【最新版】EC化率をプロが徹底解説|BtoCからBtoB、CtoCまで


2022年8月に経済産業省によって、2021年の国内EC市場とインターネットおよびスマートフォンの利用動向などに関する報告書(電子商取引に関する市場調査報告書)が公開されました。

2021年度の報告書によると、2019年末から続いている新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる影響でEC化率が大きく伸長しています。

EC化率とは、すべての商取引においてEC(電子商取引)が占める割合を示す数値で、産業(または事業)全体のEC事業の動向を把握するための指標となります。

2021年度の報告書のBtoC-EC物販系分野の食品産業(食品・飲料・酒類業界)のデータを使用して、もう少し詳しく見てみましょう。

■2021年のBtoC-EC食品産業(食品、飲料、酒類業界)のEC化率

2兆5,199億円(EC市場規模) ÷ 66兆8,410億円(全商取引の市場規模)=  3.77%(EC化率)

引用:「EC市場規模」「EC化率」は経済産業省令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2022年8月発表)より引用、「全商取引の市場規模」は筆者が算出

上記より、EC化率は「EC市場規模÷全商取引の市場規模」の式で求められます。

報告書によると、食品産業を含むBtoC物販系分野全体のEC化率は8.78%なので、EC化率が3.77%の食品産業は物販系分野の中でもEC化が遅れている産業であることが分かります。

例えばEC事業者が新たな市場に参入する場合、産業全体のEC化率が高ければより練り上げたEC戦略が必要となり、低い場合には競合が少なく開拓者となるチャンスと捉えることもできます。ただし、ECが適していない産業という場合もあるので、事業計画を立てる際には、産業の特性とEC化の背景も考慮する必要があります。

この記事では、インターファクトリーでWebマーケティングを担当している筆者が、経済産業省の2021年度の報告書を読み解きながらEC化率について解説します。

国内BtoB市場のEC化率は、記事の後半で解説しています。最初に読みたいという方はこちらをクリックして、ページ下に移動してください。

以降の当記事内で出典または引用を明記していない数値および図表等は、経済産業省の2021年度の報告書より引用しています。

引用:経済産業省令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2022年8月発表)

国内BtoCのEC化率は8.78%(物販系)

◆物販系分野のBtoC-EC 市場規模及びEC 化率の経年推移[図表 1-2]

経済産業省の報告書によると、2021年の世界のBtoC市場のEC化率は推計19.6%で、同年の国内のEC化率は8.08%なので、日本はBtoC-ECの普及が遅れていることが分かります。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが宣言された2020年には国内BtoC-EC市場規模はかつてないほど伸長(前年比21.71%)したことから、2021年も同程度の伸長を予測していたのですが、実際には前年比8.61%にとどまりました。

おそらく、パンデミックの影響が大きかった2020年のうちに企業は一気にEC化を進め、その波が一旦収束した2021年のEC化率が伸びなかったのかもしれません。

また、2021年の小売業の商業販売額が前年より増えていることも、2021年のEC化率の伸びが鈍化した要因のひとつではないかと考えられます(下図参照)。

◆国内新型コロナウイルス感染症新規感染者数の推移と小売業の月別商業販売額[図表 3-4]

下図は、新型コロナウイルス感染症の流行による日本のGDP全体に対する影響を示したグラフです。

◆実質GDP 成長率推移(前期比)[図表 3-2]

政府による緊急事態宣言が発令され、個人の外出自粛や事業者の休業・時短営業要請が出された結果、2020年4~6月期の国内の実質GDPは、リーマン・ショック後の落ち込みを超える戦後最大の下落となりました。その一方で、自宅でいつでも利用できるECの需要が高まったことで2020年のEC化率は大きく伸長しました。

2021年には、新型コロナワクチンの接種が進むとともに行動制限が緩和されたため経済活動が再開し、年間での実質GDP成長率は1.6%増となりました。

2021年の国内BtoC市場のEC化率が予想より伸びなかった背景としては以下が考えられます。

◆2021年の国内BtoC市場のEC化率がさほど伸びなかった背景

・2020年に停止していたリアル(実店舗)の経済活動が2021年に再開した
・2020年に政府の事業支援・給付金制度を利用してEC化を進めた企業も多かったが、2021年は一旦収束した
・2020年にEC事業を開始した一部の企業では、2021年は売上増に至らなかった

