「クイックコマース」とは食品や日用品を即時配送する新サービス


クイックコマースとは、ECサイトで販売した食品や日用品などの商品を、短時間で消費者に即時配達するサービスです。

クイックコマースは、スマートフォンアプリが普及して、消費者がサービスに求める利便性と即時性の期待が高まったことにより世界中で急成長している市場ですが、注文商品の超高速配達を実現するための体制や環境、商品管理などのコスト面での課題も少なくなく、日本独自の商習慣などの要因も相まって、日本国内では急成長するまでには至っていません。

この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、クイックコマースについて解説します。

国内のクイックコマース市場の規模(予測)

世界の主要な業界、市場、消費者動向に関する調査結果や統計データを提供している「statista(スタティスタ)」によると、2023年の日本のクイックコマースの市場規模32.1億米ドル(約4,750億円※)に達する見込みで、2027年までには52.3億米ドル(約7,740億円※)に達するであろうと予測されています(※いずれも1米ドル=148円で換算)。

◆国内のクイックコマース市場規模の推移(予測)

出典:statista「Quick Commerce – Japan」のデータを基に筆者が作成

国内でクイックコマースが普及した場合に最も影響を受けるのが食品業界です。経済産業省の調査結果によると2022年度の食品業界のEC化率は4.16%で、全産業の平均EC化率9.13%と比べても、EC化が遅れている業界であることが分かります。

出典:経済産業省「令和4年度デジタル取引環境整備事業 電子商取引に関する市場調査報告書」(2023年8月31日公開)

巨大な市場を持つ食品業界のEC化が進めば、国内のEC市場全体に大きな影響を与えることは間違いありませんし、食品業界のクイックコマースの需要も高まっていくのではないでしょうか。

しかし、日本でクイックコマースサービスを成功・普及させることは容易ではない、という声もあり、実際に、近年は国内のクイックコマース市場でサービスを提供していた大手外資系企業や国内企業の撤退が相次ぎました。

直近で日本のクイックコマース市場から撤退した企業の例

・Deliverly Hero(デリバリーヒーロー)、2022年1月に撤退
・クイックゲット、2022年10月に業務を停止
・Coupang(クーパン)、2023年3月に撤退

参考:日流ウェブ 日本ネット経済新聞「【クイックコマース】 有力企業の撤退相次ぐ/日本市場開拓には”提携戦略”が有効か(2023年5月25日号)」(2023年5月25日掲載)

これらの企業が撤退あるいはサービスを停止せざるを得なかった理由として、日本ならではの商習慣や複雑な法規制などが挙げられています。

■日本ならではの障壁
なぜ多くの企業が国内の「Qコマース」市場から撤退するのか。日本でQコマース「pandamart」を他社に先駆けて全国展開していたDelivery Hero Japanで新規事業開発本部本部長を務めた佐藤丈彦氏は、日本ならではの細かい法律やルール、出店条件などに課題があったという。
「『Qコマース』で購入単価や利益を確保するためには、商材の幅を広げていく必要がある。例えばタバコは利用頻度の高い商材だが、取り扱いには細かいルールがある。認可を得るには近隣にタバコ販売店がないことが条件になるが、たとえもう営業をしていないとしても、廃業届が出ていない場合など、希望する出店場所で思うように取り扱えないケースもあった」(佐藤氏)と話す。
医薬品や酒類なども限られた出店場所や地域の行政との折衝などを考えると、取り扱うのは難しいケースもあったという。

引用:日流ウェブ 日本ネット経済新聞「【クイックコマース】 有力企業の撤退相次ぐ/日本市場開拓には”提携戦略”が有効か(2023年5月25日号)」(2023年5月25日掲載)

例えば、クイックコマースでたばこを取り扱いたいと思っても、認可を受けるためには自社だけでなく他の小売店を含めた状況などの複雑な条件を調査してクリアしていかなければならず、迅速に事業を拡大していきたい企業にとって大きな壁となっています。

