経済産業省が2020年7月に2019年の日本のEC市場、インターネット・スマートフォンの利用動向などに関する市場調査を発表しました。本日は、経済産業省の調査結果をもとに、EC化率について記事にしました。
当記事においてデータや図は指定がない場合、経済産業省の最新の調査結果より引用:「令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(経済産業省)
まず、EC化率とは何でしょうか?
経済産業省のデータから2019年のBtoC物販系分野の食品産業(食品・飲料・酒類)を例に説明します。
食品産業のネットとリアル(実店舗)を含めた全商取引は、63兆899億円。そのうちECサイトなどの電子取引されているものが、1兆8,233億円です。ですから食品産業のEC化率は2.89%と言えます。
■食品産業を例にとったEC化率
1兆8,233億円(EC取引総額) / 63兆899億円(全商取引総額)= 2.89%(EC化率)
さらに、全産業(物販系)におけるEC化率は6.76%であることから、食品産業のEC化率は、物販系の他業界に比べると進んでいないことが分かります。
EC化率から分かるのは、その産業で、どれくらいECサイトが使われているかという指標です。これから起業する人や新規事業の担当者は、EC化率を念頭に置いてビジネスプランを立てることで、将来性や競争環境の概要を把握する事ができるのです。
EC化率が高ければ、オンラインを基軸とした戦略になりますし、一方でEC化率が低ければ競合他社の参入が少なく、チャンスかもしれません(業界によってはEC化のハードルが高く、参入が困難な場合もあります)。
本日は、このEC化率について、最新の経済産業省のデータをもとにインターファクトリーでWEBマーケティングを担当している筆者が解説してまいります。
BtoBのEC化率は記事最下部で紹介しております。すぐに見たい方はこちらをクリックして、ページ下に移動してください。
日本国内のBtoCのEC化率は6.76%
◆BtoCのEC市場規模とEC化率の推移(単位:億円)

