ジュエリー市場の現状とジュエリーECの取り組み事例を解説


2019年末から続くコロナ禍は、世界中に深刻な影響をもたらしています。特に、コロナ禍の外出自粛・営業自粛要請下で、「不要不急」に該当する旅行、飲食産業などは大打撃を受けています。

以前より景気の低迷が続く国内の需要が落ち込んでいたジュエリー業界では、インバウンド需要による増収が期待されていましたが、パンデミックによってその機会は消滅し、店頭販売を主戦場とするジュエリー企業は苦戦しています。

そのような中、ジュエリー企業によるオンライン化の取り組みが活発化しています。

高価な装飾品を取り扱うジュエリー物販のEC(以降、ジュエリーEC)では「期待を裏切らない顧客体験(CX)」を提供するための仕組みをどのように実装するかが重要になります。

この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、ジュエリー業界のEC市場の現状とオンライン化を推進する企業が取り組んでいるEC戦略を紹介します。

縮小し続けるジュエリー市場をコロナ禍が追い打ち

まず、ジュエリー業界の市場規模の推移を見ていきましょう。下図は、株式会社矢野経済研究所の調査報告で、ジュエリー市場規模の推移を示したグラフです。

◆国内宝飾品(ジュエリー)市場規模推移と予測

ジュエリー市場規模推移
注1. 小売金額ベース
注2. 2022年は予測値

出典(図表):株式会社矢野経済研究所|プレスリリース「宝飾品(ジュエリー)市場に関する調査を実施(2022年)」(2022年3月1日発表)のデータに基づき筆者が作成

グラフを見ると、2020年の落ち込みは2021年には回復し、9,624億円となっています。さらに2022年は、2019年を上回る1兆円規模に達すると予測されています。この上昇(または上昇予測)は、自粛していた消費者の「リベンジ消費」による反動効果が反映されていると考えることができるでしょう。

コロナ禍前の1991~2019年までを見ると、1991年の3兆円以降、ジュエリー市場は右肩下がりであったことが分かります。また近年は、外資系ブランドを中心とする中堅企業の経営破たんM&Aの活発化など、ジュエリー業界は混迷期に直面しています。

参考:流通ニュース「フォリフォリジャパン/新型コロナで販売減少し破産、負債は13億円」(2021年2月25日掲載)
TCIL(取引信用保険ラボ)|倒産情報「アガタジャポン株式会社が東京地裁に破産を申請
アーツアンドクラフツ株式会社「縮小市場におけるM&A傾向 ~ジュエリー業界の今後~」(2021年4月16日掲載)

このような苦境の中、一部のジュエリー企業はECにフォーカスし、具体的な取り組みを開始しています。

ジュエリーECの成長の可能性

若者を中心に幅広い層から支持されているジュエリーブランドの「4℃(ヨンドシー)」を運営する株式会社4℃ホールディングスの2021年2月期決算では、コロナ禍の時短営業や休業、外出自粛などの影響で、ジュエリー事業全体の減収減益が報告されています。しかし内訳を見ると、ECチャネルは前期比+30%の収益増となり、前年は10.9%だったEC化率が17.0%に伸長しています。

同社では、引き続きジュエリー事業でのCRMシステムの活用とブランドサイトリニューアルなどを含むオンライン施策の強化を掲げており、オンライン化への意欲の高さがうかがえます。

参考:株式会社4℃ホールディングス「第71期(2021年2月期)決算説明資料」(2021年4月12日)

近年のデジタル化の流れが、さまざまな業界のオンライン化を進め、消費者にとってオンライン消費は主要な選択肢の一つになりつつあります

ジュエリーECにおける主要な3つの取り組み

ジュエリー業界は、店頭での対面販売を得意としている業界です。そのためジュエリーECでは、対面販売での顧客体験をオンラインでどこまで再現できるか、という点が極めて重要になります。以下で、ジュエリーECを展開している企業の事例に沿って、ジュエリーECにおける主要な3つの取り組みについて解説します。

①オムニチャネル

ECなどのオンラインチャネルと店舗などのオフラインチャネルを連携し、統合的な顧客アプローチを行う「オムニチャネル」は、小売業界の各企業が最も力を入れている販売戦略の一つです。

ブライダルジュエリーショップの「アイプリモ」や「ラザール ダイヤモンド」を運営しているプリモ・ジャパン株式会社をはじめ、すでにジュエリー業界でも、オムニチャネルの代表的な施策である「店舗受取サービス」を提供しています。

参考:プリモグローバルホールディングス株式会社|ニュースリリース「大手ジュエリー専門店で初となる「オムニチャネル」体制が完成」(2017年12月21日発表)

また、新品・リユース品の宝飾品の仕入れ・販売を行っているKOMEHYO(株式会社コメ兵)のLINEによるオンライン査定サービスも、オムニチャネル戦略のオンラインとオフラインの仕入れ管理の統合施策の一環として捉えることができます。

◆KOMEHYOの「LINE査定」の依頼方法

コメ兵のLINE査定

引用(画像):KOMEHYO(株式会社コメ兵)「LINEで査定」ページ

②バーチャル試着機能

ECでは、消費者は商品の実物に触れることができません。そのため、アパレルECなどでは、画面上で「商品の質感や色み、サイズをより正確に伝える」ための工夫を追求し続けています。

ジュエリーECでも、商品の質感や色み、サイズは、購入時に最も重視されるポイントです。分かりやすいサイズ表の掲載、ユーザーが入力した身体測定値に基づいた適正サイズの提案機能、店舗受取サービスなど、さまざまなアイデアを検討する必要があります。