国内のクイックコマースの成長が遅れている背景

筆者は、国内のクイックコマースの成長が遅れている背景には、法規制等の障壁に加え、次の2つの背景も影響しているのではないかと考えています。

国内のクイックコマースの成長を遅らせている2つの背景

① 同一エリア内に小売店舗が複数存在している
② 配達員の確保が困難で、配送コストも高い

それぞれ詳しく説明します。

① 同一エリア内に小売店舗が複数存在している

特に日本の都市部では、同一エリア内に食品や日用品を販売しているコンビニ、ドラッグストアなどの店舗が複数存在しており、消費者はいつでも気軽に近くのお店に行って商品を手に入れることができます。

コンビニ、ドラッグストアの全国店舗数

・コンビニの店舗数:55,810店舗(2023年8月度)
・ドラッグストアの店舗数:22,084店舗(2022年度)

出典:
・一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会「JFAコンビニエンスストア統計調査月報」(2023年9月20日発表)
・ドラビズon-line「【JACDS】最新2022年度ドラッグストア実態調査公表/市場規模は2%増の8兆7134億円」(2023年3月17日公開)

少々乱暴ではありますが、都市部と地方の差を無視して上記の全ての店舗数の合計を単純に47都道府県で割ると、1都道府県あたり1,657店舗の小売店が存在していることになります。

このように同一エリア内に多くの小売店舗がありすでに消費者の利便性が高い環境の中では、クイックコマースの必要性を感じる機会は少ないかもしれません。

② 配達員の確保が困難で、配送コストも高い

日本の労働人口は減少しており、特に近年の物流・配送業界の人手不足は深刻な問題となっています。

参考:産経ニュース「ヤマトも宅配便10%値上げ 燃料高、人手不足に対応」(2023年2月6日掲載)

クイックコマースでは、配達員の確保は重要課題の一つです。配達員を確保するために給料を引き上げようとすると、配送料金を値上げする必要が出てきます。しかし、配送料金を高くすると消費者がクイックコマースを利用しなくなるでしょうから、増えたコストを配送料金に転嫁するのではなく、配送効率を高めるなどして全体のコストを抑えていく必要があります。

配送効率を高めるためには、配送拠点の立地環境についての検討もとても大切で、商品のピッキングや運搬などの一連業務を無駄なく素早く行える環境が理想的です。

そのため、クイックコマースでは、「ダークストア」や「ダークキッチン」と呼ばれる小規模の配送拠点の開設が必要になります。

即日配送を実現する小型配送拠点「ダークストア」

「ダークストア」とは、ECサイトで販売した商品の配送拠点として機能する店舗、流通センター、倉庫などの総称で、「ダークキッチン」は、フードデリバリーなどの調理および配送拠点を指します。

ダークストアは、いわば小型の倉庫で、通常の物流拠点に比べてコストを大幅に抑えて設置することができます。しかし、すでにクイックコマースが普及している海外では、それに伴いダークストアが増えたことで、配達員の危険運転や配達用スクーターの騒音などが問題視され始めています。

ダークストアが原因で生じている問題

・配達員の危険運転
・配達用スクーターの騒音

ダークストアはオフィス街や住宅街などに近い場所に開設されることが多いので、騒音対策と安全に対する十分な配慮が求められます。ダークストアについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。

関連記事:「ダークストア」とは即日配送のための配送専門の拠点

国内のクイックコマースサービス事例

それでは、現在国内で提供されている5つのクイックコマースサービスについて詳しく見ていきましょう。

① Uber Eats Market

UberEatsMarket

引用(画像):Uber Eats|デリバリー専用ストア Uber Eats Market 日本橋兜町店

「Uber Eats Market(ウーバーイーツマーケット)」は、フードデリバリーサービスのUber Eatsが提供している食品と日用品専門のクイックコマースサービスです。日本では2021年12月に1号店である「日本橋兜町店」がオープンし、2023年10月現在は都内に計6店舗が営業しています。

