【2023年版】EC化率をプロが徹底解説|BtoCからBtoB、CtoCまで


2023年8月に経済産業省によって、2022年の国内EC市場とインターネットおよびスマートフォンの利用動向などに関する報告書(電子商取引に関する市場調査報告書)が公開されました。

2023年8月発表の報告書によると、2019年末から続いている新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる影響で、それ以降EC化率が大きく伸長しておりましたが、2022年のEC化率の伸び率はやや鈍化傾向がみられました。

EC化率とは、すべての商取引においてEC(電子商取引)が占める割合を示す数値で、産業(または事業)全体のEC事業の動向を把握するための指標となります。

2022年のBtoC-EC物販系分野の食品産業(食品・飲料・酒類業界)のデータを使用して、もう少し詳しく見てみましょう。

■2022年のBtoC-EC食品産業(食品、飲料、酒類業界)のEC化率

2兆7,505億円(EC市場規模) ÷ 66兆1,180億円(全商取引の市場規模)=  4.16%(EC化率)

引用:「EC市場規模」「EC化率」は経済産業省令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2023年8月発表)より引用、「全商取引の市場規模」は筆者が算出

上記より、EC化率は「EC市場規模÷全商取引の市場規模」の式で求められます。

報告書によると、食品産業を含むBtoC物販系分野全体のEC化率は9.13%なので、EC化率が4.16%の食品産業は物販系分野の中でもEC化が進んでいない産業であることが分かります。

例えばEC事業者が新たな市場に参入する場合、産業全体のEC化率が高ければより練り上げたEC戦略が必要となり、低い場合には競合が少なく開拓者となるチャンスと捉えることもできます。ただし、ECが適していない産業という場合もあるので、事業計画を立てる際には、産業の特性とEC化の背景も考慮する必要があります。

この記事では、インターファクトリーでWebマーケティングを担当している筆者が、経済産業省の2023年8月発表の報告書を読み解きながらEC化率について解説します。

国内BtoB市場のEC化率は、記事の後半で解説しています。最初に読みたいという方はこちらをクリックして、ページ下に移動してください。

以降の当記事内で出典または引用を明記していない数値および図表等は、経済産業省の2023年8月発表の報告書より引用しています。

引用:経済産業省令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2023年8月発表)

国内BtoCのEC化率は9.13%(物販系)

◆物販系分野のBtoC-EC市場規模及びEC化率の経年推移[図表 1-2]

経済産業省の報告書によると、2022年の世界のBtoC市場のEC化率は推計19.3%で、同年の国内のEC化率は9.13%なので、日本はBtoC-ECの普及があまり進んでいない印象を受けますが、EC市場の規模ランキングで見ると、日本は世界で4位であり決してECの利用が特別遅れているというわけではありません。

◆2022年国別EC市場シェア(単位:%)[図表 7-5]

新型コロナウイルス感染症のパンデミックが宣言された2020年には国内BtoC-EC市場規模はかつてないほど伸長(前年比21.71%)しましたが、2021年の伸び率は8.61%と鈍化し、2022年の伸び率は前年比5.37%にとどまりました。

おそらく、パンデミックの影響が大きかった2020年のうちに企業は一気にEC化を進め、その波が一旦収束した2021年以降はEC化率が伸びなかったのだと筆者は考えます。

また、下図は、国内新型コロナウイルス感染症新規感染者数の推移と小売業の月別商業販売額を表したものです。

2021年末までは、新型コロナウイルスが流行すると、商業販売額がそれに伴って下がる現象が見受けられましたが、2022年末は新型コロナウイルスが流行しているにもかかわらず、商業販売額も高く推移しており、影響を受けておりません。このことからもアフターコロナに時代が移りつつあることが分かります。

◆国内新型コロナウイルス感染症新規感染者数の推移と小売業の月別商業販売額[図表 3-4]

下図は、新型コロナウイルス感染症の流行による日本のGDP全体に対する影響を示したグラフです。

◆実質GDP 成長率推移(前期比)[図表 3-2]