経済産業省の調査結果にある海外のEC化率と比べると、アメリカのEC化率は約10%、中国では約35%を超えており、日本でのECの普及は遅れているのが現状ですが、全産業においてEC市場は伸び続けています。
2019年度のBtoC市場における日本国内のEC市場規模は19兆3,609億円、EC化率は6.76%で市場規模が対前年比7.65%増になりました。
2017年~2019年と3年連続して伸び率は10%を超えていませんが、消費税増税の影響により2019年度における日本の実質GDP成長率がわずか0.9%だったにも関わらず、ECの市場規模は前年より約1.4兆円も伸びていることから、EC市場は堅調に伸びている印象を受けます。
そして、2020年度は新型コロナウイルスの流行により、巣ごもり消費や、店員との接触を避けた買い物の需要が急激に増えたため、EC化率が急激に高まることは間違いありません。
今後のEC市場について、筆者が以下の4つのポイントにまとめてみました。
今後のEC市場のポイント①コロナ禍によりユーザー・事業者ともにオンライン化の需要が急激に加速する
コロナ禍の時代には、人々の移動に制限があるため、あらゆる産業において、オンラインの需要が急激に高まりました。その影響で今まではオンライン化を検討していなかった小規模事業者を含む中小企業においてもECやオンライン決済に対する動きが急加速しました。
◆オンライン化の動きの例
・飲食店の宅配サービス
・小売のネット通販
・ヨガやジムのオンラインスタジオ化
・大手英会話スクールもオンラインに進出
・行政サービスのオンライン化の促進
今後は実店舗に依存した収益構造を見直す動きが、企業の規模や産業に関わらず加速していくのは間違いありません。たとえ今後ワクチンが開発され、コロナがある程度落ち着いたとしても、利便性を体感した一定数のユーザーはオンラインでの利用を続けるでしょう。
このように、あらゆる産業でオフラインからオンライン利用へのパラダイムシフトが起こっており、2020年はEC業界にとって歴史的転換期となるでしょう。
今後のEC市場のポイント②市場が大きい「食品・医薬品業界」においてもEC化が進む
2019年まではEC化が進んでいる産業とそうではない産業に二極化していました。
家電や書籍などの業界はEC化が進んでいるのに対して、市場規模の大きい食品業界や医薬品業界などはITの導入が遅れてEC化があまり進んでおらず、市場が活性化できていないことが原因でした。日本全体のEC化率がたった6.76%というのは、市場規模が大きい「食品・医薬品業界」の出遅れによるものだったのです。
しかし、コロナ禍によりこういった産業も、ネット通販を意識せざるを得ません。食品業界では、生鮮食品において鮮度を保つための物流拠点の問題があるのですが、まずは日持ちのする食品や、対象地域を限定したEC化が先行していくでしょう。
また、医薬品業界においては
・法律(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)によるオンライン販売制限
・薬剤師への相談ニーズ
・ドラッグストアの利便性の高さ
の3つがEC化を阻んでおりましたが、オンライン薬局のサービスなどが誕生し、成長を続けているので、EC化が徐々に進んでいくでしょう。
経済産業省のレポートでは「化粧品業界」が「医薬品業界」の中に含まれています。化粧品業界は今まで店舗での売上がほとんどでしたが、コロナの影響で売上が激減しました。今後は化粧品業界においてもEC化が進みます。つまり市場規模が大きい「食品・医薬品業界」においてEC化が進むことで、日本全体のEC化率に大きな影響を及ぼすことになるのです。
今後のEC市場のポイント③デジタルトランスフォーメーション(DX)が実行できていない企業が淘汰される
ほとんどの産業でEC化が必要であることは、多くの経営者が理解していることでしょう。しかし、大手小売店事業者の場合は、自社の顧客基盤やビッグデータを生かしながら、EC化のためにレガシーシステム刷新とDXを実行しなくてはなりません。しかし、DXはカンタンではありません。
◆DXが難しい理由
・システムを熟知した社内エンジニアの不在
・自社システムの外注ベンダーへの依存
・ITエンジニアの不足
・経営層のIT知識やビジョンの欠如
DXの実行は短期間で行えるものではなく、数年単位の長期プロジェクトになり、膨大な開発費用もかかります。しかしDXを実行できなければ、オンラインとオフラインの垣根をなくしたオムニチャネル施策や、ビッグデータの利活用ができなくなるため、競争力が低下することになります。
今後のEC市場のポイント④5Gの普及
携帯電話の通信システムにおいて「5G」が普及することで、VR/ARを使った新しいサービスやビジネスモデルが普及し、ECの利用がさらに進むと筆者は予想します。
日本国内においてスマートフォンの普及率は横ばいですが、5Gがもたらす「高速・大容量化」「多数端末同時接続」「省電力・省コスト化」の影響で、新しいサービスやIOTが普及することにより、多くの産業においてデジタルシフトが加速します。
それに伴い、ECを結び付けたサービスも多く生まれると考えられます。日本での5Gの本格的普及は2020年以降と予想されていますが、各産業、各企業において5Gを念頭に置いたサービスの開発が進んでおります。
日本国内の3つのBtoC分野別EC市場規模
分野別のEC市場規模は下記にある表の通りとなります。
◆分野別のEC市場規模及びEC化率の表

EC市場規模の内訳は、
物販系分野が10兆515億円、伸び率8.09%
サービス系分野が7兆1,672億円、伸び率7.82%
デジタル系分野が2兆1,422億円、伸び率5.11%
総計としては、伸び率が7.65%と、昨年の8.96%を下回る結果になりました。物販系分野は昨年の8.12%からほぼ横ばいの8.09%、そしてデジタル系分野は昨年の4.64%よりも若干伸び率が上がったのに対して、サービス系分野の伸び率が11.59%から7.82%と伸び率が急激に鈍化しています。これはサービス系の中でも「飲食サービス」の成長率が芳しくなかったことが要因と考えられます。
デジタル系分野においては、NetflixやHuluなどの有料動画配信サービスの普及が進んでおりますが、デジタル系分野において、最も大きい市場である「電子出版」の伸び率が2018年度の7.57%から2019年度には20.58%に大きく伸びています。
それではEC化率が公開されている「A.物販系分野」「B.サービス系分野」「C.デジタル系分野」を順に解説いたします。
A.物販系分野のEC市場規模
A-1:EC市場において最も伸び率が高かった分野とは?(物販系分野)

