10分でサブスクリプションを理解するためのプロの徹底解説


様々なサービスが日々サブスクリプションで提供され始めています。通称「サブスク」と呼ばれ、事業者にもユーザーにもメリットが多く、2019年にはテレビでも取り上げられるなど注目を浴びたビジネスモデルです。

サブスクリプションとは定額制で、一定期間、物やサービスを利用する権利を販売する手法です。例えばApple Musicのような毎月1,080円で好きな音楽が聴きたい放題というサービスが該当します。ユーザーは所有しない代わりに、毎月安価な金額を払うだけで利用し放題というメリットがあり、事業者にも毎月一定の売上が入るというメリットがあります。

しかし、事業者側にはサブスクリプションビジネスの「解約しやすい」ことや「ブランド力の減退」などのデメリットからビジネスの失敗につながる可能性がありますから、新規事業の担当者は事業を始める前に、サブスクリプションのデメリットも把握する必要があります。

本日は、ebisumart(インターファクトリー)でマーケティングを担当している筆者が、これからサブスクリプションを検討している事業者向けにサブスクリプションの事例やメリットとデメリットをたった10分で理解できるように解説いたします。

サブスクリプション市場規模は右肩上がり!5年で1.5倍

少子高齢化で、日本の多くの業界の成長が鈍化している中、サブスクリプション市場は今後も堅調な成長が予想されます。下記は株式会社矢野経済研究所の調査結果です。

◆サブスクリプションサービス国内市場規模(6市場計)推移・予測

サブスクリプションサービス国内市場規模(2022)

注1:エンドユーザー(消費者)支払額ベース
注2:市場規模は①衣料品・ファッションレンタル、②外食サービス(外食等の食品・飲料提供における定額サービス)、③生活関連サービス(家具・家電・日用雑貨・家事関連)、④多拠点居住サービス(月額定額で短期間に住み替える、もしくは複数の住居に自由に住み替えることのできるものであり、シェアハウスやマンスリー系賃貸住宅は対象外)、⑤デジタルコンテンツ[月額定額で利用できる音楽と映像サービス、語学教育サービス(インタラクティブコンテンツ、但し通信教育は対象外)]、⑥定期宅配サービス(定期購入システムのプラットフォームを利用して提供される食料品や飲料、化粧品類等の当該品頒布会・定期販売サービス)の6市場の対象とする。
注3:2022年度以降は予測値

出典:株式会社矢野経済研究所 「サブスクリプションサービス市場に関する調査を実施(2022年)」(2022年6月8日発表)

矢野経済研究所によると、2021年度は9,615億円の実績で3年後の2024年度1.2兆円を超える予測となっています。この背景には下記の3つの理由があると筆者は考えます。

◆サブスクリプションが普及する3つの理由

① 所有する価値観から利用する価値観に変化
② スマートフォンの普及によりサブスクリプションの仕組みや課金方法の構築が容易に
③ 4Gの普及により、いつでもどこでも誰でもインターネットのデータに高速でアクセスが可能に

サブスクリプションビジネスには、紙の会員券を発行し店内商品を食べ放題で提供するような、システムを必要としないアナログなアプローチもありますが、サブスクリプションビジネスが大きく普及した理由はスマホアプリの活用です。代表的なものに以下のようなサービスがあります。

◆サブスクリプションの例

・NetflixやHuluのような動画視聴サービス
・Apple MusicやAmazon Musicのような音楽視聴サービス
・NewsPicksのような会員向けコンテンツ提供サービス
・Kindle Unlimitedやシーモアのような本の読み放題サービス
・オンラインサロンのような月額制のコミュニティ参加サービス
・スタディサプリのようなオンライン学習サービス

サブスクリプションが伸びている背景には、AndroidやiPhoneにはそれぞれGoogle PlayやApp Storeなどのスマホアプリのプラットフォームがあるため、ユーザーへのアプリの普及および課金が容易に行うことができ、これにより、多くの企業がサブスクリプションビジネスに参入しやすくなっていることがあります。

