アパレル業界ではオムニチャネルを導入した企業と、そうではない企業で二極化が起こっており、アパレル市場ではオムニチャネルを導入しなければ、市場で生き延びることが難しくなってきたといえます。
なぜなら、日本は少子高齢化社会に突入し、アパレル産業の若年層を中心にマーケットは縮小傾向にあるため、アパレル企業が売上を伸ばすには、顧客単価や顧客一人当たりの購入回数をオムニチャネルで高める必要性があるからです。
現に、アダストリアやベイクルーズなどの大手アパレル企業では、オムニチャネル施策導入により、顧客単価を大幅に増やし、売上高を飛躍的に伸ばしている側面があります。
この記事では、インターファクトリーでマーケティングを担当している筆者が、アパレル業界にオムニチャネルが必要な理由について詳しく解説いたします。
国内アパレル市場販売額推移(1980年~2025年)
まずは経済産業省が公開しているデータをもとに「アパレル市場における年別販売額推移」を筆者が独自にグラフを作成してみました。下記をご覧ください。
・青い棒線は百貨店・スーパーを除いた小売業の衣料販売額
・赤い棒線は百貨店の衣料販売額
グラフデータ引用元:時系列データ|商業動態統計|経済産業省
アパレル市場の販売額のピークは1991年のバブル期であり、リーマンショックが起こった2008年以降は10兆円から11兆円の間でほぼ横ばいに推移しているのがわかります。その中で、百貨店の販売額が徐々に落ち込み、2018年には約2.7兆円と、1991年のピーク時約6兆円の半分を切っております。
さらに、2020年に世界中で蔓延した新型コロナウイルスの影響により、一気に市場が落ち込んでいることがわかります。コロナ禍以降は順調に回復傾向を見せておりますが、2025年には5年ぶりの減少に転じています。インバウンドによる高額品需要の落ち込みが影響したとみられます。
経済産業省のデータでは「専門店」や「通販」のデータが分けられておりませんが、ユナイテッドアローズのIR情報に下記のような販路チャネル別売上高のデータがありました。
◆販売チャネル別売上高の推移
上記グラフ引用:アパレル小売市場の概況(UNITED ARROWS LTD.) ※現在は画像削除
少し前のデータではありますが、このグラフを見ると下記のことが推察できます。
①百貨店と量販店の売上は年々下がっている。
②専門店と通販の売上が伸びている
グラフは2016年までの推移ですが、上記2点の傾向は現状においても同様です。
2019年までの日本のアパレル市場規模は4~5年間は横ばいでした。その間、百貨店や量販店の売上が下げている分、ユニクロのような「専門店」やZOZOTOWNのような「ネット通販会社」がこの市場を引っ張っているという、成長率の上げ下げが相殺する形となり、アパレル市場全体としては成長率が横ばいになっていました。
そして、2020年になるとコロナ禍のためテレワークやオンライン授業の促進により、衣服を着る需要自体が大きく下がっているにも関わらず、ZOZOTOWNの売上は現在まで堅調に推移しています。
株式会社ZOZOの2026年3月期(通期)の連結売上高は2,283億7,300万円(前期比7.2%増)となっており、商品取扱高(GMV)も6,660億3,500万円(同8.4%増)まで拡大しています。
ユニクロも2020年はコロナ禍で大きく落ち込んだものの、V字回復で売上を伸ばし続けています。ファーストリテイリングの2025年8月期(2024年9月~2025年8月)の連結業績は、売上収益3兆4,005億円(前期比9.6%増)と過去最高を更新し、4期連続の増収増益・最高益を達成しました。
国内ユニクロ事業も売上収益が初めて1兆円を突破しています。
参考:流通ニュース「ZOZO 決算/3月期営業利益7.1%増、冬の本セール販売が好調」、株式会社ファーストリテイリング「ファーストリテイリング 2025年8月期 決算サマリー」
売上上位の自社ECサイトを持つアパレル企業は、ほぼ全てがオムニチャネルで成功している事実
下記の表は、日本ネット経済新聞の2025年12月3日号に掲載されていた、2025年度のアパレルEC売上高ランキングデータです。
◆アパレルEC売上高ランキングTOP50(2025年版)
画像引用元:日本ネット経済新聞【「ファッションEC売上高ランキングTOP150」発表】大手は成長継続もEC専業は厳しい結果に
