ダウンロード販売をECサイトで行う事業者が知るべき機能解説


ゲームや動画、音楽などのデジタルコンテンツをWEBでダウンロード販売したい事業者は、

「デジタルコンテンツをダウンロード販売するECサイトは、通常の物販系ECサイトと何が違うのだろうか?」
「既に運営している物販系ECサイトにダウンロード商材を掲載すれば良いのか?」

といった疑問をお持ちでしょう。物販系ECサイトとデジタルコンテンツをダウンロード販売するECサイトでは、必要な機能や求められる決済方法が異なります

なぜならデジタルコンテンツには「複製されやすい」というデメリットがあるため、デジタルコンテンツをダウンロード販売するECサイトには、複製を防止するための機能が求められるからです。

本日は、インターファクトリーでWEBマーケティングを担当している筆者が、これからECサイトでデジタルコンテンツのダウンロード販売を考えている事業者向けに、ECサイトに必要な機能や決済方法などを解説いたします。

2012年のデジタル系分野におけるBtoC-EC市場規模は約2.6兆円

以下の表は、2023年8月に経済産業省が発表したデジタル系分野におけるBtoC-EC市場規模のデータです。2022年のデジタル系分野におけるBtoC-EC市場規模は2兆5,974億円で、前年比で6.1%の微減となりました。

◆サービス系、デジタル系分野のBtoC-EC 市場規模(2021年/2022年比較)

サービス系、デジタル系分野のBtoC-EC市場規模

また下記は、サービス分野とデジタル分野のBtoC-EC市場規模の推移を示したグラフです。過去10年にわたって、デジタル分野の市場は堅調に推移してきました。

特にコロナ禍を迎えた2020年、サービス分野の市場規模は大きく落ち込みましたが、デジタル分野は逆に市場規模を拡大させています。

コロナ禍の外出自粛の影響により、自宅待機時間が増加したことが追い風となってデジタルコンテンツのニーズが大きく高まったものと考えられます。

◆サービス系、デジタル系分野のBtoC-EC市場規模の経年推移(2013年〜2022年)

サービス系、デジタル系分野のBtoC-EC市場規模の経年推移

出典:「令和4年度 デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(経済産業省

昨今では、Spotifyやコミックシーモア、Netflixをはじめとする「音楽」「電子書籍」「動画」のサブスクリプションサービスが大幅に伸びており、市場が活性化しています。

さらに、2020年は新型コロナウイルスの影響による巣ごもり需要で、サブスクリプションサービスの利用者数が増加しました。

コロナ禍を経て外出機会が増えたため、2022年には市場規模が縮小しましたが、例えば動画配信サービスの各社では、オリジナルコンテンツが映画さながらのクオリティで大きな支持を得るなど、各社とも提供サービスの質を高めているため、デジタル系分野におけるEC市場の伸長は今後も期待できるものになっています。

ダウンロード販売の代表的な6つの商材と2つの提供方法

デジタルコンテンツのダウンロード販売において代表的な商材は、下記の6つです。

◆デジタルコンテンツのダウンロード販売を代表する6つの商材

① 音楽
② 電子出版(電子書籍・電子雑誌)
③ 動画(映画を含む)
④ 写真
⑤ ゲーム
⑥ ソフトウェア

具体的には、以下のようなサービスが提供されています。

・音楽配信サービス:Apple Music、Prime Music
・電子書籍サービス:Kindle Unlimited、楽天kobo
・動画配信サービス:Hulu、Netflix
・写真・イラスト・アイコン・バナーなどの素材集:PIXTA、iStock
・ダウンロードゲーム:マイニンテンドーストア、PlayStation Store
・ソフトウェアダウンロード:Vector、窓の杜

そして、デジタルコンテンツの商品ごとに購入金額を支払うか、定額料金を一定期間の利用料として支払うか、提供方法は以下の2種類があります。

◆デジタルコンテンツのダウンロード販売向けの2つの提供方法

① 商品ごとに購入金額を支払うトランザクション型
② 定額料金を支払って一定期間利用するサブスクリプション型

サブスクリプション型を選択する場合、ユーザーは自分が見たい(欲しい)コンテンツの量やジャンルの充実さなどでサービスを選ぶため、コンテンツの豊富さも重要なポイントとなります。サブスクリプションについては、以下の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。

関連記事:担当者が10分でサブスクリプションを理解するためのプロの徹底解説!