予想を下回ったとはいえ、コロナ禍以前と比べると2021年のEC化率は大きく上昇しており、国内BtoC市場は今後ますます活性化していくでしょう。

国内BtoC-ECの「物販系」「サービス系」「デジタル系」の3つの分野の市場規模の合計は20兆6,950億円

国内BtoC-ECの「物販系」「サービス系」「デジタル系」の3つの分野の2021年の市場規模の合計は20兆6,950億円となり、対前年比で1兆4,171億円(約7%)増加しました。

◆BtoC-EC 市場規模の経年推移(単位:億円)[図表 4-7]

2020年以降、新型コロナウイルスの影響により、特に飲食サービス、旅行サービス、チケット販売などのサービス系分野は急激に落ち込んだままですが、2021年は物販系分野とデジタル系分野が伸びているため、3分野の合計としては7%の伸びにつながりました。

それでは次に物販系、サービス系、デジタル系の各分野のEC市場規模を見てみます。

国内BtoC-ECの3つの分野(物販系、サービス系、デジタル系)の動向

「物販系」「サービス系」「デジタル系」の各分野の内訳は以下のとおりです。

◆物販系分野のBtoC-EC市場規模[図表 1-1]

◆サービス系、デジタル系分野のBtoC-EC市場規模[図表 1-3]

◆各分野の2021年のEC市場規模と伸長率(2020年の伸長率)

・「物販系分野」:13兆2,865億円、伸長率8.61%(前年度:21.71%)
・「サービス系分野」:4兆6,424億円、伸長率1.29%(前年度:▲36.05%)
・「デジタル系分野」:2兆7,661億円、伸長率12.38%(前年度:14.90%)

昨年よりは伸び率が低いものの、物販系分野及び、デジタル系分野が伸びたため、市場規模の総計は約7%の伸長率となりました。

2020年に新型コロナウイルス感染症拡大の影響でマイナス成長(▲36.05%)に転じた「サービス系分野」ですが、2021年はチケット販売やフードデリバリーの市場規模が拡大したことでわずかではありますが前年比でプラス(1.29%)となりました。

コロナ禍の緊急事態宣言下での自粛要請は、飲食産業や旅行産業にとって大きな打撃となりました。残念ながら、パンデミックが収束するまでは、これらの産業が置かれている厳しい状況が好転する可能性は低いでしょう。

2020年の急伸長には及ばないものの、物販系分野およびデジタル系分野の市場規模はいずれも堅調だったことから、2021年の3つの分野の国内BtoC-EC市場規模の合計も増加しています。

ここからは、「物販系」「サービス系」「デジタル系」の各分野の動向を詳しく見ていきましょう。

A.物販系分野

A-1:物販系分野の伸長率上位3つの業界

◆国内BtoC-ECの物販系分野の業界別伸長率(伸び率)

引用:経済産業省令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2022年8月発表)、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2021年7月発表)より筆者作成

物販系分野のEC市場規模の伸長率は前年比8.61%で、急激に伸長した2020年(前年比21.71%)と比べると少ない伸び率となりました

物販系分野における2021年のEC市場規模伸長率の上位3位の業界は以下のとおりです。

◆物販系分野の2021年EC市場規模伸長率トップ3

1位:「食品、飲料、酒類」 14.10%
2位:「化粧品、医薬品」  9.82%
3位:「衣類、服装雑貨等」 9.35%

1位の「食品、飲料、酒類」業界では、スーパーやコンビニなどの実店舗における利便性が圧倒的に高いため、コロナ禍以前はEC化率が伸びづらい業界でした。しかし、コロナ禍で外出自粛などにより、オンラインサービスを利用する消費者が増えたことでEC化が促進されたものと考えられます。

関連記事:食品ECの3つの課題とAmazon・楽天等の取り組み紹介

3位の「衣類、服装雑貨等」(アパレル)業界も同様で、従来は実店舗を利用していた人々が、自宅でいつでも買い物ができるEC利用に移行したことによる伸長でしょう。

また、沖縄では新型コロナウイルスに感染した自宅療養者のネットスーパーの利用が増加しているというニュースもあります。

参考:琉球朝日放送QABNEWS Headline CATCHYネットスーパーが大忙し!新型コロナの自宅療養者が増加で

2位の「化粧品、医薬品」業界では、特に医薬品業界のEC市場が活性化しています。2014年6月12日に薬事法の一部改正法が施行されたことで医薬品のインターネット販売範囲が拡大したところに、2020年以降のパンデミックによりECを利用する人が一気に増えたことが要因として挙げられます。