出典:「平成 30 年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査) 報告書」(経済産業省)より筆者作成
1位:「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」 10.76%
2位:「生活雑貨、家具、インテリア」 8.36%
3位:「書籍、映像・音楽ソフト」 7.83%
EC市場規模の伸び率で言うと、物販系分野は対前年度8.09%となり、伸び率が横ばいとなったカテゴリーです。
EC市場規模の伸び率が高い分野は「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」「生活雑貨、家具、インテリア」「書籍、映像・音楽ソフト」です。
1位と2位のEC市場規模が伸びた理由は消費税増税とともに行った「キャッシュレス・ポイント還元事業」でAmazonや楽天市場に出店している一部店舗も対象だったことから、ポイント還元額が高くなる高単価の商品が多くある、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器」「生活雑貨、家具、インテリア」の売上が増加したのが原因です。
また「生活雑貨、家具、インテリア」はキャッシュレス・ポイント還元事業の影響もありますが、ITリテラシーが高く、良いデザインを求めるユーザー層が、実店舗での購入から家具・インテリアの通販に流れていると推察します。ネットで〝質が高くて妥当な価格〟の商品が手に入るようになったことが、EC市場規模の伸び率につながったのです。
3位の「書籍、映像・音楽ソフト」(※デジタルコンテンツを含まず)ですが、書籍などは一般ユーザーが日常でよく買い求めるものであり、これもキャッシュレス・ポイント還元事業によって、書籍等を求めるユーザーが、通常よりも増えたことが要因だと思われます。
A-2:EC化率が高い分野とは?(物販系分野)

出典:「平成 30 年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査) 報告書」(経済産業省)より筆者作成
1位:「事務用品、文房具」 41.75%
2位:「書籍、映像・音楽ソフト」 34.18%
3位:「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」 32.75%
1位の「事務用品、文房具」のEC化率が高いのは、アスクルに代表されるようなサービスのインターネット販売が、一般的に普及してきたからでしょう。2位の「書籍、映像・音楽ソフト」もインターネットでの購入が一般的となり普及してきております。
3位の「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」はヨドバシ.comやビックカメラ.comをはじめとし、生活家電ECサイトの売上が伸びています。その背景には、そもそも家電系はECに向いている分野であることが言えます。
つまりEC化率の高い1~3位は、型番等や製品名の指名買いができる点と、どこで買っても品質が変わらないのであれば、店舗で商品を確かめて、1円でも安い商品をWebで探すという消費者傾向がある点から、上位となっています。
本来、こういったショールーミングを嫌う家電大手でしたが、ヨドバシカメラは、それを逆手にとり、店舗の製品横にバーコードを設置し、顧客が価格.comやAmazonで購入する前に、ヨドバシ.comで購入させる戦略をとり、大成功した経緯があります。
また、2019年10月の消費増税により、家電製品などの高価格商品には増税前の駆け込み需要が増え、EC化率がさらに伸びました。そして日本の広告費においてインターネット広告がテレビメディア広告を超えたこともEC化率の伸び率に大きく影響しております。
逆に市場は大きいのですが、EC化率が最も低いのは「食品、飲料、酒類」です。家電とは正反対で、食品の分野は実際に目で見て鮮度を確かめるニーズが強い分野のため、EC化率は低いのが特徴です。
しかし、2017年にはAmazonが「Amazonフレッシュ」をスタートし、生鮮品を最短4時間でユーザーに届けるサービスをはじめました。こういったサービスの普及が、この分野のEC化率の上昇につながります。またこの分野のサービス拡大には物流センターの整備が欠かせず、Amazonや楽天などの大手が着々とこの業界でシェアをとるために拠点整備に乗り出しております。
そして、一昨年よりもEC化率を下げている「自動車、自動二輪車、パーツ等」の分野ですが、これはECの市場規模が少なくなっているのではなく、リアルの車やパーツの輸出が伸びていることが要因として挙げられます。アメリカには「25年ルール」と呼ばれる規制があり、日本車のような右ハンドルの車においては製造年から25年経っていないと輸入できないルールがあります。
もともと、アメリカでは日本の中古車の需要が高く、例えば日産の古いGT-R(R32)がアメリカでは大人気で価格が高騰しているなど、日本からの中古車の輸出が増えております。それに伴い、車のパーツ関連の輸出も伸びており、ECよりもリアルの市場が伸びていることから、EC化率が下がっているのです。
さらに、自動車パーツなどは、部品に関するリテラシーがないと自分で取り付けるのも難しい分野であり、ネットで車両関係のパーツを買い求めるユーザーは相当少ないと考えられるため、この分野に関してはEC化率が2~3%程度が上限になるのではないかと筆者は推察しております。
そのため自動車パーツなどは、多くのユーザーにとってはECよりも、パーツを取り付けたり、アドバイスをしてくれる実店舗の方が利便性が高いことが特徴である分野と言えます。
A-3:ECの市場規模が大きい分野とは?(物販系分野)
◆物販系分野のBtoC-ECの市場規模