「サブスクリプション」と「定期販売」「頒布会」「レンタル」との違いを整理しよう

まずは、事業者の方がサブスクリプションを理解しやすくするために既存のビジネスモデルと比較を行いました。

◆サブスクリプションとの比較表

サブスクリプション 定期販売 頒布会 レンタル
契約形態 使用・利用契約、
または権利の売買契約
売買契約 売買契約 レンタル契約
契約期間 期間制限は自由 期間制限は自由 1年など期間制限あり 期間制限あり
向いている商材 【全て向いている】
消耗品でも耐久品でも全ての商品
【消耗品】
健康食品、食品など
【消耗品】
健康食品、食品など
【耐久品】
CD、DVD、車など
支払い 毎月 毎月 初回一括支払い 初回一括支払い
向いている決済方法 クレジットカード、口座振替 クレジットカード、口座振替、後払い決済 クレジット、コンビニ決済、後払い決済 クレジット、コンビニ決済

つまり、他のビジネスモデルと比べる商品やサービスの制約を受けない点や、いつでも解約できる点など”自由度”が高いことが特徴としてあげられます。では、実際にどのようなビジネスの事例があるのか?具体的事例を解説いたします。

サブスクリプションの5つの事例

NetflixやApple Musicなどのスマホアプリをメインとしたサブスクリプションサービスの紹介がメインになりましたが、その他にも衣食住を提供するサブスクリプションサービスも続々と誕生しており、ここでは事例を5つ紹介いたします。

事例① カフェのサブスクリプションサービス

少しずつですがサブスクリプション型が広がっている業種です。月額3,000円~5,000円程度でコーヒーが飲み放題となるサービスです。筆者も以前の勤務先の近隣にあったため契約しました。毎日コーヒーを飲んでいるので、結構お得感のあるサービスでした。最近では大手も参入しており、上島珈琲店では「上島珈琲店PASS-定額パスポート」というサービスを2020年2月よりスタートしました。

上島珈琲店PASS-定額制パスポート

上島珈琲店の公式ホームページによると、価格により3つのタイプのサブスクがあり、利用時間や利用回数にあわせたパスポートがあります。上島珈琲店では、サブスクサービスをアプリ課金で決済を行うため、店舗で顧客管理をする必要がないので、手間がすくなく便利です。

事例② 住居のサブスクリプションサービス

「ADDress」というサービスは、月額4万円で好きな場所に住むことが可能になります。同じ場所には何日間までという制限がありますが、北海道から九州まで日本各地に敷金礼金なく、また光熱費も含まれた定額で住むことができるサービスです。

ADDress公式ホームページ

コロナ禍をきっかけとして、IT企業を中心にリモートワークが普及しました。このようなサービスは非常にニーズがあるのではないでしょうか?初月のみ4,800円(初月以降は9,800円)で月に2泊が可能であり、通常の宿泊施設と比べてもかなり安い金額で泊まることができます。

事例③ 自動車のサブスクリプションサービス

自動車大手のトヨタも「KINTO」という自動車が乗り放題のサブスクリプションサービスを行っております。それ以外の企業も軽自動車が乗り放題の格安サブスクリプションを展開しております。車を保有するネックであった「頭金」や「税金」も不要になり、若者の車離れが叫ばれる今の時代にあった提供形態とも言えます。

KINTO公式ホームページ

事例④ 家電のサブスクリプションサービス

昨今、家電のサブスクリプションサービスも話題を集めておりますが、家電メーカー大手のパナソニックでは賃貸オーナーや管理会社向けに家電のサブスクリプションサービス「noniful」を展開しております。

noniful公式ホームページ

このサービスでは、家電をパッケージにして貸し出しており、「IoT家電パッケージ」「調理家電パッケージ」「美容家電パッケージ」など、入居者像に合わせたパッケージが選べます。

事例⑤ 香水のサブスクリプションサービス

一風変わったサブスクリプションサービスとしては、「香水」のサブスクリプションサービスがあります。フレグランス専門のECサイト「COLORIA(カラリア)」では、約1,000種類の香水やルームフレグランス、バスグッズといった、香りの商品を毎月試せるサービスを展開しております。