関連記事:化粧品ECの3つの課題と化粧品業界大手の取り組みを解説

A-2:物販系分野のEC化率上位3つの業界

◆国内BtoC-ECの物販系分野の業界別EC化率

引用:経済産業省令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2022年8月発表)、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2021年7月発表)より筆者作成

◆物販系分野の2021年EC化率トップ3

1位:「書籍、映像・音楽ソフト」 46.20%
2位:「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」 38.13%
3位:「生活雑貨、家具、インテリア」 28.25%

上記の3つの業界は、毎年順位の入れ替わりはあるものの、4年連続でトップ3にランクインし続けています。いずれも、もともとECとの相性が良い業界でしたが、2020年以降のコロナ禍の巣ごもり需要でさらに利用者を増やしています

1位の「書籍、映像・音楽ソフト」、2位の「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」の2つの業界は、消費者はあらかじめ欲しい商品を決めていることが多く、実店舗とEC店舗のどちらで購入しても商品自体の価値は変わらないという特徴があります。

そのため、型番(あるいは品番)さえ分かれば、インターネットで複数店舗のサービスや価格を比較し、消費者は最も気に入った店舗で購入できるため、ECと非常に相性が良い業界です。特に、家電業界は企業、消費者ともにEC利用指向が高い傾向があり、EC化率は4割近く(38.13%)に達しています

3位の「生活雑貨、家具、インテリア」業界については、ニトリや無印良品などの動向だけを見ても、まだまだ成長の余地がある業界だと筆者は考えています。

「生活雑貨、家具、インテリア」業界では各企業が積極的にECアプリを開発するなどしてインターネット販売を促進していますが、企業の先進的なデジタル化に消費者のマインドがまだ追いついていない面もあってか、実店舗での購買比率が依然として高い状況です。

家具・インテリア業界のEC市場について関連記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。

関連記事:【2020年版】家具・インテリアECの業界動向と大手5社を解説

A-3:物販系分野のEC市場規模上位3つの業界

◆国内BtoC-ECの物販系分野の業界別市場規模

引用:経済産業省令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2022年8月発表)、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2021年7月発表)より筆者作成

◆物販系分野における2021年EC市場規模トップ3

1位:「食品、飲料、酒類」 2兆5,199億円
2位:「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」 2兆4,584億円
3位:「衣類・服装雑貨等」 2兆4,279億円

EC市場規模は、2020年は「生活家電・AV機器、PC・周辺機器等」業界が1位でしたが、2021年は、伸長率1位の「食品、飲料、酒類」業界が、EC市場規模でも1位となりました。

「食品、飲料、酒類」は市場規模が大きい産業のため、EC化率が低くてもEC市場規模も大きくなります。商品やサービスが消費者の生活と密接しているため、今後もEC利用者は増え続けEC化率自体も上昇していくでしょう。

3位の「衣類・服装雑貨等」(アパレル)業界は、若い女性を中心にEC利用が増えています。

◆ECサイト利用が増えたカテゴリ、女性は「ファッション」「生活雑貨」が突出

ECサイト利用が増えたカテゴリ、女性は「ファッション」「生活雑貨」が突出

引用:NTTレゾナント株式会社gooプレスリリース【goo Search Solution独自調査Vol.2】コロナ禍で変わった実店舗とECの利用動向に関する調査を公開!」(2022年7月26日掲載)

「衣類・服装雑貨等」業界はInstagramとの相性が良いため、多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーが立ち上げたブランドや話題となった企業への関心が集まりやすく、消費者のレスポンスも比較的早い段階で表れやすい傾向があります。

ユニクロ、ZOZOTOWNなどのファッション通販大手がしのぎを削っている市場のため、デジタルを駆使した新しい仕組みやサービスが次々に打ち出されています。常に最先端の取り組みに挑戦し続けているアパレル業界は、国内BtoC-EC市場全体のデジタル技術の向上にも一役買っていると言っても過言ではないでしょう。