出典:「平成 30 年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査) 報告書」(経済産業省)より筆者作成
1位は「衣類・服装雑貨等」 1兆9,100億円
2位は「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」 1兆8,239億円
3位は「食品、飲料、酒類」 1兆8,233億円
EC市場規模では「衣類・服装雑貨等(アパレル)」が市場で1位です。この分野の特徴は靴やスーツ、パーティードレスなど、実際に着てサイズを確かめることが重要視されるため、実はECとは相性が悪いのですが、ユーザーが買いやすいサイト作りや、ロコンドのような原則返品無料で、自宅にいながら試着ができるという新しいサービスの導入により、EC化が進んだ市場になります。
さらに、2018年に話題となった「ZOZOSUIT(採寸ボディースーツ)」のような革新的サービスが今後も生まれてくると推察され、市場拡大が見込めます。
ZOZOTOWNの「ZOZOARIGATOメンバーシップ」による割引が、ZOZOに出店する一部の企業から「ブランドイメージの毀損」が懸念されるとの指摘があり、ZOZOTOWNを撤退する企業が相次ぎました。2018年末にZOZOTOWNの成長鈍化などがニュースで取り上げられましたが、その後ヤフーを傘下に持つZホールディングス株式会社がZOZOTOWNを買収したことと、コロナ禍においてアパレル企業のZOZOTOWN回帰の動きが活発化したことから、今後もアパレル業界で確固たる地位を確立し続けることが予想されます。
3位の「食品、飲料、酒類」については、従来生鮮食品を扱う分野のEC化が進んでいませんでしたが、ネットスーパー業界に動きが出はじめ、「Amazonフレッシュ」や「楽天西友ネットスーパー」が物流拠点の整備を進めています。
現在は首都圏が中心のサービスですが、拠点整備を行い、全国に配送可能になれば、EC化率が大幅に伸びることが期待されます。また、2019年度においてもお取り寄せグルメやUber Eatsが普及してきました。2020年度以降も、コロナ禍の中、EC化率が急激に伸びると予想される分野の一つです。
B.サービス系分野のEC市場規模
サービス系分野とは、旅行・宿泊、あるいは飲食などのサービス分野です。
◆サービス系分野のBtoC-ECの市場規模

旅行サービスにおけるEC化の歴史は早く、1990年代後半にはスタートしていました。国内外関わらず、インターネット上でいつでも手軽に航空券や宿の予約ができることや、チケットレスサービスの「eチケット」などは消費者にとっては便利なシステムです。
また、「エクスペディア」や「じゃらんnet」といったインターネット専業の旅行代理店(通称OTA)の台頭もBtoC-ECの活用度の高さの一因とも言えます。しかし、実店舗の需要もあり、ユーザー動向は二極化している状況です。
2019年の最新の動向を解説すると、大きく伸びているのは、昨年に続き「理美容サービス」で、美容院やマッサージ店は、予約時に決済する方法が市場を伸ばしています。
今までもこういった予約サービスはありましたが、より一般的に広まってきたことが市場規模の伸び率から分かります。「理美容サービス」は1店舗の規模が小さく、店舗が多い業態においてサービスのクオリティーが上がってきたことが市場規模の伸びにつながっているのです。元々マーケットニーズがある分野において、品質が追い付いてきたところが大きいでしょう。
「飲食サービス」においても数年前より明らかにネットで事前予約する機会が増えている印象があり、大手の「食べログ」や「一休.com」といった予約サービスにおいて、登録するレストランが充実し、カンタンに予約ができるようになりました。しかし、2019年度においては普及がある程度広まったためか、伸び率は理美容サービスほど伸びませんでした。
「チケット販売」は、チケットの二次流通(転売)を防ぐため本人確認を必要とするケースが増えました。電子チケットをスマートフォンに登録することで、他人への譲渡ができなくなることからスマートフォンとチケット販売は相性が良いと言えます。このため今後チケット販売のEC化が進んでいくことが予想されます。
「金融サービス」は二年連続で、EC市場規模が減少傾向です。これはビットコインなどの仮想通貨取引が下火になったからではないでしょうか? もともと金融サービスは電子商取引が普及しており、サービス拡充の要素よりも、マーケットにEC市場が左右される分野と言えます。
ただし、2020年にはコロナ禍の大不況により投資を始める人が急激に伸び、またビットコインの価格も高騰しつつあるので、再びEC市場規模が高まることが予想されます。
C.デジタル系分野のEC市場規模
デジタル系分野とは、電子出版、有料音楽・動画配信、あるいはオンラインゲームなどの分野です。
◆デジタル系分野のBtoC-ECの市場規模

