担当者が必ず読むべき「DtoC」の解説と成功・失敗事例


DtoC(D2Cともいいます)はDirect to Consumerの略で、メーカーが、商品を仲介業者や店頭に商品を出すことなく、ECサイトを構築し、直接ユーザーに販売するビジネスモデルのことを指します。

特にアメリカのスタートアップ企業が、SNSやブログでアピールすることで大成功したモデルで、日本企業にも注目されているビジネスモデルです。

DtoCのモデルが成功しはじめた理由はSNSによって、企業が広告を使わずに数十万人以上のフォロワーと直接コミュニケーションをとれる時代になったため、店舗販売だけに頼る必要がなくなり、企業がユーザーに直接コミュニケーションをとる方法が確立したことによります。

さらに、コロナ禍の時代においては店舗ビジネスが売り上げを大きく落としたために、販売店を通さず、ECサイトで直接販売するビジネスモデルのDtoCは企業にとって取り掛からなくてはならない命題の一つとなりました。では、このDtoCのモデルを日本企業が上手く行うことはできるでしょうか?

マーケティングノウハウがあれば成功確率は高いのですが、ブランド力が強くない中小規模の企業では、DtoCはカンタンではないでしょう。なぜなら企業のEC担当者は、WEBでの成功体験やノウハウが豊富ではなくECサイトを構築しても、マーケティングに大きな課題があるからです。

本日はインターファクトリーでWEBマーケティングを担当している筆者が、DtoCを解説するとともに成功事例と失敗事例を紹介し、DtoCの成功のためのポイントを詳しく解説いたします。

DtoCとはメーカーが代理店や店舗を通さず、直接ECサイトで販売するモデル

下記の図をご覧ください。DtoCを簡潔に紹介した図になります。

◆DtoCのビジネスモデルを通常の販売方法と比較した図

上記の図をみてもわかる通り、DtoCは卸や販売店(代理店)などを通さず、自社ECサイトでダイレクトにユーザーに販売できるビジネスモデルのため、下記のような特徴があります。

◆DtoCの特徴

・卸や販売店を通さないため利益が大きい
・ブランドやマーケティングを自社で管理しやすい
・自社でWEBマーケティングのノウハウが必要
・ECサイト運営の費用・負担が発生する

つまり、自社にSNSや検索エンジン対策などのマーケティングやECサイトのノウハウがあれば、利益率が高いビジネスモデルと言えるのです。それでは、SNSを使った成功事例を見ていきましょう。

DtoCは単なる直販ではない!価値観として何を大切にするか?が問われる!

DtoCは単なる直販のことではありません。ECサイトを作って、広告を打つだけではDtoCで成功することはできません。DtoCで求められるのは「価値観」として何を大切にしているか?というストーリーをユーザーに訴求していくことです。

例えば、皮製品のバックを販売するDtoCブランドの「HushTug」では、モンゴルの良質なレザーを使うことで、モンゴルに雇用を生むこと、貧困問題や環境問題の課題解決に挑戦することが語られています。

HushTugについて

このようにDtoCでは、価値観として何を大切しているか?そのブランドは何を語るか?が重要なのです。その価値観に共鳴するユーザーが、熱烈なファンとなりブランドを支えていくことになるからです。

DtoCのアメリカの成功事例「Glossier(グロッシアー)」!月間140万人が訪れるコスメブログが熱狂的なファンを囲い込む!

日本ではなじみのないメーカーですが、ニューヨーク発のコスメブランドの「Glossier(グロッシアー)」はDtoCの成功事例としては有名です。

Glossierの創業者兼CEOのエミリーワイズ氏はもともとはファッション誌のVOGUE社にスタイリングアシスタントとして勤務した経験があり、その経験をもとに2010年から下記のファッションブログを運営し、月間140万人が訪れる大人気ブログになりました。

エミリーワイズ氏のファッションブログ:INTO THE GLOSS

このブログでユーザーと意見を交わすうちに「ユーザーの意見を取り入れた、コスメブランドを立ち上げたい!」と思い、エミリーワイズ氏はGlossierを2014年に起業し、米国のコスメ市場で急成長を遂げるにいたりました。

ブランドを短期間で作ることができたのは、ブログの熱狂的ファンのコミュニティがいたことです。下記のグラフをご覧ください。

◆Glossierのブログからサービスサイトへのトラフィックの流れ

グラフデータ元:https://www.cbinsights.com/research/

創業からたった4年でアメリカのコスメ市場に影響をあたえるほどの成長ができた最大の理由は、コスメ好きの熱狂的ファンをブログで囲っていたためです。2014年の創業とともに、ブログユーザーがサービスサイトにも訪れ、爆発的な集客を可能にしていたのです。