アパレルECについては過去に解説したので下記記事もあわせてご覧ください。

関連記事:【最新版】アパレルECの市場規模と5つの課題をプロが徹底解説

B.サービス系分野

サービス系分野には、「旅行サービス」「飲食サービス」「宿泊サービス」などが含まれます。

◆サービス系分野のBtoC-EC の市場規模[図表 4-22]

「旅行サービス」「飲食サービス」「チケット販売」の3つのサービスでは、コロナ禍のネガティブな影響を大きく受けた2020年の市場規模がかつてないほどのマイナス成長となりました。2021年には「チケット販売」では回復が見られるものの、サービス系分野全体は依然として低調です。

しかし、日々の暮らしに楽しさをもたらしてくれるサービスを気兼ねなく利用できるようになることを心待ちにしている人々は多く、パンデミックが収束後に、経済活動と消費者行動が活性化すれば急速に回復するでしょう。

参考:BCN+Rコロナが落ち着いたらやりたいこと! 2位は外食、1位は?」(2021年8月2日掲載)

「旅行サービス」はEC化にいち早く取り組んできた業界のひとつです。いつでも手軽に航空券や宿泊先を予約できるインターネット予約やチケットレスサービスなど、消費者の利便性が高いサービスを提供しています。

さらに「エクスペディア」や「じゃらんnet」などのインターネット旅行代理店(OTA:Online Travel Agent)の台頭が、BtoC-ECの利用率を押し上げました。

とはいえ、対面予約の需要も根強くあり、消費者ニーズはECと実店舗の二極化が進んでいましたが、コロナ禍を機にEC利用へ移行した消費者も少なくないと思われるため、今後はEC利用率が増加していくのではないでしょうか。

「飲食サービス」では、コロナ禍の前からインターネット予約の利用率が増加していました。「食べログ」や「一休.com」などのレストラン予約サービスサイトでは掲載店舗も充実しており、予約も簡単に行えます。また、外食産業はコロナ禍の影響を最も大きく受けている業界のひとつですが、店舗情報のランディングページに感染対策や安全に関する案内を明記するなど、店舗側の工夫と配慮も見受けられます

「チケット販売」は、BtoC-ECとの相性が極めて良いサービスのひとつです。近年は、チケットの転売を防ぐために本人認証の仕組みを備えた電子チケットの採用も増えつつあり、電子チケットとスマートフォンと組み合わせて使用することで、他人への譲渡を制限できます。今後も「チケット販売」のEC化はますます進化していくでしょう。

「金融サービス」では2018年、2019年の2年連続でEC市場規模が減少(※)していたのですが、2020年以降のコロナ禍で需要が一気に高まった印象です。コロナ禍で投資を始める人が増えたことに加え、ビットコインなどの仮想通貨取引が再び過熱したためではないかと推察されます。

金融業界はEC化にもいち早く取り組んできました。新たな電子サービスを提供することも、もちろん効果的ですが、市場規模を大きく左右する要因は投資家や市場の動きです。

※参考:経済産業省令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2020年7月発表)

C.デジタル系分野

デジタル系分野には、「電子出版(電子書籍・電子雑誌)」「有料音楽配信」「有料動画配信」「オンラインゲーム」サービスなどが含まれます。

◆デジタル系分野のBtoC-EC 市場規模[図表 4-24]

2021年は「電子出版」(前年比24.23%)、「有料動画配信」(前年比18.47%)の2つのサービスで市場規模が大きく伸長しています。人々の自宅で過ごす時間が増え、これまで通勤や飲み会、イベント等に使っていた時間を、コンテンツサービスの利用に充てる人が増えたということでしょう。

参考:ORICON NEWS大手出版社参入により電子コミック群雄割拠の時代へ 苛烈するマンガアプリ市場、鍵は『デジタルと紙の“循環”』」(2021年8月3日掲載)

デジタル系分野の市場規模の拡大には、データ通信サービスの定額プランが充実したことなども影響していると考えられます。通信キャリアやMVNO各社から定額で大容量データ通信が可能なプランや格安SIMなどが提供されるようになったことで、データ通信料を気にすることなく、リッチコンテンツを視聴できる環境が整いました。

「有料動画配信」サービスでは、AmazonプライムやNetflixなどの大手各社が魅力的なオリジナルコンテンツを製作して会員向けに配信しており、従来であれば人々がテレビ視聴に使っていた多くの時間が、動画視聴によって奪われつつあります。