政府による緊急事態宣言が発令され、個人の外出自粛や事業者の休業・時短営業要請が出された結果、2020年4~6月期の国内の実質GDPは、リーマン・ショック後の落ち込みを超える戦後最大の下落となりました。その一方で、自宅でいつでも利用できるECの需要が高まったことで2020年のEC化率は大きく伸長しました。

2021年には、新型コロナワクチンの接種が進むとともに行動制限が緩和されたため経済活動が再開し、2022年は年間での実質GDPの成長率が1.0%増となりました。

このような背景から、2022年の国内BtoC市場のEC化率がさほど伸びなかった背景としては以下が考えられます。

◆2022年の国内BtoC市場のEC化率がさほど伸びなかった背景

・リアル(実店舗)の経済活動が2021年以降に再開したことに伴い、EC利用の伸びが鈍化した
・2020年に政府の事業支援・給付金制度を利用してEC化を進めた企業も多かったが、2021年は一旦収束し、それ以降ECを検討する企業が減った
・ロシア・ウクライナ情勢の悪化に伴うエネルギー価格の上昇に伴い、商品価格や配送料が値上がりし、ECでの消費に一定の影響を及ぼした

このように、EC化率の伸び率は2020年をピークにして、その後は勢いが落ち着いてきた印象です。しかし、コロナ禍をキッカケにあらゆる分野においてEC利用者が増えていることは間違いありません。それでは、次に各分野について解説します。

国内BtoC-ECの「物販系」「サービス系」「デジタル系」の3つの分野の市場規模の合計は22兆7,449億円

国内BtoC-ECの「物販系」「サービス系」「デジタル系」の3つの分野の2022年の市場規模の合計は22兆7,449億円となり、対前年比で約9%の伸び率であり、過去の推移を鑑みると大きく増加しました。

◆BtoC-EC 市場規模の経年推移(単位:億円)[図表 4-7]

2020年以降、新型コロナウイルスの影響により、特に飲食サービス、旅行サービス、チケット販売などのサービス系分野は急激に落ち込みましたが、2022年にはサービス系も復活しつつあり、物販系分野とあわせて伸長しました。しかし、3分野の中ではデジタル系分野だけが落ち込んでしまいました。

それでは次に物販系、サービス系、デジタル系の各分野のEC市場規模を見てみます。

国内BtoC-ECの3つの分野(物販系、サービス系、デジタル系)の動向

「物販系」「サービス系」「デジタル系」の各分野の内訳は以下のとおりです。

◆物販系分野のBtoC-EC市場規模[図表 1-1]

◆サービス系、デジタル系分野のBtoC-EC市場規模[図表 1-3]

◆各分野の2022年のEC市場規模と伸長率(2021年の伸長率)

・「物販系分野」:13兆9,997億円、伸長率5.37%(前年度:8.61%)
・「サービス系分野」:6兆1,477億円、伸長率32.43%(前年度:1.29%)
・「デジタル系分野」:2兆5,974億円、伸長率▲6.10%(前年度:12.38%)

BtoB-EC全体の伸び率は、約9%であり昨年の7%よりも伸びました。物販系分野及び、サービス系分野が伸びましたが、デジタル系分野がマイナス成長となり、市場規模を縮小しました。

2020年に新型コロナウイルス感染症拡大の影響でマイナス成長に転じた「サービス系分野」ですが、2021年以降はチケット販売やフードデリバリーの市場規模が拡大し、前年比で+32.43%と大きく伸ばしました。

2022年のデジタル系分野の市場規模がマイナス成長となったのは、ゲーム業界で特需でもあった「巣ごもり需要」がおさまったことがマイナス成長につながったのだと考えられます。

ここからは、「物販系」「サービス系」「デジタル系」の各分野の動向を詳しく見ていきましょう。

A.物販系分野

物販系分野においては、以下の3つの切り口で、それぞれ解説します。

A-1:物販系分野の伸長率上位3つの業界
A-2:物販系分野のEC化率上位3つの業界
A-3:物販系分野のEC市場規模上位3つの業界

A-1:物販系分野の伸長率上位3つの業界

◆国内BtoC-ECの物販系分野の業界別伸長率(伸び率)