※150社全ての売上高データ等は本誌に掲載(WEB版では50社のみ公開)
上位10社のうち、ユニクロやアンドエスティをはじめとした実店舗と自社ECサイトを持つ企業は、いずれも「オムニチャネル」を推進しており、売上を飛躍的に伸ばしています。アパレルEC業界では「売上を高めている企業」と、「そうではない企業」の2極化が進んでいますが、その鍵となるのがオムニチャネル施策です。
しかし、オムニチャネルを実行するためには、実店舗とECサイト(アプリを含む)のそれぞれのデータの一元化を行わなくてはいけません。このシステム的なハードルがかなり高いために、デジタル投資に積極的な企業だけが、オムニチャネルを実行することができるのです。
アパレル大手3社のオムニチャネルの取り組み事例
それではオムニチャネルの事例としてアパレル企業3社を紹介いたします。この3つの事例を見れば、オムニチャネルの必要性をより理解することができるでしょう。
事例① ユニクロ:EC利用者の4割以上が「EC商品の店舗受取」を利用
下記記事によると、ユニクロのECサイトの利用において、件数ベースではECでの販売の40%以上が「店舗受取」を利用しております。(2021年8月期時点のデータで、その後の公式な更新は確認されていません)
ネットショップ担当者フォーラム:ファーストリテイリング「店舗受け取りサービス」利用率は40%以上、店頭商品を注文・最短2時間で受け取れる「ORDER & PICK」もスタート
これはユニクロにとって大きなメリットがあります。
なぜならECで購入したユーザーが、商品を受け取るためにユニクロの実店舗に足を運べば、そこでクロスセルに結びつき、店舗の売上も増えます。またECのデメリットの一つである「商品を都合の良い時間に受け取りづらい」という悩みも解決されています。
まさに、店舗数が多いユニクロならではの施策と言えます。さらにユニクロはこの施策を進めるために「ECサイトにしか置いていない商品」を用意することで、ECやアプリの利用率促進を図っています。
なお、国内ユニクロ事業のEC化率は2025年8月期時点で14.8%(EC売上高1,523億円、前期比11.2%増)まで拡大しており、店舗受取に加えてEC自体の存在感も年々高まっています。
参考:株式会社ファーストリテイリング「2025年8月期業績および2026年8月期業績予想」
事例② アダストリア:実店舗とECの両方を利用するユーザーが売上の大きな割合を占める
アダストリアは積極的にオムニチャネル施策を進めているアパレル大手企業です。アダストリアには数多くのブランド(GLOBAL WORK、niko and…、LOWRYS FARM等多数)があり、これらのブランド全て自社で生産、物流、販売までを行っております。
自社ECサイトやZOZOTOWNへの出店など、これまでECに力を入れてきましたが、2025年2月期のEC売上高は728億円(前期比5.7%増、EC化率28.4%)にまで達しています。
参考:ネットショップ担当者フォーラム「アダストリアのEC売上は5.7%増の728億円、EC化率は28.4%。「and ST」のオープン化で流通総額は403億円」
アダストリアが最も力をいれているのが「実店舗とEC両方を使うユーザーを増やす施策」です。なぜなら、データ連携により実店舗とEC両方を使うユーザーの存在感は年々高まっており、アプリの利便性を増すことで、さらなるユーザー増を目指しているのです。
こういった取り組みはオムニチャネルならではであり、実店舗とECのデータが連携しているからこそ、力をいれるべき施策のKPIが明確になるのも最大のメリットと言えます。
事例③ ベイクルーズ:店舗とECの在庫を一ヵ所にすることで一元管理できている
セレクトショップを展開するベイクルーズのEC事業は好調で、直近で確認できる公表値では2020年8月期のEC売上高は前期比29%増の510億円、自社EC比率は77%に達しています。それを牽引したのがオムニチャネル施策です。
参考:ネットショップ担当者フォーラム「ベイクルーズのEC売上高は29%増の510億円、自社ECは37%増の391億円で構成比は約77%【2020年8月期実績】」
米クルーズは、オムニチャネル施策によって、店舗とECの在庫を一ヵ所に統合しました。
全ての在庫が一つのデータベースで管理されることで、ほぼタイムラグがない状況で、どの店舗からでも在庫の引き当てが可能な状態になりました。