ECサイトで注文を受け付けると、配達員が配送拠点のダークストアで商品をピッキングしてそのまま配達に向かいます。配達エリアは限られており、例えば日本橋兜町店では中央区の一部のみを対象エリアとしています。そのため、配達にかかる時間が短くて済むため30分ほどで商品を届けることができます

また、営業時間は朝7時から深夜2時までで、商品は1点から注文することもできるので、幅広いユーザー層に適応できる利便性の高いサービスです。

サービス提供元であるUber Eatsのフードデリバリーサービスは、2023年8月に東京、大阪を含む全国12都市の対象店舗で24時間営業を開始しています。

Uber Eats Marketでは、サービス開始当初は深夜0時までだった営業時間を深夜2時までに拡大したという経緯があるため、筆者は、近い将来Uber Eats Marketでも24時間営業が開始されるのではないかと考えています。

参考:ASCII.jp×デジタル「Uber Eats、24時間営業を開始。東京、大阪など12都市で」(2023年8月23日掲載)

② Yahoo!マート by ASKUL

YahooMartbyAskul

引用(画像):「Yahoo!マート by ASKUL」の公式アプリの商品選択画面

「Yahoo!マート by ASKUL」はZホールディングス株式会社傘下のヤフー株式会社、アスクル株式会社、株式会社出前館の3社が共同運営している食品や日用品のクイックコマースサービスで、最短15分で自宅まで商品を届けてくれます

2022年1月のサービス開始以降、現在は都内に7拠点を開設していて、ユーザーはアスクルが取り扱っている約2,000種類の商品を購入することができます。また一部の拠点は来店型店舗として運営されており、ユーザーが店頭で商品を購入することも可能です。

ブランド力を持つヤフー、商品調達力を持つアスクル、配達基盤を持つ出前館の3社が、それぞれのサービスの強みやノウハウ、そしてユーザー基盤を持ち寄り運営しているサービスということもあり、今後の成長が大いに期待されています。

2023年4月には、来店型店舗の代々木上原店で、同じくZホールディングスの連結子会社のスマホ決済サービス「PayPay」による「顔認証支払い」に対応したセルフレジの実証実験を開始するなどしており、実店舗としての利便性にも注力していることが分かります。

参考:シブヤ経済新聞「PayPay顔認証支払い、『Yahoo!マート』代々木上原で実証実験開始」(2023年4月18日掲載)

Yahoo!マート by ASKULはオープンから2年足らずのサービスですが、多様なオンラインサービスを持つZホールディングスをはじめとする3社が、それぞれの強みを生かしてサービスの利便性を追求しているので、今後も確実にユーザー数を増やし、サービスを拡大していくことでしょう。

③ 7NOW(セブンナウ)

7now

引用(画像):「7NOW」の公式アプリの商品選択画面

「7NOW(セブンナウ)」は株式会社セブン‐イレブン・ジャパンが、セブン‐イレブンの店舗を配送拠点として運営しているクイックコマースサービスで、最短30分で自宅に商品を届けてくれます全国規模で実店舗を配送拠点として利用できるのは、大手コンビニエンスストアならではの強みですね。

ユーザーは、7NOWアプリでリアルタイムに店舗の在庫などを確認し、商品を注文することができます。注文を受け付けたら店頭スタッフが専用端末を使ってピッキングした商品を、配送専門業者が自宅に配達します。

7NOWのバックエンド業務は、セブン-イレブン・ジャパンが自社構築したインフラとプロセスを使用して行われているため、配送コストを抑えつつ充実したサービスを提供することができます。

7iD会員データの分析結果によると、7NOWで購入した時の買上点数は店頭購入時の2.9倍、客単価は店頭購入時の3.4倍となったそうです。また、7NOWユーザーの実店舗での買い物が減るということもなく、7NOWは買い物をする際の新たなタッチポイントとして機能しているということです。