COLORIA公式ホームページ

香りがわからないECサイトの弱点を、サブスクという形でうまくクリアしたサービスと言えるでしょう。

事業者にとってのサブスクリプションのメリットとデメリット

サブスクリプションサービスにはメリットとデメリットがあります。一つずつ解説してまいります。

事業者のメリット①マーケティングがカンタンに

「販売」ではなく「利用契約」に変わるため、ユーザーは大きな費用が必要でなくなるために売りやすくなります。言い換えると、モノやサービスを購入するときのユーザーの心的ハードルを下げることができるのでマーケティング活動が非常にカンタンになります。

車で例えると、新車購入で数百万円するものが、月々数万円で提供することで契約しやすくなります。それにより1台を販売するためにかけていた労力が軽減するので、販管費も抑えることにつながります

事業者のメリット②キャッシュフローの改善

毎月ユーザーが課金するモデルであるストックビジネスになるために、一定数の会員ユーザーを獲得することができれば企業のキャッシュフローが非常に安定します。

とはいえ、売り切りのビジネスモデルに比べると、一度に入ってくる売上は少なくなるため事業者は、キャッシュフローを増やすために、解約防止策と、新規ユーザー獲得に注力していく必要があります。

事業者のメリット③LTVの向上

通常の売り切りのビジネスであれば、商品購入後にユーザーと接点を持つことはあまりありません。しかし、サブスクリプションサービスであれば、毎月提供するサービスがあるため、絶えず顧客と接点を持つことができます。

顧客毎にサービス利用状況がわかれば、クロスセルやアップセルも可能であり、LTVを向上させやすいというメリットがあるのです。

事業者のデメリット①利益を生み出す前に解約される

利用契約のため、中途解約リスクがあります。「販売していれば得られる売上」まで到達する前に解約になると、結果売上規模が縮小する懸念があります。とくにGoogle PlayやApp Storeで継続課金を行うと、GoogleやAppleへの支払いも生じ大きな負担となりますので、解約のキッカケを与えないようにする工夫が重要です。

早い段階で、使うだけ使い切りすぐに解約にならないためにも、継続してもらえるようにサービス面を強化する工夫が必要です。具体的には、毎月新しい商品・サービスを提供し「飽き」を感じさせないことです。

事業者のデメリット②ブランド力の減退

このような意見があります。下記は記事の引用文です。

通常の購入では、高級ブランド商品の単価を考えれば、ユーザーのプロファイルにもよりますが、意思決定前に相当な吟味・検討が行われるものと思われます。高級ブランドはセンスやスタイルの象徴にもなるので、ユーザーは自分の個性、目指すスタイルなどと各ブランドの世界観を比較して、慎重に購入可否を考えるわけです。そして、一旦購入に踏み切ったら使用経験とともに愛着を重ね、ブランドへの関与は深化します。

一方、サブスクはと言うと、それぞれのブランドや商品に対してそこまでの思い入れは無く、数多あるうちの1つを次々に選ぶようなプロセスになるのではないか、と思います。商品を所持・保有した喜びは通常販売モデルと比べれば低く、そのぶん関与は限定的になるでしょう。

上記引用先:日経クロストレンドサブスクは万能ではない! ブランド資産を破壊するリスクあり

定量的なデータがあるわけではありませんが、確かに「使い放題」のサービスであれば、吟味・検討を重ねた商品に比べれば、そこまでブランドに対して愛着がわかないかもしれません。ブランドが売りの事業者であれば、中長期的にマーケットで、自社ブランド力が減退しないか?という点を事前に検討する必要があります。

事業者のデメリット③使い放題の場合のコスト負担

ユーザーから見れば、月額一定額で使い放題のサービスですが(ここでは回数制限のサブスクを除きます)利用数が増えると確実にコスト負担が迫られます。例えば、AmebaTVが「FIFAワールドカップ2022」を視聴することができましたが、日本がドイツとスペインを破り、快進撃を続けたため、決勝トーナメントのクロアチア戦にはアクセス制限をかける可能性があるとの報道がありました。

ABEMA、クロアチア戦でアクセス制限の可能性 サッカーW杯カタール大会

つまり、ユーザーから見れば使い放題であっても、このようなサービスではサーバーを稼働しつづけるために莫大な費用や負担がかかっております。そのため利用し放題の契約の場合はサブスクの利用が増えると、コスト負担が大きくなるのです。

 

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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。