デジタル系分野全体で見ると「電子出版」が20.58%、「有料動画配信」が62.76%とこの2つの分野が大きく伸びています。
これはスマートフォンにおける「趣味」や「空き時間の娯楽」時に、電子書籍やオンラインゲームを利用していたユーザーが動画配信サービスに流れた影響と考えます。
動画配信サービスに関しては、今までは携帯電話キャリアとの契約で「容量制限」のある契約形態がほとんどでした。しかしソフトバンクからデータ容量が50GBのメリハリプランという大容量料金サービスが生まれたり、格安SIMのキャリアにおいても特定サービスの動画視聴分は使用した容量としてカウントしない契約形態が生まれたりしたことで、通勤時にも容量を気にせず視聴できる環境ができたためだと筆者は考えます。
また、動画配信サービスにおいては、例えばAmazonプライムやNetflix限定のような、会員限定の魅力的な独自コンテンツが増えており、その分テレビの視聴者数も減っていることが予想されます。
オンラインゲームですが、2019年度のオンラインゲームの伸び率がマイナス4%でした。日本国内において大ヒットした課金ゲームがなく、マーケットの状況にEC市場が左右された結果、EC市場もマイナスになりました。2020年においては、コロナ禍で自宅での娯楽需要が高まり、大きくプラスに転じると筆者は予想します。
今後のEC業界は「大手による寡占が進み、通信販売業者の淘汰が進む」
まずは、下記の帝国データバンクの調査データをご覧ください。

出典:「通信販売業者の倒産動向調査 (2018 年度)」(株式会社帝国データバンク)
参考記事:通販・ECは競争激化で倒産件数が過去最多、「大手の寡占で業者の淘汰が進んでいる」(ネットショップ担当者フォーラム)
コロナ禍の前のデータではありますが、2018年度の通信販売業者の倒産件数は2009年以降最多の30件となりました。EC市場は緩やかに確実に右肩上がりで成長している産業である一方、Amazonや楽天市場、ZOZOTOWNなどの大手ECモールが成長を続けている裏で中小のECサイトは苦戦を強いられています。
ブランド力のない通信販売業者では、品ぞろえやサポート体制に限界があり、物流コスト増の影響を強く受けます。さらに自社商品の露出拡大のためにECモールへ出店すると、余計に価格競争にさらされるため、ブランド力がないと利益を伸ばしづらい傾向にあります。
昨今、メーカーがECサイトを構築し、仲介業者や販売店を介さずにECサイトで直接販売するDtoC(ダイレクト トゥ コンシューマー)を実施する事業者が増えておりますが、ECサイト運営において最も難易度が高いのは集客であり、また、集客を担当するマーケティング担当者はEC業界において常に不足しているため、DtoCを成功させるのは容易ではありません。
また、昔から通販事業を行っている大手事業者の中には、レガシーシステムを刷新することができず、経済産業省が進めるDX(デジタルトランスフォーメーション)に乗ることができない企業もあり、経営が厳しくなることが予想されます。そうなると、ますますAmazonや楽天市場、ZOZOTOWNなどの大手ECモールによる寡占化が進む可能性が高くなります。
さて、話は変わりますが、今回の経済産業省のEC市場調査レポートには、新たな項目についてデータや見解が掲載されておりましたので、ECに関係の深い調査結果を解説いたします。
日本のフリマアプリ、ネットオークション(CtoC)の市場規模
◆フリマアプリとネットオークションの推定市場規模

