事例で紹介!リカーリングとはCXを追求するビジネスモデル


リカーリングとは、売り切りではなく、継続課金によって経常的に収益を得ることを目的とするビジネスモデルのことです。「Recurring」は「循環する」「繰り返す」という意味を持つ単語です。

リカーリングビジネスでは、ユーザーが料金を支払って利用し続けたいと感じるようなCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)サービスの設計が成功の鍵となります。

「リカーリング」という言葉はなじみがないかもしれませんが、皆さんが支払っている公共料金サービス(電気など)はリカーリングモデルで提供されています。また下記のような「サブスクリプションサービス」もリカーリングビジネスの一つの形態です。

・スマートフォンの有料アプリ
・映画やドラマ視聴の定額サービス
・旬の食材や雑貨を宅配してくれる頒布会サービス
・ウォーターサーバーサービス

リカーリングビジネスで注力すべき最も重要な戦略は、CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)です。売り切りのフロー型ビジネスとは異なり、収益の積み上げを前提とするストック型のリカーリングビジネスでは、ファンとなるユーザーを増やすことが、経常的な収益の拡大につながるからです。

この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、リカーリングビジネスについて詳しく解説します。

リカーリングビジネスの3つの成功事例

まずは、リカーリングビジネスについての理解を深めるために、大手グローバル企業3社の成功事例を見ていきましょう。

事例① Apple(iPhone/App Store)

appstore

引用元(画像):Apple公式サイト「App Store│トップページ

Appleが販売しているiPhoneの世界のユーザー数は10億人以上(2020年時点)に上り、世界中で利用されていることが分かります。

参考:Ubergizmo Japan「世界のiPhoneユーザー、10億人に到達」(2021年1月31日掲載)

App Storeでは、世界中の個人や企業が多種多様なアプリを開発・公開し、有料アプリやアプリ課金ビジネスを展開しています。

App Storeでアプリを公開する場合、年間登録料だけでなく、登録後も有料アプリやアプリ内課金でAppleが提供する決済システムを利用するための料金(決済手数料)として、売上の15~30%(企業規模により異なる)を支払う必要があります。iPhoneのユーザー数だけを見ても、このビジネスモデルがAppleに多大な収益をもたらしていることが分かります。

Appleでは、「iPhoneのシェア拡大によりiPhoneユーザーが増えることでiPhone(iOS)アプリの需要が高まり、その結果App Storeでのアプリ取引が活発化してアプリユーザーが増え、Appleは経常的な収益を得ることができる」という典型的なリカーリングビジネスモデルを採用しています。

Appleの循環型ビジネスの根幹となっているのが、「iPhone」という優れたデザイン、UI、サービス、そして世界中にファンを擁するブランド力を持つ製品の存在です。Appleは、操作性のよい優れた製品を通じて、消費者に突出したCXを提供し続けることで、熱烈なファンを獲得しています。

事例② Amazon(会員制プログラム「Amazonプライム」)

◆Amazonプライム

AmazonPrime

引用元(画像):Amazon公式サイト「Amazonプライム│トップページ

2021年に世界の会員数が2億人を突破したAmazonプライムの会員制プログラムは、日本では年会費4,900円または月間プラン500円(いずれも税込料金、2023年3月現在)を支払うことで利用(会員登録)できます

参考:日本経済新聞「Amazon、プライム会費を欧州で引き上げ 最大43%」(2022年7月26日掲載)

Amazonプライムでは、以下のような会員特典を提供しています。

◆日本のAmazonプライムの会員特典の例(2023年3月現在)

・配送料無料(対象商品のお急ぎ便、お届け日時指定便)
・Amazonプライム会員限定セール(特別セール、先行タイムセール)の開催
・Prime Video(会員特典対象動画を見放題)
・Amazon Music Prime(1億曲の楽曲再生が可能)
・Amazon Photos(容量無制限で写真保存が可能)

参考:Amazon公式サイト「ヘルプ&カスタマーサービス│Amazonプライムについて

例えば、Amazonプライムの特典に含まれる動画配信サービスの「Prime Video」は「Netflix」などの動画配信に特化したサービスと競合します。しかし、Amazonプライム会員プログラムでは、動画だけでなく音楽配信サービスの利用やECモール利用時の特典など、生活のさまざまなシーンで恩恵を受けられるため、特化型サービスよりも解約されづらく、また、特化型サービスとの併用がしやすい構造になっています。