「オンラインゲーム」サービスは2019年の伸長率はマイナス4.00%(※)でしたが、コロナ禍の影響を受けて大きくプラスに転じ、2020年は7.50%、2021年は7.82%となりました。

※参考:経済産業省令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2020年7月発表)

オンラインゲームをはじめとするコンテンツサービス市場は、メガヒット作品を生み出せるか否かで市場規模が激変する分野です。

国内CtoC-EC(フリマアプリ、ネットオークションなど)の市場規模

◆CtoC-EC 推定市場規模[図表 5-1]

メルカリなどのサービスに代表されるCtoC-EC市場は、2019年度に伸長率が9.5%(※)となり1割を切ったところで、市場規模が安定しつつあるように見えましたが、コロナ禍の影響で伸長率が2020年は12.5%、2021年は12.9%となり(※)、再び活性化しています

※参考:経済産業省令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2020年7月発表)、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2021年7月発表)

フリマアプリの画面操作性が向上したことで、スマートフォンを使用して誰でも簡単に出品できるようになりました。また、テレビコマーシャルなどを通じて多くの人々に認知されたことで、フリマアプリサービスは一気に普及しました。

参考:ニッセイ基礎研究所コロナ禍で増えるフリマアプリの利用-牽引役は学生など若者と子育て世帯、シニアでもじわり増加」(2021年9月24日掲載)

その一方で、フリマアプリサービスの新たな市場では法整備が追いついておらず、現金や入金済みICカードが出品されるなどの不当な行為が社会問題化しています。

2020年の春には、全国的に不足していたマスクやアルコール消毒製品の高額転売が問題となり、政府が一部商品の転売を規制するという事態が起きました(政府によるマスク及びアルコール消毒製品の転売規制は2020年8月に解除されています)。

問題行為が多発して法規制が厳しくなりすぎると、市場全体が停滞しかねないため、サービス各社には誠実で確固とした対応が、利用者個人にはリテラシーの向上がそれぞれ求められます。

スマートフォン経由の物販系分野のBtoC-EC市場規模

◆スマートフォン経由の物販のBtoC-EC 市場規模の直近7 年間の推移[図表 4-15]

ひと昔前までは、パソコンと比べスマートフォンでは文字を入力しづらかったり、場所によって通信が不安定になったりする点が、スマートフォンを利用したEC購入の障壁となっていました。

しかし、現在は通信環境が整備され、大画面サイズの端末もそろっており、さらにスマートフォンが普及したことで〝操作慣れ〟も進んだことで、スマートフォン経由の物販系分野のBtoC-EC市場規模は拡大しています。

消費者の日常にスマートフォンが浸透したことで、電子マネーやクレジットカードによる決済への抵抗感よりも利便性を求めるニーズのほうが高まっている点も、スマートフォン経由の市場規模拡大を後押ししています。

スマートフォン経由の物販系分野のBtoC-EC市場規模は、2021年に全体の5割以上を占めています。今後、スマートフォン経由の消費行動が減ることは考えづらいですが、高額商品の物販購入や入力項目の多い旅行サービスなどはパソコン経由で購入したいというニーズも一定数あるため、市場規模は現在の5割前後で安定するのではないかと筆者は考えています。

EC市場規模拡大がもたらした〝物流〟における課題

コロナ禍の在宅勤務や巣ごもり需要によりオンラインサービスの利用機会が増えたことでネットショッピングの利用が急増しましたが、令和2年までの宅配便取扱個数の推移(下図)を見ると、コロナ禍の前から宅配便取扱個数が増加し続けていることが分かります。

◆年度別宅配便取扱個数の推移(単位:億個)[図表 4-8]

ネットショッピングの普及とともに宅配便取扱個数が増加したことで、宅配事業者の人手不足や過重労働が社会問題化し、受取人不在による再配達コストなども注目されるようになりました。

そのような状況の中、2020年以降は再配達率がわずかながら改善しつつあります。

◆宅配便の再配達率の推移(2017年より国土交通省が実施しているサンプル調査)

・2019年10月調査時点:都市部16.6% 都市部近郊14.3% 地方11.5%
・2020年10月調査時点:都市部11.7% 都市部近郊11.2% 地方11.0%
・2021年10月調査時点:都市部13.0% 都市部近郊11.3% 地方10.4%