引用:経済産業省令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2023年8月発表)、「令和3年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2022年8月発表)、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2021年7月発表)より筆者作成

物販系分野のEC市場規模の伸長率は前年比5.37%で、2021年(前年比8.61%)と比べると伸び率が鈍化することとなりました。物販系分野における2022年のEC市場規模伸長率の上位3位の業界は以下のとおりです。

◆物販系分野の2022年EC市場規模伸長率トップ3

1位:「食品、飲料、酒類」 9.15%
2位:「化粧品、医薬品」  7.48%
3位:「自動車、自動二輪車、パーツ等」 5.55%

1位の「食品、飲料、酒類」業界では、コロナ禍での外出自粛などにより、オンラインサービスを利用する消費者が増えたことでEC化が促進されました2022年になると伸び率は鈍化したものの、ネット注文で食品や飲料を買う行動が広まりつつあるのはEC業界にとっては良い流れと言えるでしょう。

しかし、この業界は国内においてはスーパーやコンビニなどの実店舗における利便性が圧倒的に高いため、家電やアパレル分野のような高いEC化率を望むことはできないと筆者は考えます。

2位の「化粧品、医薬品」業界では、特に医薬品業界のEC市場が活性化しています。2014年6月12日に薬事法の一部改正法が施行されたことで医薬品のインターネット販売範囲が拡大したところに、2020年以降のパンデミックによりECを利用する人が一気に増えたことが要因として挙げられます。

しかし、2023年には景品表示法の改正、いわゆる「ステマ規制」が始まります。これにより、企業は商品の口コミ(SNSを含む)に関して、口コミに対する指示やインセンティブを支払う行為に関して「PR表記」や「企業と口コミをした人の関係性の明示」が求められるようになり、ECでの販売に多大な影響を及ぼすことが予想されます。

参考:消費者庁「令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります。

A-2:物販系分野のEC化率上位3つの業界

◆国内BtoC-ECの物販系分野の業界別EC化率

引用:経済産業省令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2023年8月発表)、「令和3年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2022年8月発表)、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2021年7月発表)より筆者作成

◆物販系分野の2022年EC化率トップ3

1位:「書籍、映像・音楽ソフト」 52.16%
2位:「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」 42.01%
3位:「生活雑貨、家具、インテリア」 29.59%

上記の3つの業界は、5年連続でトップ3にランクインし続けています。いずれも、もともとECとの相性が良い業界でしたが、2020年以降のコロナ禍の巣ごもり需要でさらに利用者を増やしています

1位の「書籍、映像・音楽ソフト」、2位の「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」の2つの業界は、消費者はあらかじめ欲しい商品を決めていることが多く、実店舗とEC店舗のどちらで購入しても商品自体の価値は変わらないという特徴があります。

そのため、型番(あるいは品番)さえ分かれば、インターネットで複数店舗のサービスや価格を比較し、消費者は最も気に入った店舗で購入できるため、ECと非常に相性が良い業界です。特に、家電業界は企業、消費者ともにEC利用指向が高い傾向があり、EC化率は4割(42.01%)に達しています

3位の「生活雑貨、家具、インテリア」業界については、ニトリや無印良品などの動向だけを見ても、まだまだ成長の余地がある業界だと筆者は考えています。

「生活雑貨、家具、インテリア」業界では各企業が積極的にECアプリを開発するなどしてインターネット販売を促進していますが、企業の先進的なデジタル化に消費者のマインドがまだ追いついていない面もあってか、実店舗での購買比率が依然として高い状況です。

A-3:物販系分野のEC市場規模上位3つの業界

◆国内BtoC-ECの物販系分野の業界別市場規模

引用:経済産業省令和4年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2023年8月発表)、「令和3年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2022年8月発表)、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2021年7月発表)より筆者作成

◆物販系分野における2022年EC市場規模トップ3

1位:「食品、飲料、酒類」 2兆7,505億円
2位:「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」 2兆5,528億円
3位:「衣類・服装雑貨等」 2兆5,499億円