これにより、ベイクルーズの一部ブランドでは、店舗在庫の取り置きがECサイトで予約できるようになり、こういった在庫の取り置き機能を他のブランドへのサービス拡充を行っています。
また、アダストリアの事例にもありましたが、ベイクルーズにおいても「実店舗とEC」の両方を利用するユーザーは、店舗だけ利用するユーザーよりも購入金額が3倍も高いことがわかりました。
参考:ネットショップ担当者フォーラム「自社EC売上が44%増の137億円のベイクルーズ、伸びている理由は? 物流問題の影響は?」
このように、アパレル市場においてオムニチャネルを実施することは、ロイヤルカスタマーを育て、購入単価を高めることで、売上高を飛躍的に伸ばすことができるのです。
アパレル企業にオムニチャネルが必要な3つの理由
それではここで、アパレル企業にオムニチャネル施策が必要である3つの理由を解説します。
理由① 売上を極限まで高めるため
国内では少子高齢化が進んでおり、最も服を購入する若年層の人口は減り続けております。下記の総務省のデータをご覧ください。
データ引用先:第1節 若者を取り巻く社会経済状況の変化(総務省)
2010年を「100」としたデータですが、比較すると若年層が今後どれだけ減っていくかがわかります。
このような背景で、競争の激しい国内アパレル市場で売上を高めていくためには、一人あたりの購入回数や購入単価を高めるのが最も効率的となります。それを実現するにはオムニチャネルが最適といえるのです。
例えば、店舗に来たユーザーに対し、会計の際にその場で使える割引クーポンなど訴求して、ユーザーにアプリ導入を勧めます。その後、ユーザーが店舗に来ていない時にも、クーポンやキャンペーンの紹介や、新製品の通知を行います。アプリを有効に使うことで、会員一人当たりの購入機会を高めることができます。
もちろん、実店舗とECサイト(アプリを含む)のデータ連携をせずとも、O2O施策で購入促進の施策は可能です。
しかし、アダストリアやベイクルーズの例のように、実店舗とECのデータが一元化されているからこそ、「実店舗とECの両方のユーザーの購入単価が高い」という効果をデータで実証することができますし、それらのユーザーをセグメントして、ロイヤルカスタマーを育てる施策を行うことができるのです。
理由② オムニチャネル導入で人手不足を解消する
今はアパレル業界に関わらず、日本国内ではあらゆる産業で人手不足が深刻な問題です。とくにサービス業の人手不足は深刻な問題です。下記のグラフをご覧ください。
グラフ引用先:人手不足で疲弊、もう「外食・小売り」は限界だ(東洋経済)
これは、アルバイトなどのパート労働者の人手不足を業界別に表したグラフですが、その中でもアパレル業界が含まれる小売業は飲食サービス業に次ぐ2位に位置します。
アルバイトの雇用が上手くいかないということは、つまり社員の現場負担がかかることを意味します。この人手不足を解消する方法としては、オムニチャネルの観点からは下記の2つがあげられます。
(1)デジタル化やデータ統合を進め、業務効率化
(2)ECサイト利用の促進
オムニチャネルを通して、商品や在庫データが店舗とECで統一していれば、店舗スタッフは、在庫の確認をタブレットで行うこともできますし、欠品の時は、そのままECサイトでの購入を促すこともできます。
また、自社ECサイトで購入するユーザーが増えれば、全体として店舗スタッフの業務負担が減りますし、そもそも店舗スタッフの確保が難しくなる以上、新規出店をすることで売上を上げるのは、困難になります。
理由③ ユーザーは24時間スマートフォンを使う
アパレル業界も、昔はテレビなどのマスメディアやファッション誌が強い影響力をもっていましたが、スマートフォン全盛の今では、ユーザーがファッションの流行をチェックする一番の情報源はスマートフォンであるという状況は変わっていません。
LINEヤフー株式会社が2024年7月に実施した調査(全国15〜69歳男女5,241サンプル)によると、ファッションに関する情報源は年代によって傾向が異なるものの、10〜30代では「Instagram」が情報源の1位となっており、10〜20代では約5割、10〜20代女性に限れば6割台後半がInstagramを参考にすると回答しています。
全体では「店のディスプレイ・店員の話」が1位で、僅差でSNSが続く結果となりました。
