【2020年】家電EC業界のEC化率が今後も伸びる3つの理由


経済産業省が2021年に発表した電子商取引実態調査の令和2年度(2020年度)の報告書によると、2020年の家電販売市場のEC化率は37.45%となっており、物販市場全体のEC化率が8.08%であることを見ても、家電販売業界はEC化が非常に進んでいる市場であることが分かります。家電販売業界とECの相性が良い理由として、次の3つが挙げられます。

①「型番買い」ができるため、同じ性能・品質の商品を最安値のショップで購入できる
②大型家電も自宅に配送してもらえるため気軽に購入できる
③Webサービスを利用して、商品やショップを比較検討できる

このように、より便利な購入方法を選択したいという消費者ニーズとの相性の良さが、他産業と比べて家電産業のEC化率を押し上げていると考えられます。また、コロナ禍で消費者行動が変化し、さまざまなシーンでECを利用する人が増えているため、大手の家電販売企業でもECシフトを加速しています。

本日はインターファクトリーでWebマーケティングを担当している筆者が、Webマーケティングの視点から、データや事例を通して家電EC市場の現状を詳しく解説していきます。

当記事においてデータや図は指定がない場合、経済産業省の最新の調査結果より引用:「令和2年度 産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」経済産業省

2020年の家電EC市場は2.3兆円規模に!

下図は家電販売業界の2014~2020年の市場規模とEC化率の推移を示したグラフです。

参考:「電子商取引実態調査(経済産業省)」の平成27年~令和元年報告書のデータに基づき筆者が作成

2015年にEC化率が前年(2014年)から4%以上も上昇していますが、これは2014年4月に施行された消費税増税(5%から8%への税率変更)に伴う駆け込み需要が影響していると見られています。同様に、2018年が前年(2017年)から上昇(2%以上)しているのも、2019年10月施行の消費税増税(8%から10%への税率変更)の影響によるものと見られます。

そして、コロナ禍においては5%も上昇するなど、巣ごもり需要が急増したことで、家電販売市場のEC化率も大きく上昇した分野となりました。

家電販売はECと相性が良い。その理由は「型番買い」にあり!

以下の表を見ると、物販系分野の市場全体の中で家電は事務用品、電子書籍に次いでEC化率が2番目に高いことが分かります(表の赤字部分が家電販売業界に該当)

◆物販系分野のBtoC-EC市場規模とEC化率の推移(2018~2020年)

参考:「電子商取引実態調査(経済産業省)」の平成30年度、令和元年報告書のデータに基づき筆者が作成

家電のEC化率が高い(37.45%)理由の一つに、「型番買い」ができる点があります。

例えば多くの場合、あるメーカーのテレビを買う際には、自宅でWeb検索して最も安い価格で販売しているショップで購入し、自宅まで配送してもらえるECの方が、近隣の店舗に足を運んで買うよりもユーザーの利便性は高くなります。

型番が同じであればどこで買っても商品の性能・品質が変わらない家電は、型番検索や価格比較機能が充実しているECと非常に相性が良いと言えるでしょう。

家電は高価格帯の商品も多いため、さまざまな商品や店舗を簡単に比較し、検討できるというECの特徴は、ユーザーの利便性を大きく向上します。

また最近では、家電の比較記事だけでなく、家電の商品説明を投稿している「レビュー系YouTuber」も増えたことで、目の前に商品がなくても、プロの販売員の説明を受けられなくても、詳細な商品検討ができるようになってきています。

参考事例:レビュー系YouTuberのカズ氏が開設している「カズチャンネル/Kazu Channel

家電EC企業の2019年度売上高ランキング、ベスト5

2019年の家電EC企業の売上高ベスト5を紹介します。当ランキングでは、ネットショップ担当者フォーラムに掲載された記事をもとに、「主要商材」が「家電」の企業のみを抽出しています。

◆家電EC企業の2019年度売上高ランキング(ベスト5)

1位:ヨドバシカメラ       1,385億円
2位:ビックカメラ        1,081億円
3位:ジャパネットたかた 580億円
4位:上新電機          571億円
5位:ヤマダ電機             450億円

参考:ネットショップ担当者フォーラムの通販新聞ダイジェスト【2020年版】EC売上ランキング1位はアマゾン。2位はヨドバシ、3位はZOZO、4位はビックカメラ、5位はユニクロ」(通販新聞2020年10月掲載記事)に基づき筆者が作成。