2020年、2021年ともに2019年と比べると、都市部、都市近郊、地方ともに減少していることが分かります。

2021年の報告書では、再配達率が減少傾向を示している要因として以下が挙げられています。

◆2020年以降の再配達率の減少に影響したと見られる要因

✓コロナ禍のステイホームによる消費者の在宅率向上
✓店舗受け取りや宅配ロッカーの利用などの「クリック・アンド・コレクト」の浸透
✓置き配の一般化

再配達による負荷の削減については改善傾向が見られるものの、配送ドライバーの人手不足や高齢化など物流の問題は残されており、今後のEC市場規模拡大におけるボトルネックとなる可能性があります。

参考:LogisticsToday幹線輸送ドライバー不足の深刻化不可避」(2021年7月20日掲載)

インターネット取引ではクレジットカード決済が主流

◆インターネットで購入する際の決済方法(複数回答)

引用:総務省令和2年版情報通信白書|第2部第2節1-(2)インターネットの利用状況(図表5-2-1-10)」(2022年8月発表)

少し古い情報ですが、2019年に最も利用された決済方法は「クレジットカード払い」で利用率は前年の2018年を上回る79.7%でした。

2位以下に続く「コンビニエンスストアでの支払い」「代金引換」は前年の利用率を下回っています。これは、上記の項目にない「ID決済」(Amazon Payや楽天ペイなど)への移行が進んだためではないかと、筆者は推測しています。

2018年は実店舗でもPayPayがキャッシュバックキャンペーンを展開し、QRコード決済を促進していました。QRコード決済はオンラインでもID決済として利用できるため、実店舗向けのキャンペーンの影響がインターネット取引にも波及したものと思われます。

参考:ネットショップ担当者フォーラムPayPay』がオンライン決済対応、ヤフーの『Yahoo!ショッピング』『LOHACO』などに順次導入へ」(2018年12月4日掲載)

フリマアプリサービスのメルカリでは「メルペイ」というQRコード決済サービスを提供しており、ユーザーはメルカリで獲得したポイントを使って、メルペイ決済に対応しているECサイトで買い物することもできます

クレジットカード決済の不正利用

◆クレジットカード不正利用被害の発生状況[図表 4-12]

以前からクレジットカード利用者の個人情報の漏えいは社会問題化していましたが、クレジットカード決済の利用率が高まるにつれ、個人情報の漏えいリスクはますます高まっています。

経済産業省の指導のもとでクレジット取引セキュリティ対策協議会が取りまとめた「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画」(現行の「クレジットカード・セキュリティガイドライン」の前身文書)により、EC事業者に対しては2018年3月までに、原則として「クレジットカード情報の非保持化」を推進し、保持する場合は「PCI DSS準拠」に対応するよう求められました。

関連記事:ECサイト事業者行うべきセキュリティ対策を徹底解説!PCIDSSへの準拠が必要な理由とは?

2018年6月に施行された改正割賦販売法では、ECでの不正使用対策とカード情報漏えい対策が義務化されています。ECシステムのクレジットカード決済システムの変更が必要となり、EC事業者の責任ある対応が求められています

広告費のメインが「テレビ」から「インターネット」に移行

◆広告費全体に占めるインターネット広告費の比率(単位:億円)[図表 3-10]

近年、テレビ広告費が緩やかに減り続ける一方で、インターネット広告費は飛躍的に増加しています。そして2019年には、インターネット広告費がテレビ広告費を初めて上回りました

参考:朝日新聞デジタルネット広告費、初めてテレビ抜く 2019年2兆円超え」(2020年3月11日掲載)

インターネット広告費が増えることでインターネット通販の市場規模が拡大し、EC化率の伸長にもつながります

上のグラフでは、コロナ禍の影響で2020年の広告費総額は落ち込んでいますが、そのような中で、インターネット広告費は増加していることが分かります。

インターネット広告では「何人のユーザーが広告を見て、その内の何人が購入したか」という具体的な効果を測定できます。効果が分かりづらいオフライン広告よりも、費用対効果が明確に示されるインターネット広告のほうが事業者にとっても有益です。これからの広告はインターネット広告を中心に構成されていくだろうと筆者は予想しています。

国内BtoB市場のEC化率は35.6%

◆BtoB-EC 市場規模の推移[図表 6-3]