参考:流通ニュース「セブンイレブン/ネットコンビニ『7NOW』2023年度・1万2000店に導入」(2023年3月3日掲載)

筆者も実際に7NOWアプリをインストールしてみました。スマホの位置情報から住所情報が自動入力されて簡単に登録することができ、ログインすると近くにあるセブン-イレブンや注文時の配達予定時間などが表示されました。

◆7NOWアプリの配達予定時間の表示

引用(画像):「7NOW」公式アプリのトップ画面

筆者は、コンビニではお弁当などの食品を購入することが多いのですが、コンビニで販売しているほとんどの商品を7NOWでも購入できるため、使い始めるとリピートしたくなる便利さを実感しました。

④ OniGO(オニゴー)

onigo

引用(画像):「OniGO」の商品選択画面

「OniGO(オニゴー)」は日本初のダークストア型の即配ネットスーパーで、2021年8月に東京・目黒区に1号店をオープンし、現在は東京、神奈川、埼玉、千葉とサービス対応エリアを広げています。

コロナ禍を機にネットスーパーのニーズが増加したことで、多くのサービスが配達時間の短縮に取り組んでいますが、OniGOの最短10分という速さは圧倒的です。

配達エリアを店舗の半径1.5キロメートル圏内としているので、配達には小回りのきく電動アシスト自転車を利用し、ピッキングと梱包に3分、配送に7分という時間配分をルール化することで最短10分の即配を実現しています。

また、同社では、専用アプリをはじめピッキングシステム、在庫管理システム、配達員向けのシステムを全て自社で開発しています。すべてのシステムが無駄なく自社のサービスに合わせて最適化されているため、質の高いサービスの提供が可能となっています。

参考:日経クロステック「10分配送の『ダークストア』で話題のOniGO、システム開発もわずか2カ月と超速」(2021年10月13日掲載)

筆者もOniGOで、食材と日用品を注文してみました。今回は配送時間を指定したため20分ほどで自宅に商品が届きましたが、最速と言われる配送スピードを実感しました。また、注文後から配達が完了するまで、チャット画面で配送状況が通知されるなど、きめの細かいサービスを受けることができました。

◆OniGOアプリのチャット画面

onigoのチャット画面

引用(画像):「OniGO」公式アプリのチャット画面

⑤ カクヤスEXPRESS

カクヤスexpress

引用(画像):カクヤスEXPRESS 王子店(出前館)

東京、神奈川、大阪に酒類販売のチェーンストアを展開している株式会社カクヤスは、2022年2月に新ブランド「カクヤスEXPRESS」を立ち上げて、出前館に出店しました。

出前館以外にも、フードデリバリー/テイクアウトサービスの「menu(メニュー)」にも出店しており、現在は東京と神奈川の一部地域を対象にサービスを提供しています。カクヤスは酒類販売がメインですが、食品や日用品、ペット用品なども取り扱っており、他のクイックコマースと同様に利便性の高いサービスです。

これまでも、カクヤスでは店舗からの自社配送による最短1時間の宅配サービスを提供してきましたが、カクヤスEXPRESSでは専用の宅配拠点を実店舗に併設し、配達をデリバリー代行サービスに委託することで、最短15分という速さで商品を届けることができるようになりました。

まとめ

記事では、日本ならではの商習慣や法規制などが、国内のクイックコマース市場の成長の障壁となっているとお伝えしましたが、それらは決して悪いことではありません。今はまだクイックコマースの必要性を感じないくらい、日本における実店舗での買い物の利便性が高いということの表れでもあるからです。

しかし、今後のEC化が期待できる食品業界の大規模市場は、クイックコマースだけでなくEC業界全体の発展にもつながるはずです。

日本国内のクイックコマースはいまだ黎明期であり、現在提供されているサービスの多くが、対象エリアを都市部などに限定していますが、今後ニーズが高まることで、順次サービスは拡大されていくでしょう。

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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。