さらに、動画や音楽などのサービスがきっかけとなりAmazonプライムの会員が増えることで、ECモールのユーザーが増えることも期待でき、ストック型ビジネスとフロー型ビジネスの好循環を生み出せるビジネスモデルが確立されています。

Appleと同様に、世界規模のエコシステムが確立しているAmazonならではの強みを生かしたビジネスモデルと言えるでしょう。

事例③ ソニーグループ(Play Station)

PlayStation Plus

引用元(画像):株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント「PlayStation Plus公式サイト│トップページ

PlayStationの有料オンラインネットワークサービス「PlayStation Plus」の会員数は、2021年10月時点で、4,720万人(2021年度第2四半期)となりました。

参考:ソニーグループ株式会社「2021 年度第 2 四半期連結業績補足資料」(2021年10月28日発表)

PlayStation Plusは、3つのサービスプランで「1か月」「3か月」「12か月」のいずれかの利用期間を選んで利用できるサブスクリプションサービスです。

参考:株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント「PlayStation Plus公式サイト『概要|プランを選ぶ』

AppleのiPhoneと同様にPlayStationもまた、本体をより多く売ることで、PlayStation Plusサービスの会員数を増やすというビジネスモデルです。

ソニーグループ株式会社では、2006年11月の「PlayStation Store」のオープン、2010年6月の「PlayStation Plus」のリリースなど、デジタルプラットフォームに継続的に投資してきました。2015年1月には、世界中のPlayStationユーザーに総合的なエンターテインメント体験を提供するプラットフォームである「PlayStation Network」をリリースし、エンターテインメントの巨大デジタルネットワークを実現しています。

参考:株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメント プレスリリース「『プレイステーション ネットワーク』総合的なデジタルエンタテインメントブランドとして映像・音楽のサービスを統合」(2015年1月29日発表)

現在のオンラインゲームの世界市場の活況を見ても、ソニーグループが、自社の強みを生かしながら時流をとらえたビジネスを展開してきたことが分かります。

リカーリングビジネスが注目されている3つの理由

リカーリングビジネスが近年注目されている理由としては、次の3つが考えられます。

理由① 差別化が困難になった

企業がリカーリングビジネスに注目する理由の一つに、商品やサービスの差別化がしづらく、従来のフロー型ビジネスモデルで収益を得ることが難しくなってきたことが考えられます。

現代は世界各国の経済成長とインターネットの普及によりグローバル化が進み、国内だけでなく世界中の企業が競合となり、サービスや商品の差別化が極めて難しい時代となっています

消費者が商品やサービスに求める基本機能はすでに実現されており、従来のビジネスモデルの中で企業ができる創意工夫も頭打ちとなっている印象があります。

家電業界などのように、高付加価値を持つ製品を市場に投入しても、すぐに機能が一般化して市場価値が低下する「コモディティ化」が起こりやすい市場では、以前から、新しい価値を提供するビジネスモデルへの転換の必要性が認識されていました。

参考:日本経済新聞「家電業界が挑む「コモディティー化」という怪物、価格の”半減期”は3年」(2012年4月15日掲載)

今日では、あらゆる業界がビジネスモデルの転換を避けて通ることができない状況になりつつあります。

理由② 価格競争が激化した

インターネットが普及したことで、消費者は世界中のショップを比較して、欲しい商品を購入できるようになりました。ショップを探す基準は人それぞれだと思いますが、購入を決める最終局面では価格が大きな決定要素となります。そのため、EC市場は価格競争の激化と小売全体の低価格化を生み出しやすい市場でもあります。

参考:株式会社第一生命経済研究所「巨大化するネット消費市場(中編)」(2021年9月10日掲載)

小売市場のEC化は今後も進むことが予想される中で、売り切り型のフロービジネスだけで利益を維持・拡大し続けることは難しいでしょう。

理由③ 顧客が求める価値がモノ(所有)からコト(体験)に変化

2016年にGfKが実施した調査では、消費者はモノ(所有)よりも、コト(時間・体験)の価値をより重視していることが分かっています。

◆「所有よりも体験の方が大切か」という質問に対する回答(2016年にGfKが実施した調査)
※中央の丸の中の数字は年代を表す

モノとコトの比較アンケート結果

引用元(図表):ネットショップ担当者フォーラム「所有(モノ)より体験(コト)を重視する消費者は約3割」(2017年6月6日掲載)
【GfKの調査概要】
調査対象:世界17か国の15歳以上の消費者2万2000人(記事では日本での結果を抜粋)
調査方法:インターネット調査
調査時期:2016年夏