「メルカリ」に代表されるCtoC市場が急速に拡大しておりましたが、伸び率が10%を切ったことからも安定期に入ってきた印象です。
ネットオークションはニーズが強い市場にも関わらず、少し前まではリテラシーの高いユーザーにしか利用されていませんでした。なぜなら、ユーザー同士のやり取りや商品をネットへ掲載する手間が、ネット初心者にとってはハードルが高いものだったからです。
しかし、ユーザーインターフェースが改善され、スマートフォンがあれば誰でもカンタンに出品できることと、テレビコマーシャルなどの宣伝によりユーザーが大きく増えました。このようにネット初心者まで使い始めるようになると、サービスは一気に普及するものです。
この影響で、「ブックオフ」などのリユース大手が大きな打撃を受けています。なぜなら急拡大しているフリマアプリの影響により、商品の仕入れに影響が出ているからです。ブックオフでは本が不足しているため、2020年8月に「皆さま、本を売ってください!」といったユニークなCMを打ち出したほどです。
しかし、フリマアプリ市場にも大きな課題があります。新しい市場のため、法規制が整っておらず「現金」や「入金済みSuica」が出品される行為が問題になっています。記憶に新しいところでは2020年春に新型コロナウイルスの影響で全国的に数が不足したマスクが、メルカリで業者によって転売されることがありました。これは非常に問題になり、その後マスクの転売は禁止になりました※。
※マスクの転売規制は2020年8月29日に解除されました。
これらの問題が社会問題化し、フリマアプリ市場に法規制がかかれば、市場の成長にも影響しますので、そうならないためにも各社の対応が求められます。
スマートフォン経由での物販の市場規模と普及について
◆スマートフォン経由の市場規模の直近5年間

・2019年の物販のBtoC-EC市場規模 10兆515億円
・上記のうち、スマートフォン経由 4兆2,618億円
・スマートフォン比率 42.4%
かつて、スマートフォンはパソコンに比べて文字入力がしづらい、通信環境が一定ではないなどのデメリットがあったため、ユーザーにとってスマートフォンでの物販には高いハードルがありました。
しかし、スマートフォンや通信環境の進化、5インチ以上の入力しやすい大画面スマホが普及した影響でスマートフォンでの商品購入への〝慣れ〟が進み、スマートフォン経由の物販市場規模の拡大につながりました。
また、2000年以降の携帯電話の普及によりクレジットカード決済が広く普及し、スマートフォンにクレジットカード番号を入力することに抵抗が少なくなったことも、スマートフォン経由での市場規模が拡大した大きな要因です。
その結果、スマートフォンを経由してのEC市場規模が全体の約4割を超えており、今後もスマートフォン経由の物販は広く普及していくはずです。筆者の予想だとこの数字は5割程度が上限値だと考えます。
なぜなら、高額商品の購入や多数のホテル・プランからの旅行の申し込みにおいては、画面とキーボードが大きいパソコンでしっかりと申し込みをしたいというニーズがありますし、職場のパソコンやノートパソコン所有ユーザーからのネット購入の割合は一定数をキープし続けるからです。
◆インターネット利用端末の種類