それでは各企業のECの取り組みを詳しく見ていきましょう。

家電EC市場ナンバー1のヨドバシカメラのEC戦略

ランキング1位のヨドバシカメラは、国内の大手家電販売企業の中で最もECを成功させている企業です。家電販売業界では数年前まで、ユーザーがAmazonや価格コムなどのWebサービスを利用するようになったことで増加した「ショールーミング」への対策が大きな課題であると考えられていました。

◆ショールーミングとは?
ユーザーが実店舗に行き商品を見て触って確認した後、その店舗では購入せずに最も安い価格で販売しているオンラインショップ(ECサイト)で商品を購入する行為のこと。

しかし、ヨドバシカメラはユーザーの行動を逆手に取り、実店舗をショールームに見立てて販売員による商品説明などの接客サービスを提供し、ユーザーが実店舗と公式オンラインショップ(ECサイト)のどちらでも購入できる仕組みを整備しました。

同社がそれらを実現できた背景には、大手家電販売企業の中で一番早くEC投資を行っていたことと、在庫を店舗で持たず、物流センターで管理するという体制をすでに構築しており、ECサイトでも従来の物流網をそのまま利用できたということがあります。

ヨドバシカメラのECサイトは、2017年には7年連続で顧客満足度ナンバー1に選出されるなど、高い評価を受けています。

参考:ヨドバシカメラ公式ニュースリリース:「おかげさまでヨドバシカメラは日本版顧客満足度指数調査で7年連続NO.1」(2017年2月掲載記事)

また、ヨドバシカメラでは都内中心エリアを対象に、商品の注文後2時間30分以内で自宅に届けるサービス便「ヨドバシエクストリーム」も開始し、現在は物流拠点と対象エリアの拡大に取り組んでいます。

「ヨドバシエクストリーム」は対象商品であれば1品から送料無料で、受け取り日時の指定もできるため、ヨドバシポイントをうまく使うことで、Amazonや楽天市場より、お得かつ便利に買い物をすることも可能です。価格と利便性の両面でヨドバシカメラの家電EC市場における圧倒的な優位性を支えている主力サービスと言えるでしょう。

ビックカメラはOMOに注力!

近年の巣ごもり需要に応えるために、ビックカメラのEC部門も急成長しています。ビックカメラは、OMO(Online Merges with Offline)に力を入れて、店舗とECの融合を進めています。

OMO(Online Merges with Offline)の詳細記事:OMOを3つの海外・国内事例やUXで理解するプロの解説

例えば、店舗の商品棚に付いている電子棚札にはNFC(近距離無線通信規格)が搭載されており、ユーザーはスマホでビックカメラの公式アプリを起動し、電子棚札にタッチすることで、「商品情報」「在庫情報」「購入者レビュー」などをチェックできます。

◆電子棚札

※引用(画像):株式会社ビックカメラ、株式会社コジマ「2020年8月期 第2四半期 決算説明資料」p30

電子棚札に表示される販売価格は公式オンラインショップの「ビックカメラドットコム」と連動しており自動表示できます。

従来は、本社部門が競合他社の価格を調査して各店舗に販売価格を伝え、店舗スタッフが手作業で値札を交換していたため、繁忙期や価格変動が激しい時期には付け替えが間に合わないというケースもありました。

電子棚札を導入したことで、本社部門が直接、リアルタイムで店頭表示価格を更新することができるため、店舗の作業負荷の大幅な軽減にもつながりました

参考:ITmediaビジネスONLINEリテール大革命 「価格がコロコロ変わる! ビックカメラが「電子棚札」を導入したら何が見えてきたのか」(2019年10月掲載記事)

電子棚札の導入事例からも、ビックカメラが店舗とECを融合するOMOに注力していることが分かります。

さらに、同社は自社ECサイトだけでなく、楽天市場内にも「楽天ビック」という公式ストアを開設しており、楽天会員の集客にも力を入れています

商品点数を従来の7%に絞り込んだジャパネットたかた

テレビ通販で有名なジャパネットたかた(ランキング3位)は、2016年7月に公式通販サイト(ECサイト)をリニューアルし、その際に取扱商品数を8,500点から600点程度に絞り込むことにしました。

参考:DCS(DIAMOND Chain Store) online減らした商品は9割! ジャパネットがEC戦略で大事にしている「厳選集中」の本質」(2020年6月掲載記事)