企業が消費者の期待に応えるためには、モノだけを売って終わりではなく、モノをきっかけとするあらゆる顧客接点で優れた体験を提供していく必要があります。

先述のApple、Amazon、ソニーグループでも、「質の高い製品(モノ)」に加えて、「モノに付随するさまざまなプロセスにおける優れた体験」を提供しています。

リカーリングビジネスでは、従来のモノ売りの概念を超えて、いかにCXを最大化していくか、という視点でサービスを設計することが重要になります。

リカーリングビジネスを設計する際の3つのポイント

リカーリングビジネスにおけるサービス設計で重要になる3つのポイントを、以下に紹介します。

ポイント① CXを中心としたサービス設計

リカーリングビジネスでは、モノではなくCXを中心としたサービスを設計します。リカーリングビジネスモデルの本質は、顧客価値を最大化することなので、顧客に使い続けたいと思ってもらえるサービスを開発する必要があります

日頃は取り立てて意識することはないかもしれませんが、AppleやAmazonなどのサブスクリプションサービスでは優れたCXが提供されているからこそ、世界中で多くの人に利用され続けているのです。

ポイント② データの利活用

CXを最大化するためには「情報」が不可欠です。

例えばオンラインアプリでは、ユーザーの利用時間帯や位置などの情報を取得できるため「ユーザーがいつ、どのような状況で、どのように利用しているか」などを分析・理解することで、サービスの改善や新機能を追加することができます。

非デジタルサービスの場合にも、顧客へのアンケートやヒアリング調査などを通じて集めた情報を活用して、顧客のニーズを理解・追求していくことが大切になります。

筆者が以前参加したマーケティングセミナーでは、顧客調査の一環として承諾を得た顧客の家を訪問し、食卓や冷蔵庫の中を見せてもらってCX向上のアイデアのヒントを探しているという、大手食品EC企業のCXの取り組み事例が紹介されていました。

このようにデジタル/非デジタルにかかわらず、優れたCXを提供するためのサービスを設計することが、リカーリングビジネスモデルの鍵となるのです。

ポイント③ モノとインターネットを組み合わせてサービスを想像する

インターネットの発展とIoTの普及により、あらゆるヒトやモノが、インターネットを介してつながることができるようになりました。

身近にある製品やサービスを、「インターネットにつなげたら何ができるか」想像してみてください。新たに必要になる機能やサービスのアイデアが浮かんでくるのではないでしょうか。

例えば、東芝ライフスタイル株式会社では、IoT機能を搭載した洗濯機と連携できるスマートフォンアプリに、洗剤や柔軟剤の残量を検知して自動でオンライン注文できる機能を追加しました。

洗濯機の販売後もIoTとアプリ連携を組み込んでいることで、提携企業のECモールでの洗剤購入の誘導を実現しています。この仕組みは、将来的に自社で洗剤や備品の補充などの細かなルーティン作業を支援するための定額サービスを提供することも可能にします。まさに、「家事に関するわずらわしさを軽減する」という家電ならではのCXの追求の可能性を、筆者は感じています。

参考:プラスデジタル「東芝、洗濯機内の残量に連動した洗剤・柔軟剤のネット購入サービス」(2022年4月14日掲載)

インターネットを介してさまざまなデータを取得できるようになることで、消費者の日々の生活をより良くするためのCXの追求が可能になるのです。

優れたCXを生み出し、いかに提供するかが重要

日本ではリカーリングビジネスを積極的に推進すべきであると筆者は考えています。

モノを売り切るビジネスモデルだけでは、企業の収益をあげることは難しくなっており、定期的かつ継続的に利用してくれる顧客を増やして経常的な収益を確保するとともに、新しいCXとサービスを提供し続けて企業成長を図っていくことが重要になります。

今、企業には、従来の「より多くのモノを売るためには?」というビジネスモデルから、「顧客により豊かな時間と体験を提供するためには?」というCXを軸にサービスを創出するためのビジネスモデルへのシフトが期待されているのです。


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。