EC市場規模の順位は昨年と変わりがありません。

「食品、飲料、酒類」は市場規模が大きい産業のため、EC化率は低くてもEC市場規模は大きくなります。コロナ禍以降ECで食品・飲料を購入する新しい層も徐々に増えており、今後もEC利用者は増え続けEC化率自体も徐々に上昇していくと考えられます。

3位の「衣類・服装雑貨等」(アパレル)業界は、Instagramとの相性が良いため、多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーが立ち上げたブランドや話題となった企業への関心が集まりやすく、消費者のレスポンスも比較的早い段階で表れやすい傾向があります。

ユニクロ、ZOZOTOWNなどのファッション通販大手がしのぎを削っている市場のため、デジタルを駆使した新しい仕組みやサービスが次々に打ち出されています。常に最先端の取り組みに挑戦し続けているアパレル業界は、国内BtoC-EC市場全体のデジタル技術の向上にも一役買っていると言っても過言ではないでしょう。

B.サービス系分野

サービス系分野には、「旅行サービス」「飲食サービス」「宿泊サービス」などが含まれます。

◆サービス系分野のBtoC-ECの市場規模[図表 4-21]

サービス系分野のBtoC-ECの市場規模(2022)

「旅行サービス」「飲食サービス」「チケット販売」の3つのサービスでは、コロナ禍のネガティブな影響を大きく受けた2020年の市場規模がかつてないほどのマイナス成長となりましたが、パンデミックが収束したことで、経済活動と消費者行動が活性化したことにより2022年には急激な回復が見られました。

「旅行サービス」はEC化にいち早く取り組んできた業界の一つです。いつでも手軽に航空券や宿泊先を予約できるインターネット予約やチケットレスサービスなど、消費者の利便性が高いサービスを提供しています。

さらに「エクスペディア」や「じゃらんnet」などのインターネット旅行代理店(OTA:Online Travel Agent)の台頭が、BtoC-ECの利用率を押し上げました。

とはいえ、対面予約の需要も根強くあり、消費者ニーズはECと実店舗の二極化が進んでいましたが、コロナ禍を機にEC利用へ移行した消費者も少なくないと思われるため、今後はEC利用率が増加していくのではないでしょうか。

しかし、旅行サービスにおいては、業界の成長率に歯止めをかけかねない大きなニュースが2023年にありました。世界最大手の旅行予約サイトのブッキングドットコムにおいて、ブッキングドットコム経由で予約した宿泊代金の入金が遅延するという事態が発生しました。

参考:東洋経済オンライン「旅行予約サイト最大手でまさかの『入金遅延』騒動」(2023年8月31日掲載)

このため、資金力が弱い小さな宿泊施設には多大な影響があったのではないかと考えられます。地方の宿泊施設は都心のサービス業とは異なり、一度廃業になってしまうと、人手不足のため、新しい宿泊施設が誕生しにくい面があります。そのためブッキングドットコムの一過性のシステムトラブルであっても、地方観光に大きな影響を及ぼすことにつながるのです。

「飲食サービス」では、コロナ禍の前からインターネット予約の利用率が増加していました。「食べログ」や「一休.com」などのレストラン予約サービスサイトでは掲載店舗も充実しており、予約も簡単に行えます。また、外食産業はコロナ禍の影響を最も大きく受けている業界の一つでしたが、パンデミック後に急激に市場が拡大しております。

しかし、飲食サービスにおいても社会問題が発生しております。口コミサイトの評価基準に対する疑念についてです。

参考:ダイヤモンド・オンライン「食べログ『高評価はカネ次第』疑惑勃発、騒動の原因はどこに?」(2020年2月18日掲載)

このようなこともあり、特に若い世代には口コミサイトよりも、SNSの投稿の方が信ぴょう性があるとされており、俗に言う「食べログ離れ」が進んでいる印象です。

参考:プレジデントオンライン「若者の『食べログ離れ』が止まらない…信用をどんどん失いつつある”口コミビジネス”の正念場」(2022年2月1日掲載)