同社ではもともと全体の7%の商品が、従来の売上のおよそ93%を占めており取り扱う商品を7%に限定したことで、物流拠点の在庫管理やコールセンターでの対応が効率化し、商品到着までの時間短縮やより適切な顧客対応を実現しています

ECサイトでは一般に、取扱商品数を充実させることで顧客満足度を高めるという手法がよく用いられますが、ジャパネットたかたは、逆の手法を大胆に実行したことで成功している事例です。

また、商品ごとのセールスポイントを45秒にまとめた動画をすべての商品ページに設置するなど、CVR(コンバージョン率)を高めるための仕組みも、テレビ通販のジャパネットたかたらしい工夫と言えるでしょう。

◆ジャパネットたかたの公式通販サイトの商品ページに設置されている「45秒動画」

引用(画像):ジャパネットたかた公式通販サイト(商品ページ)

ジャパネットたかたには販売店舗がない*ため対面での接客の機会がありません。そのため、45秒の商品紹介動画を通じたWeb接客の手法は、実店舗を持たないネット通販事業者の弱点を十分に補完できる非常に優れた取り組みと言えるでしょう。
*一部の商品を体験できるショールームは開設されています。

上新電機は楽天グループとの提携を強化!

ランキング4位の上新電機は関西に本拠地を置く家電販売企業で、関西地域の家電量販店の経営破綻や経営統合が進む中、関西資本で唯一、独立経営を維持している大手家電量販店です。

上新電機もEC需要の高まりを受け、ECから店舗へ、あるいは店舗からECへの相互送客の仕組み(O2O:Online to Offline)を強化し、物流体制の整備と顧客データの統合を推進しています。

参考:ネットショップ担当者フォーラム上新電機のEC売上は717億円で25.5%増、EC化率は16%【2020年度実績】」(2021年5月掲載記事)

注目すべき取り組みの一つとして楽天市場との提携強化が挙げられます。上新電機は、自社のECサイトの他に楽天市場内にも公式ストアを開設していますが、上新電機の実店舗でも楽天スーパーポイントを使用できるようにしており、また次のような楽天グループのサービスも実店舗で利用できるようにしています。

◆上新電機の店舗で利用できる楽天グループのサービス例

・楽天チェック(来店ポイントアプリサービス)
・楽天Edy(電子マネーサービス)
・楽天ペイ(アプリ決済サービス)

※参考:上新電機株式会社通期決算説明動画「2021年3月期(2020年4月~2021年3月)決算説明

さらに、楽天会員向けに楽天市場の公式ストアで、上新電機の店舗で実施しているキャンペーンを紹介するなど、自社サイトを超えたO2Oを積極的に展開しており、ユーザーは楽天ポイントとジョーシンポイントの両方を受け取ることができるため、双方に大きなメリットを生み出しています。

ネットとリアルの融合を目指すヤマダ電機

ランキング5位のヤマダ電機も、EC戦略を促進しています。下図は同社の2021年3月期の決算資料のEコマース事業に関する資料です。

引用:株式会社ヤマダホールディングス2021年3月期_上記決算説明資料

上図に示されているとおり、ヤマダ電機では「テレビ通販」と「ECサイト」から実店舗への送客と通販で購入した商品の店舗受け取りサービスを強化しています。

特にネットとリアルの融合を掲げる「YAMADA web.com(ウェブコム)店」は、通常店舗の約2倍もの品ぞろえで、家電だけでなく生活に必要な家具・インテリア、リフォーム関連商品なども販売している特別な店舗です。ヤマダ電機が大塚家具を完全子会社としたのも、この戦略の一環と言えるでしょう。

※参考:東洋経済ONLINE大塚家具、ヤマダの「完全子会社化」でたどる末路」(2021年6月掲載記事)

また、YAMADA web.com店では、ネット注文した商品を最短30分で受け取ることができる「ネットで注文、おみせde受取」というサービスを展開しており、2020年10月時点で20の対象店舗を2022年度末までに100店舗にまで拡大する予定です。

※参考:株式会社ヤマダホールディングス2021年3月期_上記決算説明資料

家電の物販では商品の性能・品質はどの店舗でも変わらないため、価格競争になりやすいのですが、YAMADA web.comのような形態の店舗を増やすことで、購入のしやすさだけでなく、家電と一緒に家具やインテリアなどを1カ所でそろえることができるという利便性も、ヤマダ電機の大きな強みと言えるでしょう。