参考:PR TIMES(LINEヤフー株式会社プレスリリース)「【LINEリサーチ】ファッションアイテムの購入頻度、「月に1回以上」が全体で3割超。ファッションに関する情報源は、年代で大きな違いがみられる」
SNSに限らず、WEBサイトやアプリを含めたスマートフォン経由の情報収集は、依然としてファッション業界において高い影響力を持ち続けています。WEBもアプリもこの中に「自社ECサイト」の利用が含まれ、影響力が高いことがわかります。
そして、何よりオムニチャネル施策の本質は、顧客接点の増加により利便性向上にあります。現にオムニチャネル施策を行った企業の多くは「実店舗とEC(アプリを含む)」の両方を利用するユーザーの顧客単価や購入回数が多くなり、売上に多大な影響を与えております。
そのため、顧客接点を中心に考えると、スマートフォンアプリや、ブラウザーによる自社ECサイトがオムニチャネルの中心になってくるのです。
アパレル業界で重要性を増す「クロスユーザー戦略」
2026年のアパレル業界では、単に自社ECサイトを持つだけでなく、「実店舗とECの両方を利用する顧客(クロスユーザー)」をいかに増やすかが、オムニチャネル戦略の成果を左右する重要な指標になっています。
下記記事によると、ユナイテッドアローズでは、クロスユーザー数が前期比48.9%増の24万5,000人まで拡大し、それに伴い会員売上高も前期比43.7%増の844億円(売上構成比54.8%)まで伸びています。
参考:ネットショップ担当者フォーラム「ユナイテッドアローズの2026年3月期EC売上は405億円で8.7%増、EC化率は25.8%」
実店舗とECを併用する顧客ほど購買頻度や購入単価が高くなる傾向は、アダストリアやベイクルーズの事例でも共通しており、単一チャネルの強化だけでなく「顧客を軸にしたチャネル横断戦略」への転換が、今後のアパレルEC市場における競争力の分かれ目になると考えられます。
今後アパレル企業がオムニチャネルへ投資する際は、単なるEC化率の向上だけでなく、実店舗とECのデータを統合し、クロスユーザーを可視化・育成する仕組みづくりが、重要な経営課題になっていくでしょう。
オムニチャネルは成功すれば売上が飛躍的に伸びる一方で、導入が非常に難しい!最大の理由は実店舗とECのデータの一元化!
本日は、アパレル業界の市場・背景から、オムニチャネルを成功してきた会社の事例を中心に、なぜアパレル業界にオムニチャネルが必要なのかを解説しました。ここまで読んで、下記のような考えをもったのではないでしょうか?
「全てのアパレル企業がオムニチャネルを導入すればいいのではないか?」
しかし、それが非常に難しいのです。
とくに百貨店や量販店などの大企業では自社の顧客を管理しているシステムがフルスクラッチで作られていることが多く、それらの多くはレガシーシステムです。ECの顧客データとも連携していないケースが多いです。
企業の長い歴史の中で、社内システム(レガシーシステム)に詳しい人間は、退職しているケースが多く、企業は実店舗とECのデータの一元化には自社内でシステムに精通する人材が不可欠です。また、ECとデータ連携を行う際は、在庫のリアルタイム連携などを考慮すれば、レガシーシステムはオムニチャネルに不向きです。
オムニチャネルを実行するためには、経営者が「オムニチャネルを行わなくて、アパレル業界で生き残れない!」ことを全社員に宣言し、オムニチャネル担当者に高い権限を与え、企業のあらゆる部署から担当者を集め、横断的に対応する必要が不可欠なのです。
そこまでしなければ、オムニチャネルの導入は困難であり、逆にオムニチャネル導入に成功すれば、飛躍的に売上高を伸ばすことができる可能性が高まるのです。
オムニチャネル施策を検討しているアパレル事業者様へ
もし自社ECサイトの立ち上げやリニューアルとともに、オムニチャネル施策の実施を検討しているのであれば、弊社のクラウドコマースプラットフォーム「EBISUMART」の導入をぜひご検討ください。
EBISUMARTは、柔軟なシステム連携機能を有したECプラットフォームであり、さまざまなチャネルをシームレスにつなげ、独自機能のカスタマイズも行える拡張性の高いプラットフォームです。
よりアパレル事業者向けの機能について知りたい方は、ぜひこちらの資料をご覧ください。




