さらに、ブログ経由のユーザーの方が、ブログを経由していないユーザーより購入率が40%も高いことがわかりました。これは単にブログで100万人以上のユーザーを集めているのではなく、”コスメ好き”の見込客の囲い込みに成功していることがわかります。

「インスタ映え」しやすい仕掛けとInstagramの徹底活用

Glossierはブログだけではなく、Instagramを徹底活用したマーケティングを仕掛けて成功しています。GlossierのInstagramのフォロワーは1200万人を超えます。ではどのようにInstagramを活用して、フォロワーを増やしているのでしょうか?その一例を下記で紹介します。

◆GlossierのInstagramの仕掛け
①Glossierの製品にインスタ映えしたくなるステッカーを同梱
②ユーザーがそのステッカーを使って、Glossierのタグ(もしくは製品のタグ)をつけてInstagramに投稿
③GlossierのInstagramアカウントがユーザーのInstagramをリポストしてユーザーが大満足
④他のフォロワーもそれを見て、Glossier製品での投稿をする

◆Glossierの製品「BODY HERO」のステッカーでInstagramしたユーザーの投稿をGlossierアカウントでリポストしたもの

このような「インスタ映え」しやすい仕掛けをつくり、Glossierはフォロワーを1200万人まで増やしております。ブログを合わせてInstagramとこれだけの影響力を持っていれば、テレビCMなどにかける広告費用は必要ありません。

しかし、忘れてはいけないのが、Glossierの商品自体が優れている点です。ユーザーの意見を徹底的に取り入れ研究開発してきた商品であることです。単にブログとSNSのマーケーティングを追及したものではありませんし、商品が支持されないと、ブログもInstagramも拡散することはありません。

このように、DtoCにおいては、店舗や小売りに頼らずにブランドを確立していくことが重要であり、そのためにはユーザーから支持されるブランド力と、自分達が主体的に行う集客が欠かすことはできません。

DtoCのビジネスモデルが小売業に必要になる3つの背景とは?

小売業がDtoCのビジネスモデルを必要としているのには、3つの背景があります。

背景①Amazon!ユーザーの52%はAmazon検索から商品検索をスタート

このようなDtoCモデルが必要になる背景の一つは、SNSによってメーカー自身が消費者にコミュニケーションをとることが可能になったことですが、もう一つ大きな要因はAmazonの存在です。アメリカのデータとなりますが、2016年時点でネット通販にて商品を購入する人の52%がAmazonで検索をはじめるデータがあります。

◆「ネットでの商品購入時、どこから検索を始めるか?」の調査結果でAmazonが1位

金融会社Raymond Jamesの調査

今後も消費者がAmazonで商品購入をする流れは続くでしょう。メーカーにとってみればこれは大問題です。今後インターネットで商品を売るにもAmazonを頼らなければなりませんし、Amazonに出店すると、Amazon内の競合他社が多く、価格競争にならざるを得ません。メーカーの利益に多大な影響を与えてしまうからです。

そうならないためにも、自社でファンを囲い、自社のECサイトで購入させる販売チャネルを作らなければ、企業の存続も危うくなる可能性もあるからなのです。

背景②クラウドサービスの普及によりECサイト構築の敷居が下がった!

10数年前でしたら、ECサイトを自社で作るというのは費用と時間がかかるものでしたが、クラウドサービスの普及により、ECサイトを誰でも気軽に作れる時代となりました。

BASEやSTORESなどのクラウドサービスを利用すれば、最短数分でECサイトを開設することも可能であり、資金力が小さいスタートアップ企業であってもEC市場に参入しやすくなったのです。

また、カスタマイズが必要な中・大規模の小売事業者であっても、カスタマイズが可能なクラウドECプラットフォーム※があり、大手に求められる高いセキュリティー基準もクラウド上で保つことができます。

クラウドサービスのメリットは自社に必要とするだけのIT資源をすぐに利用できます。そのため通常のスクラッチによる開発より、早く・低価格でECサイトを構築することができるようになったために、企業規模に関わらず、DtoCに参入しやすい土壌が広まってきたのです。

カスタマイズ可能なクラウドECサービス:ebisumart(エビスマート)

背景③コロナ禍の時代!販売店不振が続く

さらに追い打ちをかけたのが、2020年に世界中で流行した新型コロナウイルスです。下記をご覧ください。

◆2020年3月の米小売業の売上高(季節調整値)

グラフ引用記事:新型コロナで小売業界に大きな打撃、オンライン販売は好調(米国)