家電EC業界の3つのポイント

今後の家電EC業界が取り組むべき重要なポイントは次の3つです。

ポイント①店舗とECの融合、および相互送客の仕組み(OMO、O2O)

下図は家電販売業界の「EC」と「対面」における消費指数を比較したグラフです。

◆家電販売業界の消費者指数の推移(2016~2021年)


▲網掛け部分は新型コロナウイルスの感染拡大以降(コロナ禍)。2016年1月を100として指数化

※引用(グラフ):BUSINESS INSIDERもはや止められないEC化が顕著な業種とは? ──消費データが解き明かす「ECシフト」の実態」(2021年3月掲載記事)

2020年以降は新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で、「対面」よりも「EC」の消費指数が伸びています。将来的には「対面」の消費指数は、パンデミックの収束とともにある程度は回復すると考えられますが、今後は、業界全体がECにシフトしていくことは間違いありません。

そのため、家電EC企業は店舗の位置づけを見直すとともに、次のような施策の強化が必要になるでしょう。

・店舗顧客のECサイトへの積極的な誘導
・ECで購入した商品を店舗で受け取れる「お渡し場」の設置
・物流拠点および倉庫としての店舗活用
・ショールームとしての店舗の役割

つまり、ユーザーの利便性を追求したOMOの実施が重要になります。

ポイント②物流拠点の整備

大手家電企業ではすでに物流拠点を拡大しています。全国に物流拠点を置くことでリードタイムを短縮し、ユーザーにいち早く商品を届けることができるからです。

しかし、物流の仕組みは単純ではなく、拠点を増やすということは、各拠点で在庫を管理することになるため、高コスト体質に陥りやすくなります。家電販売業界は価格競争が激しいため、高コスト体質では価格競争力を失うことになりかねません。

そのため、単に物流拠点を増やすのではなく、物流拠点や商品のお渡し場としての店舗機能の拡大や物流拠点の効率化が求められます。

また、ユーザーは「早く商品が届く」というだけではなく、「必要な時間に任意の方法で商品を受け取れる」ことを望んでいます。そのためECサイトでは、日時指定や置き配などの受け取り方法を選択できるようにするなど、物流体制やシステム機能を含む全体視点でのサービス開発が必要になります。

ポイント③楽天市場への出店と自社ECサイトのバランス

現在、国内で1億を超える会員*を擁する楽天市場は、家電販売業界にとっても魅力的な市場です。そのため大手家電企業も楽天市場に公式ストアを開設しています。
*会員登録完了後1回以上ログインをしたことのある楽天ID数(退会者を除く)。

◆楽天市場に公式ストアを開設している大手家電企業

・ビックカメラ
・ヤマダ電機
・上新電機  など

中でも、上新電機は楽天グループとの提携を強化し、楽天市場から店舗への送客に注力しています。楽天市場に参入すると多くの楽天会員に商品を宣伝・販売することができるため売上増加につながります

しかし、楽天市場などの大手ショッピングモールでは、出店するために手数料がかかります。また個々の契約にもよりますが、家電企業は楽天スーパーポイントや広告費の原資も手数料として徴収されるケースが多いため、楽天市場の公式ストアの利益率はあまり高くありません。

そのため、楽天市場などの大手ショッピングモールに出店する場合には、同時に利益率を改善しやすい自社のECサイトの集客強化にも努める必要があり、モールと自社サイトのバランスを意識したEC戦略が不可欠です。

また、楽天市場を利用したモール戦略では、上新電機のように、楽天グループとのアライアンスを高める取り組みも重要なポイントとなります。

家電EC市場で生き残るために

ひと昔前まで、ECは家電販売企業にとって脅威でしかありませんでした。ECで多くの人が買い物をするようになった今日、家電販売企業がECシフトをせずに市場で生き残ることは難しいでしょう。しかし、高価な家電製品は、実際に商品を見て試して購入したいと考えるユーザーも多いため、実店舗の存在意義がなくなることはありません。

そのため、店舗とECを融合するOMO戦略は、家電EC市場での生き残りを分けるカギとなるでしょう。

また、ECに限らず、Webでは次々と新しいテクノロジーとサービスが登場しているので、これからはそれらを積極的に取り入れる姿勢を持つ企業が、市場でも優位に立つことになるでしょう。


ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。