スーパーアプリとは?利便性と圧倒的なユーザー数が成功の鍵


「スーパーアプリ」とは、1つのプラットフォームとなるアプリに、人々の生活に役立つ多種多様なサービス機能が集約された統合アプリの総称です。

メッセージングアプリの「LINE」は、皆さんもよく利用しているのではないでしょうか。多くのユーザーが利用するLINEでは、スーパーアプリ化を目指して事業拡大に取り組んでおり、従来のチャットや電話に加え、ニュース、音楽、漫画、買い物、決済など、さまざまなサービスが次々と提供され、日本国内のスーパーアプリとしての存在価値を示しつつあります。

スーパーアプリの事業で成功するために必要となる最も重要な条件は「利用者(アクティブユーザー)の数」です。当然、簡単かつ便利なサービスを提供できることも必須条件となりますが、どんなに優れたサービスを開発しても利用者を集めることができなければ、社会インフラとも言えるスーパーアプリにはなり得ません

国内で最もスーパーアプリに近いサービスとしてLINEとPayPayが挙げられます。LINEは無料のチャット・通話アプリとして人気を獲得して、PayPayはリリース初期の大胆なキャンペーンにより多くの利用者を集めて、今では日常生活の中で頻繁に利用されています。

この記事では、株式会社インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、スーパーアプリについて紹介します。

国内スーパーアプリの2強は「LINE」と「PayPay」

スーパーアプリ化に成功しつつある国内サービスと言えば、LINEとPayPayが現在の2強と言えるでしょう。各サービスの概要を以下にまとめています。

① LINE

Zホールディングス傘下のLINE株式会社が運営する「LINE」は、日本を中心にアジア圏で利用されているメッセージングアプリです。特に日本ではモバイルコミュニケーションツールとして、性別・年代を問わず多くのスマートフォンユーザーが利用しており、下記記事によると、スマートフォン、ケータイ所有者のうちLINE利用率は83.7%に上ります。

参考:NTTドコモ モバイル社会研究所「LINE利用率83.7%:10~60代まで8~9割が利用」(2023年4月17日掲載)

LINEでは、チャットや音声・ビデオ通話などのメッセージング機能だけでなく、決済や送金などのウォレット機能、音楽・マンガ・ニュースなどのエンターテインメントコンテンツの配信、投資サービスなど、日常生活に役立つ幅広いサービスを提供しています。

◆基本情報:LINE

提供開始:2011年6月
世界利用者数(アクティブユーザー数):1.9億人
主要展開国:日本、台湾、タイ、インドネシア
提供サービス:メッセージング/決済/ニュース・音楽・マンガ配信/ゲーム配信/ライブ配信/広告配信/EC /ブログ/金融サービス/リサーチ
公式サイト:LINE

② PayPay

PayPayは、ヤフー株式会社とソフトバンク株式会社が共同設立したPayPay株式会社が運営するキャッシュレス決済(QRコード決済)サービスです。サービス開始以降、ユーザー数を急激に増やし、現在は国内のQRコード決済サービスシェアのトップにまで成長しています。

参考:ECのミカタ「コード決済シェア1位はPayPay(約75%)【WDC調査】」(2022年7月27日掲載)、MMD研究所「最も利用しているQRコード決済サービス、トップは『PayPay』で45.4%、次いで『d払い』『楽天ペイ』が16.7%」(2022年1月21日掲載)

主要サービスは決済サービスがメインですが、ECサービスの「PayPayモール(2022年10月にYahoo! ショッピングと統合)」「PayPayフリマ」、投資・ポイント運用ができる「PayPay証券」などのサービスを展開し、ユーザーを獲得しています。

◆基本情報: PayPay

提供開始:2018年10月
利用者数(登録ユーザー数):5,500万人(国内、2023年2月6日時点)※
主要展開国:日本
提供サービス:決済/EC/金融サービス
公式サイト:PayPay(ペイペイ)
※参考:PayPayプレスリリース「「PayPay」の登録ユーザーが5,500万人を突破!」(2023年2月7日発表)