「チケット販売」は、BtoC-ECとの相性が極めて良いサービスの一つです。近年は、チケットの転売を防ぐために本人認証の仕組みを備えた電子チケットの採用も増えつつあり、電子チケットをスマートフォンと組み合わせて使用することで、他人への譲渡を制限できます。今後も「チケット販売」のEC化はますます進化していくでしょう。

「金融サービス」では2020年以降のコロナ禍で投資を始める人が増えたことに加え、ビットコインなどの仮想通貨取引が再び過熱したことで急激に伸びましたが、2021年以降は、市場拡大が鈍化しております。金融業界はEC化にもいち早く取り組んできました。新たな電子サービスを提供することも、もちろん効果的ですが、この業界では投資家や市場の動きの方が、市場規模に大きく影響することとなります。

C.デジタル系分野

デジタル系分野には、「電子出版(電子書籍・電子雑誌)」「有料音楽配信」「有料動画配信」「オンラインゲーム」サービスなどが含まれます。

◆デジタル系分野のBtoC-EC市場規模[図表 4-23]

デジタル系分野のBtoC-EC市場規模(2022)

デジタル系分野の市場規模の拡大には、データ通信サービスの定額プランが充実したことなども影響していると考えられます。通信キャリアやMVNO各社から定額で大容量データ通信が可能なプランや格安SIMなどが提供されるようになったことで、データ通信料を気にすることなく、リッチコンテンツを視聴できる環境が整いました。

「有料動画配信」サービスでは、AmazonプライムやNetflixなどの大手各社が魅力的なオリジナルコンテンツを製作して会員向けに配信しており、従来であれば人々がテレビ視聴に使っていた多くの時間が、動画視聴によって奪われつつあります。

ドン・キホーテよりテレビ視聴ができない、チューナーレステレビが販売され、さらにニトリもチューナーレステレビを販売するなど、大画面でネット動画を見たい層の関心を集めております。このような動きが進むと、さらにテレビ離れが加速するのは間違いありません。

参考:ITmedia ビジネスオンライン「“NHK受信料を支払わなくていいテレビ”を製品化 ドンキの狙いは?」(2022年1月6日掲載)

2022年は「電子出版」「有料音楽配信」「有料動画配信」で市場規模が伸長しましたが、「オンラインゲーム」で大幅にマイナス成長となり、デジタル系分野全体の足を引っ張る形となりました。パンデミックが落ち着きを見せ、人々の消費行動に変化が出たことで、昨今巣ごもり需要でけん引していたゲームの市場にも強く影響したことが考えられます。

参考:アスキーゲーム「2022年はゲーム市場が初の減退!?その実情とゲーム業界の未来を浜村氏が語ったオンラインセミナーレポ」(2023年7月20日掲載)

また、オンラインゲームをはじめとするコンテンツサービス市場は、メガヒット作品を生み出せるか否かで市場規模が激変する分野です。

国内CtoC-EC(フリマアプリ、ネットオークションなど)の市場規模

◆CtoC-EC推定市場規模[図表 5-1]

CtoC-EC推定市場規模(2022)

メルカリなどのサービスに代表されるCtoC-EC市場は、コロナ禍の影響で伸長率が2020年は12.5%、2021年は12.9%となり、再び活性化していましたが、パンデミックが落ち着きを見せた2022年になると、伸び率が6.8%と伸び率が鈍化してきました。

フリマアプリの画面操作性が向上したことで、スマートフォンを使用して誰でも簡単に出品できるようになりました。また、テレビコマーシャルなどを通じて多くの人々に認知されたことで、フリマアプリサービスは一気に普及しました。

参考:ニッセイ基礎研究所「コロナ禍で増えるフリマアプリの利用-牽引役は学生など若者と子育て世帯、シニアでもじわり増加」(2021年9月24日掲載)

その一方で、フリマアプリサービスの新たな市場では法整備が追いついておらず、現金や入金済みICカードが出品されるなどの不当な行為が過去に発生したこともあります。また、フリマアプリが転売屋の高額転売のための場となっていることが問題視されております。