このデータはアメリカ商務省の2020年3月(対2019年12月)のデータですがほどんどの小売業者が売上を落としておりますが、その中で「オンライン販売(無店舗小売)」が顕著に売り上げを伸ばしているのがわかります。

また、コロナ禍により都心部を中心にテレワークが普及したことにより、自宅でおしゃれをする必要もなくなり、小売りでは化粧品・アパレル業界が大きく痛手を被っております。

今まで、販売店や代理店によるチャネルで利益を十分に出していた小売企業も、コロナ禍の社会になり、抜本的にビジネスモデルの転換が迫られているのです。

下記をご覧ください。株式会社STANDING OVATIONが2020年の春夏に実施した調査ですが、ですが、店舗よりもネットでファッションアイテムを買う方が多かったという調査結果になっております。

データ引用先:コロナ渦のお買い物は「ネットショッピング派」が5割超え コーデ提案アプリXZ(クローゼット)ECサイトの購入履歴取り込み数が早くも75万点を突破

このように店舗の売り上げがメインだったアパレル各社も、DtoCやショッピングモール参加によるネット販売を強化せざるを得ない状況なのです。

DtoCの失敗事例「商品力がなく、誰も売れないと思いながらも会社の方針なので、仕方なくECサイトをリリースした体験談」

筆者自身も、今から9年以上前ですが過去に所属した会社でDtoCを任されて失敗した経験があります。経営幹部が、海外で買収してきた企業の商品を日本でECサイトを作り販売する方針を決意し、その担当に私がアサインされました。

しかし、商品を見て愕然としました、海外ユーザーには受け入れられるものの、商品の機能やコンセプトが全く日本人に合わないものでした。しかし、経営幹部の方針に変更はないため、私は「こんなもの誰が買うんだ?」と思いながらも、ECサイトを作り、プロモーション用のランディングページをメンバーやWEBコンサルティングの会社とともにプロジェクトを進めました。

結果、半年以上の期間、数千万円をかけてECサイトをリリースしましたが、月間に10件も販売することができず大失敗で終わりました。この時の敗因は3つあると筆者は振り返ります。

◆DtoCが失敗した2つの要因
①商品力の欠如
②他力本願だったEC担当者
③ノウハウの欠如

第一の要因は商品力です。経営トップがある日突然買収した海外の企業の商品を売らなくてならない!という前提がありきでした。日本人に受け入れられるかどうか?という判断もなく、そのまま日本市場に持ってきました。

アメ車が日本で成功していないように、国が異なれば、商品もその国で受け入れられるようにコンセプトや機能の修正が必要です。しかし、商品ありきでの日本でのローンチが決定しておりました。

商品力がないにも関わらず、ECサイトを展開することの最大のデメリットは、EC担当者やプロジェクトメンバーのモチベーションが下がることです。経営トップから言われたことなので動かないといけませんが、担当者達は「誰がこんな商品を買うのか?」という疑問を持ちながら仕事せざるを得ません。当時の私はプロジェクトに対して後ろ向きな気持ちになっていたことを思い出します。

そうなるとEC担当者だった私も他力本願(第2の失敗要因)な仕事になってしまい、WEBコンサルティングの会社にプロモーションを任せましたが、WEBコンサルティングの会社もプロモーションは他の会社に丸投げするなど、プロジェクトの誰もが本気ではありませんでした。

また、の失敗要因として挙げられるのは「ノウハウの欠如」です。筆者自身も当時はWEBマーケティングの経験の浅さかった面があり、さらに、それを補うための外部のコンサルタントでさえも、今考えると勝つための戦略を持っていたとは言い難い面があります。

コンサルタントが私たちに言っていたのは

「リスティング広告でガンガンCVをとりましょう!」
「高速PDCAを回しませんか?」
「広告代理店に社長直下のスペシャルチームを用意してもらいました!」

という耳障りだけは良い言葉で、まったく成果につながらないものでした。ありきたりなWEB施策ばかりで、とても新規事業でポジションを獲得したり、ブランドを確立できるようなものではなかったです。

その結果、ほとんど売れないECサイトがリリースされ、経営幹部の誰もがこの部門を議題に上げないようになり、その後、EC部門はお荷物部門に成り下がりました。このようなことは私にだけ起こった特殊なケースだと思いません。日本企業がよく陥るケーススタディだと思います。

これからDtoCで成功するための日本企業の3つのポイント

それでは先ほどの事例も踏まえて、日本の企業がこれからECサイトでDtoCを成功させるためのポイントを3つ取り上げてまいります。

ポイント①価値観を持つ

冒頭でも解説しましたが、DtoCブランドを成功させる上で、価値観やストーリーを持つことが非常に大切です。DtoCブランドは、広告やSNSを駆使して直接ユーザーに自分達の価値観を伝えることができるようになりました。そして、DtoCブランドが熱狂的に支持されるには、そのブランドがどのような価値観を大切にしているかが問われます。