海外のスーパーアプリ、WeChatとAlipay

以下は、国内のLINE、PayPayと中国のスーパーアプリであるWeChat、Alipayの基本情報をまとめた表です。

WeChat Alipay LINE PayPay
運営会社 Tencent Holdings Ltd. Ant Group Co.,Ltd. LINE株式会社 PayPay株式会社
利用者数 11.3億人 12億人以上 1.9億人 5,500万人
主要展開国 中国 中国 日本、台湾、タイ、インドネシア 日本
主な提供サービス ・決済
・メッセージング
・タイムライン投稿
・ライブ配信/ライブコマース
・タクシー配車
・マッチング
・ミニアプリ
・広告配信
など
・決済
・金融サービス
・タクシー配車
・公共交通機関利用
・スコアリング
など
・メッセージング
・タイムライン投稿
・ニュース/音楽/マンガ配信
・ゲーム配信
・ライブ配信
・広告配信
・ブログ
・決済
・EC
・金融サービス
・リサーチ
など
・決済
・EC
・金融サービス
など

「WeChat(ウィーチャット)」は中国発のメッセージングアプリで、メッセージングやSNSだけでなく、ウォレットやID機能を提供しています。特に中国では日常生活に欠かせないスーパーアプリとなり、多くの人が利用しています。

WeChatのモバイル決済サービス「WeChat Pay」と共に中国のモバイル決済市場で最大規模を誇っているのが「Alipay(アリペイ)」です。Alipayも買い物、食事、移動、公共料金や通信費の支払いをはじめ、中国では日常のあらゆる場面で利用されているスーパーアプリです。

日本と中国の国内市場規模(すなわち、対象ユーザーの人口)には根本的な差があるとはいえ、WeChat、AlipayとLINE、PayPayの世界規模のユーザー数は比べものになりません。中国は、キャッシュレス決済の急速な普及とともにモバイル社会を実現しています。

スーパーアプリの新規参入は極めて困難

全く新しいサービスとしてスーパーアプリを開発して成功させることができる確率はゼロであると言っても過言ではないでしょう。冒頭でも軽く触れましたが、多くのユーザーが利用するアプリでなければ、社会のインフラとはなり得ないからです。

では、短期間で国内シェアを大きく伸ばしたLINEとPayPayは、一体どのようにしてスーパーアプリ化を進めてきたのでしょうか。

① スマートフォンの普及と画期的な機能でユーザー数を拡大(LINE)

LINEがリリースした2011年は、スマートフォンの普及率が急増した時期と重なります(下図を参照)。

◆情報通信機器の世帯保有率

通信機器の普及率

出典:総務省「令和3年版 情報通信白書|図表1-1-1-1 情報通信機器の世帯保有率」を加工して作成

すでにメッセージングアプリ市場では、「Facebook」「mixi」などが普及していましたが、どのサービスもパソコンでの利用と同等の使い方を前提とするアプリばかりでした。そんな中で、スタンプ機能という画期的な機能を伴って登場したのがLINEでした。

スマートフォンの「文字入力がしづらい」という弱点を補完する極めて有効な機能で、文字の代わりにメッセージを伝えることができるスタンプを無料配布、販売することで、スマートフォンを利用する多くのユーザーがLINEを利用するようになりました。

現在は、他のメッセージングアプリでもスタンプ機能が提供されていますが、企業や著名人とのコラボスタンプ、クリエイターによるオリジナルスタンプなど、多彩なスタンプを作成・販売するための仕組みを提供しているLINEのスタンプ機能は他のアプリと一線を画しています

参考:LINEのスタンプサイト「LINE STORE

メッセージングアプリとして普及したLINEですが、幅広い分野のサービスが続々とリリースされており、今日では日本を代表する統合アプリとしてのポジションを確立しています。

② サービスリリースと同時に大型キャンペーンを展開(PayPay)

PayPayもまた、LINEと同様にスマートフォンの普及の波に乗れたということもありますが、キャッシュレス決済市場では後発サービスであったにもかかわらず、今日では最も利用されているQRコード決済サービスとなっています。

筆者は大の海好きで、時間が空くと伊豆や南房総などの海に足を運んでいるのですが、都心部から離れた地域でも、「カードは使えないけれどPayPayは使える」という店が以前より増えたと感じます。

