報誌の刷新を行っております。

④DHC

DHCでは、ECサイトでの販売も注力するため「オリーブチャンネル」というオウンドメディアを開設しました。DHCは、テレビや電車広告など、マス広告にも力を入れており、マス広告で関心の持ったユーザーを専門サイトで囲い込む戦略をとっています。

オリーブチャンネルでは、直接的な販売を目的としておらず、美容や健康に関する情報を日々発信することで、DHCブランドのファンを獲得することを目的としています。

参考記事:DHC、美容・健康情報サイト「オリーブチャンネル」を開設

⑤ファンケル

ファンケルは、WEBや通販、店舗の顧客データが、それぞれ独自で管理しており、システム連携をしておりませんでしたが、IT基盤を刷新することで、システムを統合し、ユーザーにチャネルを意識させないオムニチャネル戦略をスタートしました。

これにより、化粧品の使用感を店舗で体験して、まとめ買いはWEBで購入するなど、ユーザーの利便性が高まりました。社内でも、ユーザーから問い合わせがあった場合は、別々の顧客情報にアクセスして、応答に時間がかかっていましたが顧客情報のシステム統合によりレスポンスの改善にもつながったと、下記記事には書かれております。

参考情報:ECと店舗を連動…ファンケルが「次世代オムニチャネル戦略」開始

化粧品ECのまとめ:中国人向け越境EC

本日は、化粧品業界(一部医薬品業界にも触れましたが)のEC市場や、各社のECの動向について解説しました。

化粧品業界の大手は国内EC化率を高めるよりは、ECサイトをチャネルの一つとして使い、店頭販売などあらゆるチャネルで販売強化していく動きが強いことがわかります。その根本には下記の2つの背景があります。

①競争激化により、自社のブランド名の露出低下の懸念
②ユーザー行動において店頭販売での需要が強い業界

このため、化粧品業界のEC化率は、今後も急に高まることはなく緩やかに上昇をしていくことが見込まれます。しかし、国外に目を向けると、中国人向けの越境ECには大きな可能性があります。

日本の化粧品は中国では大変人気があり「独身の日」と呼ばれる中国人が1年で最も盛り上がるセール期間(11月1日~11日まで開催)がありますが、2大モールの一つのJD.COMで、化粧水部門はドクターシーラボが1位になり、ボディケア部門では、資生堂が1位を記録しました。

日本への訪日中国人が増えることにより、訪日中に購入して良かった日本の化粧品を、中国国内でも手に入れたいという需要が大きくなってきており、日本の化粧品各社は越境ECにも力を入れております。

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