例えば、筆者はスキンダイビングが好きで、夏には伊豆や関東の海を潜りますが、市販の日焼け止めを使いません。なぜなら市販の日焼け止めには珊瑚や海中の生物に有害な物質が含まれているからです。

しかし、DtoCブランドの中には「珊瑚に優しい日焼け止め」を販売する会社もあり、そのような価値観を持つブランドの商品を買うようにしております。つまり、ユーザーに選択される、支持されるには、価値観が大切なのです。

ポイント②自社のWEBマーケティングノウハウ

予算が限られた中小規模の企業がDtoCを成功させるためには、ブログやSNSを駆使したWEBマーケティングで集客を成功させなくてはなりませんが、ほとんどの企業には経験のあるWEBマーケティングの担当者が不足しているのが現状です。

もちろんWEBマーケティング担当者を企業もアサインしますが、その多くが社内の他部署で経験を積んだ社員であることが多く、WEBマーケティングの知識が豊富ではありません。またWEBマーケティングスキルを持った人材は大手企業を目指したり、独立・起業することが多く、転職市場での採用は困難です。

そうなると、広告代理店にDtoCのWEBマーケティングを依頼することになりますが、メーカー側でもWEBマーケティングの経験がないと、広告代理店の選別がうまくいきませんし、広告代理店の多くは仕事を受注するフェーズにはエースの人材を当てますが、受注後は新卒に近い社員が担当していることは珍しいことではなく、経験がないと、これを見破ることができないのです。

まして、SNSで見込客を増やしていくマーケティングや、ブログ集客はWEBマーケティングの中でも難易度が高く、それをほぼ確実に成功させる優れた代理店など聞いたことがありません

ポイント③ユーザーと向き合う覚悟

DtoCは、販売店や代理店に商品を卸すのと異なりユーザーからの期待やクレームなどを含め、顧客対応を自分たちで一手に引き受けるということです。つまりユーザーと向き合う覚悟が必要となります。

DtoCを単なる仕組みととらえてしまえば、商品の売り上げは商品力次第となります。よほど革新的な商品ではない限り、それだけでは大きな売り上げを見込むことはできません。

しかし、DtoCをユーザーと直接「向かい合う場」ととらえれば、サイト文言の一つ、サポート対応の全てにおいて手は抜けないはずです。DtoCでは、ユーザーと向き合う担当者の覚悟が求められているのです。

まとめ「DtoCの成功の鍵はEC担当者の本気度にかかっている!」

以上、アメリカのDtoCの成功事例から、筆者の失敗事例をおりまぜて、DtoCを日本で成功させるためのポイントを解説しました。アメリカではDtoCを成功させている企業の多くはスタートアップです。その理由は、創業が浅い企業には、まだ社内の制約が少ないため、SNSやブログを使って、ユーザーの体験を軸にWEBマーケティングを行いやすい体制があることです。

ある程度歴史がある日本企業がこれから、DtoCを成功させるのは容易ではありません。なぜならWEBマーケティングでの成功事例やノウハウがないので、その集客に誰もが手こずりますし、日本企業では商品企画とマーケティングの部門が分けられていることが多く、別々に動いてもヒットが生まれにくい体制だからです。

ですから、DtoCを成功させるには、EC担当者の本気度が試されます。広告代理店やコンサルまかせではなく、担当者自身が商品を熟知し、そして商品を使う顧客のフィードバックを受け取り、「自社の商品をどう改善すればいいのか?」といったDtoCの商品開発を自らリードしていかなくてはなりません。

そして、SNSやブログで集客を行うと決めたら、担当者自身でWEBマーケティングに関する情報を集め、自ら施策を実行していくことです。SNSやブログのマーケティングの基本は、ライティングや投稿テクニックよりも「お役立ち情報」です。つまりその分野においてユーザーが喜ぶ情報を発信し続けると、自然とユーザーは集まりますが、キャンペーンやセールス情報だけ発信しても、ユーザーに支持されません。

そのためには、商品においては誰よりも知識がないといけませんし、日々ユーザーの動向を注意深く見なくてはなりません。ですからEC担当者がどこまで本気なのか?にDroCの成功の可否がかかっているのです。

これからDtoC-ECサイト構築やリニューアルを検討している企業、EC担当者の方は、カスタマイズ可能なクラウドコマースプラットフォームの「ebisumart」も、他社とあわせてご検討ください。

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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。