特定のターゲットや業界別の傾向だけではなく、あらゆる分野において、スマートフォンが基準となりつつあります。
インターネット利用端末として、スマートフォンが過去8年で急上昇しており、2015年にはついに過半数を超え、2019年には63.3%※となりました。このデータからユーザーがインターネットを使う端末はPCからスマートフォンが基準となりつつあることがわかります。
特に10代後半から20代までがターゲットのサイトでは、9割以上のユーザーがスマートフォンからの購入というケースもあり、ガラケー(携帯電話)時代同様、若年層や女性ユーザーのほうがモバイル端末からの購入の親和性が高いという傾向が見られます。
業界別の傾向では、アパレルや化粧品・医薬品業界のように女性ユーザーがメインターゲットになる業界ほど、スマートフォンの利用率が高い傾向があります。
また、Googleが2016年にMFI(モバイル・ファースト・インデックス)を発表しました。今までは、検索順位の基準はPCサイトだったのが、今後は検索結果の基準がスマートフォンになります。この影響でPCの利用者が圧倒的に多いBtoB事業においてもスマートフォン対応が求められており、業界に関わらずスマートフォン対応されたサイトの普及が加速することになるでしょう。
若年層のPC離れもあり、今後はどの分野においても、スマートフォンがインターネット端末の基準になることは確実です。さらに2017年には「タブレット型端末」が統計上はじめて減少に転じているのは、スマートフォンでも5インチを超える大画面端末が一般的になり画面が見やすくなった結果、タブレット端末を買う人が減っているためと考えられます。
※筆者の所感ですが2018年と2019年のデータを比べると、2019年のスマートフォン端末の利用率が上がり過ぎている印象を受けます。すでにここ3~5年くらいでスマートフォンは日本のあらゆる地域と世代に広がりきっており、さらに2019年に急激にスマートフォンが広がったという要因を筆者は知りません。また、2019年はスマートフォンだけでなく、PCやガラケー、タブレットなど全ての利用率も上がっており、スマートフォンが増えるならガラケーは減らないとおかしいと思います。このような理由から2019年のデータに疑問があります。
課題の多い〝物流〟について
新型コロナウイルスの流行によって在宅勤務が増え、実店舗よりもオンラインニーズが高まるなどして、ネットショッピング需要が急増しております。下記の図は平成30年の宅配便取扱個数の推移ですが、急激に宅配便ニーズが高まっていることがわかります。
◆宅配便取扱個数の推移(単位:百万個)
ネット購入の普及により、宅配荷物の増加と、宅配業者の人手不足や残業が社会問題になっております。
もはや物流業界だけの問題ではなく、ECに関わる業界全体の問題として取り組まなくてはなりません。例えば、再配達を減らせる仕組みをECサイト側で対策するなどの抜本的対策が必要です。このままだと、この問題がボトルネックになり、ECのマーケットが発展しないことにもなりかねません。
政府も駅やコンビニなどに宅配ボックスを設置することに対して補助金を出すなど、対策を行っておりますが、設置個数や設置スペースに限界があり、それだけでは解決に結び付きません。今後は受取時間指定の細分化と、再配達時に料金徴収を行わないと配達業者もビジネスが成り立たなくなるでしょう。
また、Amazonも倉庫内のピッキングや梱包の効率化を追求した結果、均一の大きさの箱で包装されており、小さな荷物の場合は荷物に対して箱が大きすぎるという状態になっています。そのため物流全体、つまり宅配便の車のキャパシティーに無駄ができ、この問題を加速させている背景があります(あくまで小さな一例です、課題は各社、政府及びユーザーにも多く存在します)。
この例からもわかるとおり、業界を超えて、この問題への対策をする必要があります。日本は少子高齢化社会に突入しており、人手不足はあらゆる業界で加速します。ネットやITを駆使した効率化は日本の命題であり、その土台を支えるのが物流なのです。
一人一人がこの問題に関して積極的に改善へ向けて取り組まないといけません。この記事を読んでいるあなたも決して例外ではありません。可能であれば受取先を会社にする、コンビニや店舗受取を利用するなど積極的に進めていきましょう。
決済(クレジットカード決済以外の利用率が下がる)
◆インターネットで購入する際の決済方法(複数回答)

注.平成28年:n=1,933、平成29年:n=1,633
出典:「平成 29 年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査) 報告書」、「平成 30 年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査) 報告書」(経済産業省)より筆者作成
インターネットでの決済方法としては、「クレジットカード払い」が平成28年よりも利用率を高め66.1%になりましたが、2位以下の「コンビニエンスストアでの支払い」「代金引換」などはほぼすべて利用率を下げております。
筆者の仮説ですが、アンケート項目として設けられていないAmazon Payや楽天ペイ等の「ID決済」が普及しはじめたため、大きく利用率を下げているのではないかと予想します。
2018年は、PayPayのキャッシュバックキャンペーンにより、リアルのQRコード決済が大きく話題となりましたが、ネットの決済も無関係ではありません。なぜならQRコード決済は「ID決済」としてネットで決済することも各社可能になってくるからです。
参考記事:「PayPay」がオンライン決済対応、ヤフーの「Yahoo!ショッピング」「LOHACO」などに順次導入へ(ネットショップ担当者フォーラム)
また、メルカリも「メルペイ」を発表し、アパレルEC事業者は、自社ECサイトの決済画面に「メルペイ」を用意することで、ユーザーがメルカリで売った服のポイントを利用して、アパレルECサイトで新しい服を購入することができるなど、QRコード決済の普及はリアルだけでなく、ネット決済にも多大な影響を及ぼします。
クレジットカード決済の不正利用
◆クレジットカード不正利用被害の発生状況

