大手4社から学ぶオムニチャネルマーケティング事例の解説


オムニチャネルは今では誰もが耳にしている言葉です。オムニチャネルは、omni(全て)とchannel(経路)で成り立ち、全ての顧客接点で購買に結び付けるという意味です。

しかし、この解釈は昔から実施しているマルチチャネルと大差がありません。オムニチャネルとは販売するだけではなくユーザーエクスペリエンスが含まれ、マーケティング戦略の中心的存在であります。では、全ての顧客接点でどのようにマーケティングをすればいいのでしょうか?

その答えを見つけるのは容易ではありませんが、各業界の大手のオムニチャネル戦略の取り組みが参考になるはずです。本日は株式会社インターファクトリーでWEBマーケティングを担当している筆者がオムニチャネルを実践している業界大手4社の事例を交えてオムニチャネルマーケティングを解説いたします。

まず、オムニチャネルについて、言葉の意味やO2Oとの違いなど、オムニチャネルの基本的な理解を深めたい方は、下記の記事をご覧ください。

オムニチャネル記事:国内・海外事例やO2Oとの違いでオムニチャネルを理解する【完全解説】

目次

1社目:ユニクロのオムニチャネルマーケティングの取り組み
2社目:楽天西友ネットスーパーのオムニチャネルマーケティングの取り組み
3社目:資生堂のオムニチャネルマーケティングの取り組み
4社目:ヨドバシカメラのオムニチャネルマーケティングの取り組み
オムニチャネルマーケティングの3つのポイント
まとめ

1社目:ユニクロのオムニチャネルマーケティングへの取り組み

まず、1社目はユニクロです。ユニクロを運営するファーストリテイリング社から面白いデータが公表されております。下記をご覧ください。

引用:2019年8月期 期末決算説明会資料「ECを本業に。」(株式会社ファーストリテイリング)より筆者作成

このデータを見ると、ECと店舗を併用しているユーザーのLTVが非常に高いのがわかります。ユニクロはECサイトで買ったものの受取先として、ユーザーの最寄りの店舗も利用することができ、ECサイトの商品受取にきたユーザーが、ついでに店舗でも買い物をしてしまうのです。

このため、ユニクロではWEB限定商品に力を入れており、店舗では買えない商品をWEBに設置することで、WEB会員のユーザーを増やしているのです。

一昨年の話ですが筆者もインナーダウンの長袖が欲しくてユニクロ店舗を訪れましたが、当時はWEB店舗限定商品となっており、ユニクロスタッフよりWEBでの購入を促されたことがあります。このように一部の商品をWEB限定にすることでWEB会員を積極的に増やしているのです。

ユニクロでは、サイズやカラーなどのバリエーションでもWEB限定商品を設置しており、WEBと店舗を併用して使うユーザーを増やす試みをしているのです。

2社目:楽天西友ネットスーパーのオムニチャネルマーケティングの取り組み

2018年から楽天グループと西友が手を組んだ、食品業界における提携が発表されました。楽天と西友が共同で運営する「楽天西友ネットスーパー」です。

もともと食品業界はネットと相性が悪い分野でした。食品には鮮度があり、鮮度を保ったままユーザーに届けるには食品を品質管理できる物流拠点が必要となります。

そこで楽天グループは、西友の持つ店舗や物流拠点を利用しながら、全国17都道府県に対応しております。

◆楽天西友ネットスーパーの対応エリア

楽天グループの持つ、ネット販売ノウハウと、西友グループが持つ食品や物流のノウハウを組み合わせた形です。EC化率は2020年の段階では8.08%であり、コロナ禍でECサイトの利用率は高まったとはいえ、まだ一桁台です。

過去記事:【2021年版】国内EC市場のEC化率|BtoCとBtoBをプロが徹底解説

そのため市場規模の大きい食品業界のEC利用により、EC化率全体が伸びていくことが予想されます。楽天グループだけでは、持っていない食品に関するノウハウを提携により、オムニチャネルを推進するのは非常に合理的です。

ユーザーからすると、楽天ポイントも連携されており西友店舗とネット販売の楽天市場の大きな枠組みでのオムニチャネルとなるのです。ただ、気になるのは2018年より提供エリアが増えていないことです。食品においては物流拠点の整備が欠かせないので、今後の提供エリア拡大に期待します。

3社目:資生堂のオムニチャネルマーケティングの取り組み

資生堂のオムニチャネルマーケティングの取り組みは、総合美容サービス「watashi+」、百貨店などのリアル店舗で構成されています。

watashi+は、資生堂を全面に出し、オンラインショップとO2Oを目的としています。インターネット上でセルフチェックができ、最後にはお化粧方法の提案とおすすめの商品の購入ができます。もう少し本格的に検討したいと思えば、ビューティーコンサルタントに相談できるようになっているのです。

ひとを美しくするひと(資生堂 ビューティーコンサルタント)

Salesforce Marketing Cloudを導入し、LINEとメールからの顧客行動も可視化

2015年7月2日にセールスフォース・ドットコムは資生堂にSalesforce Marketing Cloudの導入すると発表しました。資生堂が保有する日本国内のWEBのリードは、ワタシプラスのEメールの対象会員が200万人以上、LINE公式アカウントの友だち数は1600万人を超えます。