2020年は新型コロナウイルス感染症の流行拡大の影響を受けて国内のBtoB-EC市場規模も縮小しました。しかし、EC化率を見ると2020年には33.5%、2021年には35.6%と伸び続けていることから、EC化が進みインターネット取引が増えたのではないかと推測できます。また近年多くの企業がDXの取り組みを推進していることも、EC化率向上を後押ししていると考えられます。

2021年の市場規模は約372兆円と非常に大きく、業種別の内訳を見てもEC化率は上昇しています(業種別の内訳は後ほど詳しく解説します)。その背景には、ECシステムを提供する企業の多様化や、BtoBに特化したASPサービスの登場などにより、EC事業者がECサイトをより効率的に運用できるようになったこともあるでしょう。

ただし、報告書が示すEC化率(2021年は35.6%)には、EDI(※)等の受発注システムとECシステムの両方が含まれるため、BtoB-ECだけのEC化率よりも高い数値となっている点に注意しましょう。

※EDI(Electronic Data Interchange)は、企業間商取引に関する帳票や文書(注文、請求、決済など)を電子データで交換するための仕組みです。

EDI等の受発注システムにはさまざまな制約があり、時流に合わせたマーケティング施策を実行することが難しいなどの理由から、EDI専用システムを廃止してECシステムやWebシステムでEDI機能を代替・実装する方法を検討している企業も少なくありません。また、2024年にはNTT東日本およびNTT西日本のISDN(INS)回線サービスの「INSネット」の廃止が決まっており、国内の多くのEDIで使われているINSネットからのネットワーク移行のタイミングに合わせて、システム改修やリプレイスを検討する企業が増えると思われます。

EDIについては関連記事で詳しく解説しています。

関連記事:7つのポイントでEDIをやさしく解説!EDIの必要性と課題

BtoB-ECサイトの構築・リニューアルの際は、EDIのEC移行に必要なカスタマイズも可能なクラウドコマースプラットフォーム「ebisumart」もぜひご検討ください。

BtoB向けECサイト 構築・導入(ebisumart)

続いて、国内BtoB-EC市場規模の業種別の内訳を見ていきましょう。

◆BtoB-EC 市場規模の業種別内訳[図表 6-4]

「製造」部門では、EC市場規模が2020年に縮小しています。要因としては、コロナ禍に加え、米中貿易摩擦の影響で出荷量が減ったことも挙げられるでしょう。2021年にEC化率が伸長した背景としては、世界的に景気が回復する中で、設備投資に対する企業の意欲が高まっていることで企業間取引が増加しているのではないかと推察されています。

参考:三井住友銀行グローバル経済と主要産業の動向(2022年度上期)」(2022年8月発表)

「建設」部門では、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会による好景気が続いており、2019年、2020年ともにEC化率が上昇しましたが、2021年は落ち着きを取り戻したという印象です。

「情報通信」部門では、コロナ禍の影響による開発遅延等はあったものの、リモートワーク環境構築やDX関連の需要が増加しています。しかし、多くの現場ではスキルを備えたエンジニアが不足しており、需要に対して供給が追い付かない状況が続いています。

「卸売」部門では、2020年に市場規模が大幅に縮小しています。コロナ禍の影響だけではなく、卸売業者などの中間業者を介さずに直接消費者に販売するビジネスモデルであるDtoCに注力する企業が増えていることも背景としてあるのではないかと筆者は考えています。2020年と比べコロナ禍の影響がやや弱まった分、2021年の市場規模が回復している印象です。

最後に

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる強い影響を受けた2020年に続き、2021年もまた企業にとっては苦しい一年となりました。しかし、EC業界にとっては歴史的な年となるかもしれません。コロナ禍をきっかけに多くの人々がオンラインサービスを体験することになりました。国内BtoC市場のEC化率は年々増加傾向にあり、さらなる成長が期待できます。

これまで以上にリアルとデジタルの両立が求められている企業にとって、消費者の期待に応えるサービスをいかに提供していくかが重要になります。

さまざまな分野のEC化率を高めることは、少子高齢化が進む日本社会の効率化と活性化にもつながります。政府、企業、消費者それぞれが、デジタル化に対してポジティブに取り組むことが大切だと筆者は考えています。

この記事を読んだ方にもできることはあります。それはECで買い物をした際は、なるべく再配達が必要のない届け先や時間帯を選択することで配送の負荷を減らすことです。こういった社会的課題は一人一人が取り組んでいくべきでしょう。

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井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。