LINE Pay、楽天ペイ、Origami Payといった新しいサービスが次々と市場に参入していた中で、出遅れていたPayPayでは、2018年のサービスリリース直後に、利用者に向けに「100億円あげちゃうキャンペーン」を展開するとともに、店舗側には手数料無料(2021年9月末日までで終了)というメリットを提示するなど、赤字覚悟とも言える普及活動に取り組みました。

参考:PayPay「『100億円あげちゃうキャンペーン』の記者発表会を開催」(2018年11月22日)、「キャッシュレス決済に手数料がかからないワケ。店舗もユーザーも知って得する最新情報」(2020年4月3日)

2022年時点の調査では、PayPayの国内のQRコード決済サービスの利用率は45.4%で競合サービスを圧倒しており、初動の普及活動の成果と言えるでしょう。

参考:MMD研究所「最も利用しているQRコード決済サービス、トップは『PayPay』で45.4%、次いで『d払い』『楽天ペイ』が16.7%」(2022年1月21日掲載)

③ サービスの普及を優先し、動かしながら改善するサービスモデルの採用(PayPay)

リリースからの活発な取り組み、順風満帆のように見えるPayPayですが、セキュリティトラブルに見舞われたこともありました

参考:ITmediaNEWS「PayPayのサーバに不正アクセス 加盟店情報など2000万件に流出の可能性」(2020年12月7日公開)

重大なセキュリティ事故に対するリスク管理はもちろん重要です。しかしPayPayからは、まず普及を最優先とし、「動かしながら改善を繰り返す」ことで目標を達成するという、強い経営姿勢が感じられます。

最初から完璧なサービスを目指して、十分に検証していると、なかなかアプリをリリースすることができません。完璧ではなくても、動かしながら問題に対処することでアプリを完成させることに決めて、大胆な普及活動に取り組んだことで、現在のPayPayがあるのではないでしょうか。

2023年5月追記:PayPayが他社クレジットカードの利用停止を発表

2023年5月、PayPayは、他社クレジットカード以外のカードを利用した決済を停止すると発表しました。2023年8月以降は、同社が発行する「PayPayカード」のみが対象となるようです。

また、「ソフトバンク・ワイモバイルまとめて支払い」のチャージについても、これまで回数に関わらす手数料が無料でしたが、8月以降は2回目以降のチャージでは2.5%(税込)の手数料がかかるようになります。

前項で述べたように、これまでサービスの普及に注力してきたPayPayですが、十分な数のユーザーも集まり、今回の制度変更を機に囲い込みによる収益化へ舵を切ったと見るべきでしょう。

利用率45.4%と、競合を圧倒する盤石の基盤を作ったPayPayですが、今回の発表では「PayPay改悪」がトレンド入りするなど物議を醸しており、今後の利用推移にどのような影響があるか筆者も注目しております。

参考:Impress Watch「PayPay、PayPayカード以外のカード払いを停止。8月から」(2023年5月1日公開)

スーパーアプリの提供を目指す企業は、核となるサービスを決めて、市場でトップを目指そう

スーパーアプリの提供を目指すのであれば、まずは軸となるサービスを決め、その市場でトップとなることを目指しましょう

最初から多彩な機能を実装するのではなく、利便性が高く、差別化が可能なサービスを開発、リリースして、アプリの利用率を高めるために注力することが大切です。

特定の市場でユーザーを獲得できたら、徐々に新しいサービスを増やして対象となる市場を拡大していくのがよいでしょう。

まとめ:核となるサービスの確立と普及活動が重要

ユーザーを取り込み、将来的にさまざまなビジネス展開を容易にすることができるスーパーアプリには、多くの企業が注目しています。

スーパーアプリの提供企業となるためには、プラットフォームを開発し、スーパーアプリ内で提供するさまざまなサービス(ミニアプリ)の開発や調達を継続的に行えることも、もちろん大切ですが、それ以上に、どうしたら多くのユーザーに利用してもらえるかを考え、いち早く利用者を集めること、すなわちサービスを普及させることが最も重要になります。

スーパーアプリには、さまざまなサービス・機能が集約されているため、自然とユーザーが集まるように思えるかもしれませんが、そうではありません

核となるサービスを利用しているユーザーが、そこをフックに拡張されたサービスを次々と利用し、日常生活を支える社会インフラとしての役割を担うようになることで、はじめて「スーパーアプリ」と呼ばれるようになるのです。


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。