これらの莫大な会員データをSalesforce Marketing Cloudに繋ぎ込むことで、顧客一人ひとりの行動に即したタイミングで、情報を配信する事で顧客との信頼関係を強化し、美への発見から購買、リピートまでシームレスな流れを仕組み化しているのです。

資生堂ジャパン | セールスフォース・ジャパン – Salesforce

4社目:ヨドバシカメラのオムニチャネルマーケティングの取り組み

ヨドバシカメラはオムニチャネルの成功事例としてよく扱われる企業です。もともと家電業界は、ECサイトと最も相性の良いジャンルです。家電製品は型番さえわかれば、どのお店で購入しても品質に差が現れません。

そのためヨドバシカメラなどの大手家電店舗にとってはECは大きな脅威でした。しかし、それを覆したのはヨドバシカメラが運営する「ヨドバシ・ドット・コム」です。その特徴は以下の通りです。

・家電製品、日用品など圧倒的な品揃え
・ECと店舗で価格を統一
・ポイントプログラムの適用
・高品質の物流網がもともと整備されていた
・店舗で見てECで購入。あるいはその逆も自由

家電業界で問題となっていたのがショールーミングという行動です。ショールーミングは店舗で商品を確認して、購入はWEBで最も安い商品で行うという行為です。

ヨドバシカメラはこれを逆手にとり、あえてヨドバシカメラ店舗では商品の撮影を自由に行わせて、ユーザーにはヨドバシドットコムに誘導する戦略を採用しました。商品価格、返品方法などもECと店舗で完全に統一したのもオムニチャネルらしい取り組みです。

これにより、ユーザーの利便性は高まり、ユーザーはECと店舗のどちらでも好きな方で買い物することができようになったのです。この結果、他のライバル家電企業もヨドバシドットコムの方式を採用するなど、ヨドバシカメラは業界を代表する成功事例となったのです。

オムニチャネルマーケティングの3つのポイント

オムニチャネルはデジタル化の仕組みだけではありません。全ての顧客接点で顧客エクスペリエンスを提供するオムニチャネルマーケティングを実施するには、3つのポイントに注意しなければなりません。

1.オムニチャネルマーケティングは企画ではない

顧客視点は、今に始まったことではなく昔からのマーケティングの考え方です。どうしても、マーケティングという言葉が、流行の施策に対して使われる傾向にあるため、話題性や企画と勘違いされている感があります。話題性や企画では短期的な売上のためであり、ブランディングにもなりません。

オムニチャネルを推進するには、顧客層、経路を再定義し、最適なユーザーエクスペリエンスを提供できるようにカスタマージャーニーマップ等を使い、戦略を考えなければなりません。

2. 全ての顧客接点が、全ての役割を担っている

A店舗に来店した顧客が、X商品に興味を持ち、比較サイトでX商品について情報を得て、B店舗で購入した場合、A店舗ではX商品に興味を持っていただくことが役割となります。

B店舗では意思決定の後押しをします。A、Bともに同じ店舗でありながら、顧客の購買プロセスのフェーズによって役割が違います。もし、同じ接客をしていたら、顧客はX商品の同じ説明を2度聞かされることになるでしょう。

オムニチャネルは、全ての顧客接点を通じて、顧客エクスペリエンスを提供することで、購買プロセスのフェーズに適した接客をする必要があります。

インターネット広告でも、ECやリアル店舗に誘導することだけではなく、認知、興味を引く役割も担っているのです。リアル店舗、インターネットで、それぞれに得意分野はあるものの、役割分担ではないのです。お互いに顧客というバトンを渡していくことも期待されているのです。

3. オムニチャネルマーケティングは全社戦略

全社員が全ての顧客接点で適切な接客ができるように理解していなければなりません。しかし、殆どが個別施策の乱立となっているのが現状です。

どうしても、売上目標を達成するために、広告やキャンペーン等で、担当範囲の視点で個別対策をしているからです。でも、これではオムニチャネルではなく、シングルチャネルになってしまっています。オムニチャネルでは、目先の売上だけではなく、顧客エクスペリエンスを提供しブランド価値を高めることに意味があります。

そのためには、顧客に最適な体験を提供するために、オムニチャネルマーケティングの方向性を全社に示し、全社戦略としなければなりません。

まとめ

IOT(Internet of Things)にあるように、あらゆるものがインターネットに接続する時代へと進歩していきます。

このことは、顧客との接点は無限に広がることを意味しています。オムニチャネルマーケティングは、今まで以上に、複雑で重要な意味を持ってきます。そのための、オムニチャネル戦略、体制、仕組みつくりへの投資は必要不可欠です。

もし、いまのマーケティングがオムニチャネルになっていないと不安に感じたら、見直す良い機会かもしれません。

オムニチャネル事例紹介:オムニチャネルもebisumartで短期導入:藤巻百貨店様

クラウドコマースプラットフォーム「ebisumart」公式サイト

また、アパレルECの世界においても、オムニチャネルやO2Oの顧客データ統合が、勝ち組か負け組を決定する重要な、要因となっており、合わせて下記の記事も読んでいただければと思います。

【2020年版】アパレルECの市場規模と5つの課題をプロが徹底解説


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。