EC業界における課題は、クレジットカードの個人情報漏えい事故が社会問題になっている点です。この問題を受けて、経済産業省は「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画」を指導しており、EC事業者は以下のどちらかの対応を2018年6月までに実行する必要がありました。
・クレジットカード情報の非保持化
・PCI DSS準拠
この動きを受けて、EC事業者はクレジットカード決済システムの入れ替えを検討していますが、間に合わない事業者も多く、責任ある対応を求められています。
日本の広告費のメインは「テレビ」から「ネット」に!
下記は電通が発表した「2019年 日本の広告費」の一部資料です。

出典:「2019年日本の広告費」(電通)2020年3月11日発表
日本国内のBtoBのEC化率は31.7%
◆BtoBのEC市場規模とEC化率の推移

BtoB-ECの市場は約353兆円と非常に大きなマーケットとなり、業種別に見てもEC化率は上昇しています。その背景の一つに、ECシステム各社の新規参入や、BtoBに特化したASPを展開する会社も出てきたこともありますが、経済産業省が出しているEC化率の31.7%という数値は、EDI※等の受発注システムとECが区別されていないため、実際のBtoBのEC化率数値よりもかなり高い数値になっています。
※EDIとは、Electronic Data Interchangeのことです。企業間の商取引において必ず発生する、帳票処理(注文、請求、決済など)を電子的に交換し自動化する仕組みであり、一般的に私たちがイメージするECサイトとは異なります。
EDI等の受発注システムでは様々な制約があり、時流に合わせたマーケティング施策を実行することが難しく、EDIからEC化を検討している企業が増えている傾向があります。また、2024年にINSネット(EDIが最も使用されているネットワーク網。カンタンに言えばISDNのことです)が廃止され、EDIのIP網への移行が進むとともに、EC化を検討する企業は増加すると予想されます。
EDIについては、過去の記事でまとめており、下記の記事をご覧ください。
このように堅調に伸びているBtoBのEC化率ですが、思ったよりも成長が遅い印象を受けます。その背景にはユーザー企業側のITリテラシーが低く、これまでのマニュアルで行う運用の業務整理をせずにいたことがあります。その結果、莫大なコストが発生するためEC化の実現が困難になっており、多くのBtoB企業が立ち遅れているのではないでしょうか?
では次に、BtoBの業種別内訳のデータを紹介します。
◆BtoB-EC市場規模の業種別内訳

製造業は比較的EC化率が高いです。なぜならもともと自分たちが作った〝モノ〟をお客様に売るというビジネスモデルは、ECのモデルそのものであり、最も伸びやすい分野だからです。
ただ、製造業の中でも繊維・日用品・化学と鉄・非鉄金属はEC化率が伸びていますが、市場規模が縮小しています。これらは消費税増税や、米中貿易摩擦の影響が出て出荷が減ったことが予想されます。
それに対して建設・不動産業、情報通信、サービスは〝モノ〟がないため、サービスをシステム化しづらい面があり、全体的に〝モノ〟がない分野のEC化が遅れている印象です。ECの市場規模が最も大きい卸売は中間業者のため、日本のEC化率が全体的に進めば市場規模は縮小に転ずることが予想されます。
卸売ですが、2019年にはEC化率が伸びているのに、市場規模がマイナスになっております。これは卸売を通さないビジネスモデルのDtoCを実践するメーカーが増えているためです。その影響で実店舗の売上が減っており、卸売は実店舗に卸すため、その分市場規模が下がっていると筆者は予想します。
最後に
現時点でBtoC取引の約93%は非ECのリアルで行われていますが、ECの取引が占める全体シェアは毎年上がっており、今後の成長も期待されています。事業者にとっては、これまで以上に店舗とECの両立が重要になってきており、いかにユーザーが購入しやすいサービスを提供していくのかという点が注目されています。
また、日本は少子高齢化社会に突入しており、ECの利用促進により社会全体の効率化を進める必要があります。ですからEC化率を高めるということは、決してEC業界関係者のみに影響することではありません。
EC化率を伸ばすには、特に物流の人手不足や効率化の問題を解決しなくてはならず、この問題にあっては、政府、EC業界、物流業界、ユーザーの全てが前向きに取り組むことが必要です。
この記事を読んだ方にもできることはあります。それはECで買い物をした際は、なるべく再配達が必要のない届け先や時間帯を選択することで配送の負荷を減らすことです。こういった社会的課題は一人一人が取り組んでいくべきでしょう。