各業界では個別に転売屋対策が実施されており、例えば家電量販店「ノジマ」では、プレイステーション5の箱に、購入時にマジックペンで名前を書いてもらうなどの徹底した対策が話題となりました。

参考:ねとらぼ「『PS5購入者は箱に名前を書いてもらう』ノジマはなぜ転売ヤーを許さないのか? 苛烈な転売対策の背景を担当者に聞いた」(2021年10月26日掲載)

筆者の個人的な経験ですが、人気のスニーカーの復刻販売があった際、ネットの抽選販売に申し込んだり、店舗に朝早くから並んだりなどしましたが、一度も購入できたことはありませんでした。そんなとき、フリマアプリを見ると、売り切れたばかりの商品が高値で販売されていました。このような経緯から筆者は、スニーカー収集という趣味自体やめてしまいました。このような方は少ないないのではないでしょうか?

ほとんどの転売行為自体は法令に違反するわけでもなく、また「定価を上回る費用を出してでも絶対に購入したい!」という方の役に立っている面もありますが、転売行為が広まると、一般の方が入手困難なことから、買い求めるのを諦める人が増えるのではないかと筆者は考えます

フリマアプリ側でも、メーカーと連携して転売屋対策が実施されつつあり、このような努力が引き続きプラットフォーマーには求められるのではないでしょうか。

参考:インサイド「『ポケカ』転売を巡って公式が対策を強化―メルカリと連携協定を締結、最新パックは異例の“発売前から受注生産”へ」(2023年6月13日掲載)

スマートフォン経由の物販系分野のBtoC-EC市場規模

◆スマートフォン経由の物販のBtoC-EC市場規模の直近8年間の推移[図表 4-16]

スマートフォン経由の物販のBtoC-EC市場規模の直近8年間の推移

ひと昔前までは、パソコンと比べスマートフォンでは文字を入力しづらかったり、場所によって通信が不安定になったりする点が、スマートフォンを利用したEC購入の障壁となっていました。

しかし、現在は通信環境が整備され、大画面サイズの端末もそろっており、さらにスマートフォンが普及したことで“操作慣れ”も進んだことで、スマートフォン経由の物販系分野のBtoC-EC市場規模は拡大しています。

消費者の日常にスマートフォンが浸透したことで、電子マネーやクレジットカードによる決済への抵抗感よりも利便性を求めるニーズのほうが高まっている点も、スマートフォン経由の市場規模拡大を後押ししています。

スマートフォン経由の物販系分野のBtoC-EC市場規模は、2021年に全体の5割以上を占めています。今後、スマートフォン経由の消費行動が減ることは考えづらいですが、高額商品の物販購入や入力項目の多い旅行サービスなどはパソコン経由で購入したいというニーズも一定数あるため、市場規模は現在の5割前後で安定するのではないかと筆者は考えています。

EC市場規模拡大がもたらした“物流”における課題

コロナ禍の在宅勤務や巣ごもり需要によりオンラインサービスの利用機会が増えたことでネットショッピングの利用が急増しましたが、令和3年までの宅配便取扱個数の推移(下図)を見ると、コロナ禍の前から宅配便取扱個数が増加し続けていることが分かります。

◆年度別宅配便取扱個数の推移(単位:億個)[図表 4-9]

年度別宅配便取扱個数の推移(令和4年)

ネットショッピングの普及とともに宅配便取扱個数が増加したことで、宅配事業者の人手不足や過重労働が社会問題化し、受取人不在による再配達コストなども注目されるようになりました。

そのような状況の中、2020年以降は再配達率がわずかながら改善しつつあります。

◆宅配便の再配達率の推移(2017年より国土交通省が実施しているサンプル調査)

・2019年10月調査時点:都市部16.6% 都市部近郊14.3% 地方11.5%
・2020年10月調査時点:都市部11.7% 都市部近郊11.2% 地方11.0%
・2021年10月調査時点:都市部13.0% 都市部近郊11.3% 地方10.4%