ダウンロード販売の2つの販売チャネル「ショッピングモール」か「自社ECサイト」

もし、これからデジタルコンテンツのダウンロード販売を行いたいと事業者が考えた場合、2種類の販売チャネルから選択することができます。

◆デジタルコンテンツのダウンロード販売を行うための2つのチャネル

チャネル① ショッピングモールでのダウンロード販売
チャネル② 自社ECサイトでのダウンロード販売

チャネル① ショッピングモールでのダウンロード販売

ECのショッピングモールとは、様々な会社がWEB上のショッピングモールで出店・商品を出品し、販売する手法です。「楽天市場」や「Amazon」のような有名ショッピングモールは、モール自体に集客力があり、多くの人が利用しているため、ある程度の集客を期待できることがメリットです。

また、自社ECサイトを構築する場合と比べると、初期投資を抑えながら、すぐに出店・出品することができます。ただし、売上はショッピングモール側の手数料を引いたロイヤリティという形になるため、商品の利益率は低くなります。ロイヤリティについては下記の例をご覧ください。

◆「楽天kobo(楽天)」の例

販売価格(本体価格)299円~10,000円の場合は、70%のロイヤリティ
販売価格(本体価格)80円~298円の場合は、45%のロイヤリティ

参考:Koboライティングライフ ヘルプページ
※最新の情報については、それぞれの公式サイトでご確認ください。

ショッピングモールは初期投資を抑えて始められる手軽さが魅力です。しかし、ショッピングモールには膨大な量の書籍(ライバル)が存在するために、よほど有名な作品でなければショッピングモールで自動的にどんどん売れるということはありません。

集客力があるショッピングモールとはいえ、自社のSNSで告知をしたり、プレスリリースを打ったりするなどの集客施策が必要になってきます。

チャネル② 自社ECサイトでのダウンロード販売

ダウンロード販売専用の自社ECサイトを作る場合、初期費用と構築するための期間・労力がかかります。また、ECサイトの規模にもよりますが、自社ECサイトが完成した後も、サーバー代やシステム利用料、あるいは広告費用もかかるので、必ずしもショッピングモールよりもランニングコストを抑えることができるとは限りません

最大のメリットは、思い通りのECサイトを作れることです。例えばダウンロード販売をするデジタルコンテンツにダウンロード制限を設けるなど、複製防止対策を自社主導で行うことができるのです。

また、自社でファンを囲い込み独自のマーケティングを行うには、ショッピングモールよりも自社ECサイトの方が向いています。

すでに有名作家や有名アーティストを抱えている企業が、彼らの作品のダウンロード販売を行う場合は、最初から集客力がある(ファンがいる)ため、ショッピングモールよりも自社ECサイトの方が利益を出しやすいでしょう。

しかし、有力なデジタルコンテンツがなければ、自社ECサイトを作ってからも集客施策を行う必要があるために、費用も労力もかかるので、非常に苦労することになります。事前に集客施策を考えてから、自社ECサイトが本当に必要なのか検討を行うべきでしょう。

それでは、自社ECサイトでダウンロード販売をするときに必要な機能を解説します。

自社ECサイトでダウンロード販売をするときに必要な3つの制御・制限機能

物販系ECサイトと異なり、デジタルコンテンツを扱うECサイトでは商品を発送する必要がないため、送料計算の機能は不要です。しかし、デジタルコンテンツのダウンロード販売特有の機能が必要になります。

デジタルコンテンツは、購入者によって違法に複製され、第三者に渡されやすいという側面があります。複製が横行するとアーティストやクリエイターが儲けにくくなり、良いコンテンツが生まれにくくなります。

デジタルコンテンツの著作権を保護して無制限な利用を防ぐために、DRM(Digital Rights Management)という複製を制御・制限する技術が必要になります。DRMを実現する機能は販売するデジタルコンテンツの種類によって異なりますが、ここでは代表的な機能を紹介します。

① ダウンロード回数制限

あらかじめダウンロード回数の制限を設定しておくことで、それ以上のダウンロードを制限する機能です。ユーザーがダウンロードする度にカウントされ、設定されている最大値に達するとダウンロードができなくなります。

② 閲覧回数・期間制限

購入したコンテンツを閲覧できる回数や期間をユーザーごとに設定する機能です。期限があるレンタル映画などのデジタルコンテンツに利用される機能です。

③ ダウンロード制御

PCやスマートフォンなどの端末にダウンロードすることを制御し、ストリーミング再生のみ閲覧できるようにする機能です。画像向けに、画面キャプチャを防止する制御を行う例もあります。