ここでは、先進技術を採用した「AR試着」サービスの事例を紹介します。
株式会社サザビーリーグが運営するEC限定ジュエリーブランド「ARTIDA OUD(アルティーダ ウード)」が2022年6月にリリースした、AR技術を使用したバーチャル試着サービスです。

このサービスでは、アプリをインストールすることなく、ECサイトで、モデル画像(またはその場で撮影した自分の写真)に商品画像を重ね合わせることで、着用時のイメージを確認することができます。複数の商品を重ね付けしたり、人物の肌の色を調整したりできるため、非常にリアリティのあるシミュレーションを可能にしています

参考:PR TIMES「‟ARTIDA OUD” ジュエリーブランドで国内初となるAR試着ソリューションを導入」(2022年6月7日掲載)

◆ARTIDA OUDのバーチャル試着(モデル画像利用時)

artidaoudのバーチャル試着

引用(画像):公式ECサイト「ARTIDA OUD」の商品ページ

装着範囲が体全体に及ぶ衣服などの場合には、個人差が大きくなるためリアルタイムでのシミュレーションは複雑になりますが、ジュエリーの場合は、装着範囲が限られており、体の動きに合わせた商品の伸縮を考慮する必要がないため、相性の良い機能と言えるでしょう。

現時点では、「AR試着」は高価な機能なので、今すぐ導入できる企業は多くないかもしれませんが、将来的には、ジュエリーECの基本機能として普及する可能性を持つ優れた機能です。

③Web接客

ジュエリー業界のオンライン化が遅れた理由の一つとして、高額かつ専門性の高い商品のため、実際に商品を見たり、専門家の説明を聞いたりしたいという消費者ニーズの高さが挙げられます。

企業、消費者の双方が「接客」に重点を置いていることが多く、店頭での接客は丁寧かつ十分な時間をかけて行われ、消費者も納得がいくまで検討することができます。そのため、ジュエリーショップは優雅な顧客体験が提供される場所というイメージが確立している印象があります。

店頭での体験に近い顧客体験をオンラインで実現するためには、「Web接客」機能が不可欠です。

クリスタルブランドの「スワロフスキー」では、2020年10月からオンライン接客サービス「SWAROVSKI ONLINE APPOINTMENT(スワロフスキー・オンラインアポイントメント)」を開始し、オンライン接客では購入率は約80%で、客単価も店舗平均の約5倍という成果をあげています。

参考:リテール大革命byITmediaビジネスオンライン「スワロフスキーは客単価5倍に! 「ライブコマース」導入で売り上げがアップした理由」(2022年6月30日掲載)

フランスの高級老舗ジュエリーブランド「CHAUMET(ショーメ)」は、LINEやZoomなどを使って店頭に行かなくても、ジュエリーアドバイザーの接客を受けることができる「サロンドゥショーメオンライン」という新サービスを2020年5月にリリースしました。

参考:公式オンラインサービス「サロンドゥショーメオンライン

「4℃ジュエリーオンライン」のチャットボットサービスでは、自動応答で解決できない場合は、アドバイザーによる対応に切り替えることができる「ハイブリッド接客」サービスが提供されています。

◆4℃ジュエリーオンラインショップのチャットボットサービス

ヨンドシーのチャットボット

引用(画像):「4℃ジュエリー オンラインショップ」の商品ページ

もともと接客力の高いジュエリー業界では、店舗の買い物体験を大きく下回ることのない体験をオンラインで実現するための工夫が必要になります。

SNSが販売チャネルとして急成長

ジュエリー業界ではオンライン化に伴い、SNSを活用したマーケティング活動も活発に行われています。

SNSがジュエリー市場のトレンドとなっている背景には、若い頃から日常的にSNSを利用してきた世代が、経済的に余裕が生まれ、結婚などのイベント期にも差し掛かっていることで、購入機会が増えていることもあるのではないかと筆者は推測します。

InstagramやYouTube、ファッション専門アプリなどを通じて、多くのジュエリー企業が情報を発信しています。また、人気のインフルエンサーに商品PRを依頼したり、コラボレーション商品を発売したりして、集客と売上の拡大を目指しています。

参考:PR TIMES「Instagramフォロワー総数36万人 人気インフルエンサーayaさんがプロデュース Canal 4℃×is amulet.コラボレーションジュエリー発売」(2021年12月17日掲載)

また、価格交渉や商品イメージ・背景の伝達がしやすい動画配信によるオンライン販売(ライブコマース)やライブチャットも、ジュエリーECに最適な方法と言えるでしょう。

オンライン化による成長の余地が大きいジュエリー市場

長年にわたり市場規模の縮小が続いたジュエリー業界では、廃業やM&Aによる企業淘汰も起こっています。しかし、近年のデジタル化の流れはジュエリー業界にとって大きなチャンスと見ることもできます。先進技術を活用した販売手法と、グローバルな販売チャネルを開拓することで、ジュエリー業界の復興と新たな企業成長を実現できる可能性があります

店頭での対面販売を得意としてきたジュエリー業界には古い商習慣も残っており、デジタル化を推進するための障壁も少なくないでしょう。それでも、業界と企業が成功するためには、事業のオンライン化に思い切って舵を切ることが必要でしょう。

海外での日本製の宝飾品に対する需要の高さからも、海外市場への参入、すなわち越境ECを検討すべきです。現在は、越境ECのプラットフォームサービスや支援サービスも増えており、参入のハードルは以前より低くなりつつあります

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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。