2020年、2021年ともに2019年と比べると、都市部、都市近郊、地方ともに減少していることが分かります。

2021年の報告書では、再配達率が減少傾向を示している要因として以下が挙げられています。

◆2020年以降の再配達率の減少に影響したと見られる要因

✓コロナ禍のステイホームによる消費者の在宅率向上
✓店舗受け取りや宅配ロッカーの利用などの「クリック・アンド・コレクト」の浸透
✓置き配の一般化

出典:経済産業省令和3年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2022年8月発表)

再配達による負荷の削減については改善傾向が見られるものの、配送ドライバーの人手不足や高齢化など物流の問題は残されており、今後のEC市場規模拡大におけるボトルネックとなる可能性があります。

参考:LogisticsToday「幹線輸送ドライバー不足の深刻化不可避」(2021年7月20日掲載)

インターネット取引ではクレジットカード決済が主流

◆インターネットを使って商品を購入する際の決済手段(時系列)

引用:総務省令和4年通信利用動向調査報告者(世帯編)(図表6-14)

最も利用されている決済方法は「クレジットカード払い」で利用率は前年を上回る75.9%でした。

2位以下は「コンビニエンスストアでの支払い」に続いて、「電子マネーによる支払い」が急激に伸びております。これは単に消費者の利用が進んでいるだけでなく、EC事業者も「ID決済」(Amazon Payや楽天ペイなど)の導入が進んだためではないかと、筆者は推測しています。

クレジットカード決済の不正利用

◆クレジットカード不正利用被害の発生状況[図表 4-13]

クレジットカード不正利用被害の発生状況(2022)

以前からクレジットカード利用者の個人情報の漏えいは社会問題化していましたが、クレジットカード決済の利用率が高まるにつれ、個人情報の漏えいリスクはますます高まっています。

経済産業省の指導のもとでクレジット取引セキュリティ対策協議会が取りまとめた「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画」(現行の「クレジットカード・セキュリティガイドライン」の前身文書)により、EC事業者に対しては2018年3月までに、原則として「クレジットカード情報の非保持化」を推進し、保持する場合は「PCI DSS準拠」に対応するよう求められました。

関連記事:ECサイト事業者行うべきセキュリティ対策を徹底解説!PCIDSSへの準拠が必要な理由とは?

2018年6月に施行された改正割賦販売法では、ECでの不正使用対策とカード情報漏えい対策が義務化されています。ECシステムのクレジットカード決済システムの変更が必要となり、EC事業者の責任ある対応が求められています

広告費のメインが「テレビ」から「インターネット」に移行

◆広告費全体に占めるインターネット広告費の比率(単位:億円)[図表 3-10]

広告費全体に占めるインターネット広告費の比率(2022)

近年、テレビ広告費が緩やかに減り続ける一方で、インターネット広告費は飛躍的に増加しています。そして2019年には、インターネット広告費がテレビ広告費を初めて上回りました

参考:朝日新聞デジタル「ネット広告費、初めてテレビ抜く 2019年2兆円超え」(2020年3月11日掲載)

インターネット広告費が増えることでインターネット通販の市場規模が拡大し、EC化率の伸長にもつながります

上のグラフでは、コロナ禍の影響で2020年の広告費総額は落ち込んでいますが、そのような中で、インターネット広告費は増加していることが分かります。

インターネット広告では「何人のユーザーが広告を見て、その内の何人が購入したか」という具体的な効果を測定できます。効果が分かりづらいオフライン広告よりも、費用対効果が明確に示されるインターネット広告のほうが事業者にとっても有益です。これからの広告はインターネット広告を中心に構成されていくだろうと筆者は予想しています。

国内BtoB市場のEC化率は37.5%

◆BtoB-EC市場規模の推移[図表 6-3]

BtoB-EC市場規模の推移(2022)

2020年は新型コロナウイルス感染症の流行拡大の影響を受けて国内のBtoB-EC市場規模も縮小しました。しかし、EC化率を見ると2021年には35.6%、2022年には37.5%と堅調に伸び続けていることから、EC化が進みインターネット取引が増えたのではないかと推測できます。また近年多くの企業がDXの取り組みを推進していることも、EC化率向上を後押ししていると考えられます。