しかし、自社ECシステムだけでは、このようなDRMを備えているサービスは多くありません。その場合には、デジタルコンテンツを別のシステムで管理する方法が使われます。ECサイトとダウンロードサイトを分けて管理する場合は、以下のような流れとなります。

◆自社ECサイトとダウンロードサイトを分けて管理する場合の購入からダウンロードまでの流れ

①自社ECサイトでデジタルコンテンツの購入を受け付ける
②ダウンロードサイトのURLとライセンスキーをユーザーに送付する
③ユーザーがURLからダウンロードサイトにアクセスし、購入したデジタルコンテンツをダウンロードする

上記は、自社ECサイトとコンテンツ管理システム間を「ライセンスキー」によって情報連携させる方法です。

この方法は、最初にコンテンツごとのライセンスキーを決めておく必要があります。コンテンツ管理システムに登録したデジタルコンテンツのライセンスキーを、自社ECシステムの商品マスタにも登録しておくことで、ユーザーにライセンスキーを渡すことができます。

その他の自社ECサイトに必要な機能は、下記の記事にまとめています。こちらはデジタルコンテンツに限らず、これから自社ECサイトを作る皆さんにぜひおすすめしたい記事です。

関連記事:ECを検討する事業者が事前に知るべきECシステムの7つの機能

ダウンロード販売に向いている決済方法とは

自社ECサイトの場合は、さまざまな決済方法を準備しておかなければいけません。

一般的には、クレジットカード決済が主流です。デジタルコンテンツの場合、ユーザーはすぐにコンテンツを利用したいことが多い、または利用できることを期待しているため、購入を確定したその場で決済が完了する「リアルタイム性のある決済方法」がよく利用されます。

◆リアルタイム性のある決済手段

・クレジットカード決済
・電子マネー決済
・キャリア決済
・ID決済(LINE Pay、楽天ペイ、Amazon Pay、PayPayなど)
・オンライン決済サービス(PayPal) など

絶対に必要な決済方法は利用数が最も多いクレジットカード決済ですが、クレジットカードを持たないユーザーも一定数存在します。そのユーザーを取りこぼさないためにも、「キャリア決済」や「オンライン決済サービス」を利用できるようにしておくべきです。

特にゲームや漫画などのデジタルコンテンツは、クレジットカードを持っていない若年層も多く購入します。若年層向けの決済サービスとしては、携帯電話の利用料金とまとめて支払うことができるキャリア決済が、ダウンロード販売と相性の良い決済サービスです。

オンライン決済サービスのPayPalは、デジタルコンテンツ業界の事業者に多く利用されており、ダウンロードゲームを販売するサイトでは、任天堂やソニーのPlayStation Storeも導入しています。PayPalはクレジットカードを持っていなくても銀行口座をひも付けることで、カード決済のように利用することができます。

さらに、「PayPal」は欧米で広く支持されていることから、外国人ユーザーの購入も期待できます。

年代や属性からおすすめする決済サービスについては、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。

関連記事:事業者が「オンライン決済」を導入するための5つの方法を徹底解説

ダウンロード販売のまとめ

2020年は新型コロナウイルスの流行により、あらゆる業界でオンラインビジネスの需要が増えました。これを契機として、デジタルコンテンツの市場は大きく伸びる分野のひとつだと考えます。

しかし、デジタルコンテンツは複製されやすいというデメリットがあるため、これからダウンロード販売を行う際は、DRMの必要性を考慮する必要があります。

また、デジタルコンテンツに限りませんが、自社ECサイトは、作るよりも集客していくことが非常に大変です。なぜなら、実店舗ビジネスとは違ったノウハウが必要となり、自社ECサイトでデジタルコンテンツを販売する仕組みができたとしても、カンタンに売上を伸ばせるわけではないからです。

しかし、自社ECサイトでは、自社で広告を打ったり、無料ダウンロードコンテンツを配布して個人情報を取得し、見込み客にメールマガジンを打ったりなど、独自のマーケティング施策を行うことができます。

もし、これからデジタルコンテンツのダウンロード販売を始める場合は、まずは楽天やAmazonなどの「ショッピングモール」で販売を行い、そこでECのノウハウを身につけてから、自社ECサイトに移行する方法が最適だと思います。


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ABOUT US
井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。