2022年の市場規模は420兆円と非常に大きく、業種別の内訳を見てもEC化率は上昇しています(業種別の内訳は後ほど詳しく解説します)。その背景には、ECシステムを提供する企業の多様化や、BtoBに特化したASPサービスの登場などにより、EC事業者がECサイトをより効率的に運用できるようになったこともあるでしょう。

ただし、報告書が示すEC化率(2022年は37.5%)には、EDI(※)等の受発注システムも広義の解釈でECと分類されているため、数値が高めになっている点があります。

※EDI(Electronic Data Interchange)は、企業間商取引に関する帳票や文書(注文、請求、決済など)を電子データで交換するための仕組みです。

EDI等の受発注システムにはさまざまな制約があり、時流に合わせたマーケティング施策を実行することが難しいなどの理由から、EDI専用システムを廃止してECシステムやWebシステムでEDI機能を代替・実装する方法を検討している企業も少なくありません

また、2024年にはNTT東日本およびNTT西日本のISDN(INS)回線サービスの「INSネット」の廃止が決まっており、国内の多くのEDIで使われているINSネットからのネットワーク移行のタイミングに合わせて、システム改修やリプレースを検討する企業が増え、その結果、DX化が進み、BtoB-EC市場はより大きく成長することが見込まれます。

EDIについては関連記事で詳しく解説しています。

関連記事:7つのポイントでEDIをやさしく解説!EDIの必要性と課題

BtoB-ECサイトの構築・リニューアルの際は、EDIのEC移行に必要なカスタマイズも可能なクラウドコマースプラットフォーム「ebisumart」もぜひご検討ください。

BtoB向けECサイト 構築・導入(ebisumart)

続いて、国内BtoB-EC市場規模の業種別の内訳を見ていきましょう。

◆BtoB-EC市場規模の業種別内訳[図表 6-4]

BtoB-EC市場規模の業種別内訳(2022)

2022年にEC化率が伸長した背景としては、2021年に続き世界的に景気が回復する中で、設備投資に対する企業の意欲が高まっていることで企業間取引が増加しているのではないかと推察されています。

参考:三井住友銀行グローバル経済と主要産業の動向(2022年度上期)」(2022年8月発表)

「建設」部門では、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会による好景気が続いており、2020年、2021年ともにEC化率が上昇しましたが、2022年は落ち着きを取り戻したという印象です。

「情報通信」部門では、コロナ禍の影響による開発遅延等はあったものの、リモートワーク環境構築やDX関連の需要が増加しています。しかし、多くの現場ではスキルを備えたエンジニアが不足しており、需要に対して供給が追い付かない状況が続いています。

「卸売」部門では、2020年に市場規模が大幅に縮小しましたが、2021年以降は経済活動が動き始めたことに伴い市場規模が回復し、2022年にはその動きが落ち着きました。今後はEDIの2024年問題(ISDN回線の廃止)により、インターネット回線が普及するため、この分野のEC化率は2024年に大きな動きを見せるのではないかと予想します。

最後に

コロナ禍の2019年はEC業界にとっても歴史的な年となりました。コロナ禍をきっかけに多くの人々がオンラインサービスを体験することになり、結果として2022年においても国内BtoC市場のEC市場は増加傾向、さらなる成長につながる結果となりました。

これまで以上にリアルとデジタルの両立が求められている企業にとって、消費者の期待に応えるサービスをいかに提供していくかが重要になります。

さまざまな分野のEC化率を高めることは、少子高齢化が進む日本社会の効率化と活性化にもつながります。政府、企業、消費者それぞれが、デジタル化に対してポジティブに取り組むことが大切だと筆者は考えています。

この記事を読んだ方にもできることはあります。それはECで買い物をした際は、なるべく再配達が必要のない届け先や時間帯を選択することで配送の負荷を減らすことです。こういった社会的課題は一人一人が取り組んでいくべきでしょう。

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井幡 貴司
forUSERS株式会社 代表取締役。 株式会社インターファクトリーのWEBマーケティングシニアアドバイザーとして、ebisumartやECマーケティングの支援、多数セミナーでの講演を行う。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。